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伯爵令嬢の禍福得喪は舞踏会の音楽と共に(27)

 回廊を通り抜けると、ちょっとした広間ほどもある踊り場にでる。

 ユージェニーはクロヴィスの後に続いて扉をくぐった。

 ゲオルク殿下が「有意義な時間であった」と言えば随行は終わりだ。

「また、後で」

 コンラート殿下が名残惜しそうにレディ・ナターリアに声をかけて、お手を離された。

 ビヨンヌ伯爵もレディ・エマに短い挨拶をして腕を離し、すかさずゲオルクの脇に控えた。

 ビヨンヌ伯爵が現れた後は学芸員の説明を大人しく拝聴するだけになった。


 その少し前までは、みな活発な意見を交わしていましたのに。


 ユージェニーは、少し残念に思う。

 両殿下達と会話ができる、それもさほど気負うことなくできることなど、社交嫌いの彼女にとって稀有なことだったから。

 けれど、これまた、普通なら近づくこともできない宮宰を近くで観察できることも、貴重な機会と思い直した。


 両殿下と宮宰を見送ると、緊張の糸がほぐれたのか、一同の空気が緩む。


「ゲオルク殿下はお噂通り、麗しい方ですわね」

 ミフィーユがフロランスに向かって言った

「コンラート殿下もナターリア様がおっしゃっていた通り、愛らしい方でしたわ」

 フロランスはすでにデビュタントでゲオルク殿下にお目通りしていたためか、コンラート殿下について触れた。

 二人の会話に耳を傾けてみる。


「ゲオルク殿下は王太子様だけあって、美しいだけでなく、それにふさわしい風格がお有りでしたわ」

 ミフィーユが言えば。

「コンラート殿下は、明るく素直でいらっしゃいましたわね。それでいて、王家の気品を損なうことなく」

 フロランスが答える。


 この思わぬ会合で、ミフィーユはゲオルク殿下を、フロランスはコンラート殿下をより印象的に思ったらしい。


 では、自分は?

 ユージェニーは自問してみる。


 ゲオルク殿下は、容姿、立ち居振る舞いもさることながら、明晰な頭脳を持っておられると感じた。

 コンラート殿下は言動は無邪気。お年のせいもあるかもしれないが、本来の気質も、まっすぐな方なのだろうと感じた。

 クロヴィス様ほどではないが、賢さも十分にもっておいでだった。

 どちらの王子もそれぞれが魅力的で、人を惹きつける。


 でも、ユージェニーの中で、一番印象に残ったのは、宮宰のレイモン・ビヨンヌ伯爵だった。

 壮年の男性だからか、パリシア仕込みだからか。洗練された紳士というのは、こういう人のことをいうのだと思った。

 レディ・エマのエスコートの仕方も巧みで、気の利いた冗談で、彼女を何度か笑わせていた。

 レディ・エマはああいった、大人の男性が好みなのだろうか?

 レデー・エマを視線を巡らせて探すと、彼女はクロヴィスと一緒に一団から少し離れたところにいた。

 ユージェニーは気になって二人に近づいた。


「宮宰様とお話が弾んでいらっしゃいましたね」

 ユージェニーがまさに聞きたいことを、クロヴィスが尋ねた。

 アルトブラン家の令嬢は、少し考えるように間をおいた。

「ええ、楽しませていただきましたわ」

 レディ・エマは、ビヨンヌ伯爵への態度をみても、ユージェニーとは比較にならない大人の貴婦人だ。

 その貴婦人をして、楽しませてもらったと言わしめるとは。

 レイモン・ビヨンヌ伯爵は、四十歳前の男盛りだが、独身。

 歳は離れているが、レディ・エマの結婚相手としても十分すぎるほど、お似合いだ。

 ユージェニーは普通にそう思った。


「楽しませていただいた?」

 しかし、クロヴィスはそう思わなかったらしい。

 彼はレディ・エマの言葉を繰り返し、彼女を見つめた。


 数年後のクロヴィス様は視線だけで、女性を口説けそうですわ。


 思わず、そんなことを思ってしまう強い眼差し。

 そんな眼差しに負けたのか、レディ・エマが屈んで何事か言った。

 近くにいたユージェニーの耳はかろうじてそれを捉える。


「宮宰様は女性を楽しませるのがとてもお上手。そして、楽しませる自分が楽しいのだと思いましたわ」


 ユージェニーは足を止めて、レディ・エマの言ったことの意味をしばし考えた。


 つまり、それは女性との会話自体は、本当には楽しんでいないということではないだろうか。

 宮宰様は女性に優しく、女性がお好き。女性も宮宰様がお好き。

 でも、心が真実伴っていないならば。

 そばにいるときは良いけれど、離れているとき、女性は不安になるだろう。

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