伯爵令嬢の婚約破棄は教会の鐘と共に(5)
「バイアール公爵は策士だね」
次兄のウィリアムが言った。
「策士ではなくはなく、篤志家でいらっしゃるのでは?」
ユージェニーは兄の意見に疑問を差し挟む。
彼女はナターリアの志に感動し、バイアール公爵がその後押しだけでない、広い視野を見据えての提案に感激していた。
「そう言う面も確かにあるだろうけれど、ユージェニーは、二人に対しては、理性より感情を優先しているね」
少々、皮肉屋なきらいがあるウィリアムらしい話し方だった。
晩餐会では、別人のように大人しくしていらっしゃいましたけれど。
海軍士官であるウィリアムは海風に鍛えられて、精悍な印象を人に与える。
オリヴァーに似た磊落な笑顔は人好きするが、長兄と違って、やや装っている風に、妹のユージェニーには感じられる。
海軍に入るまでの、比較的ほっそりとしていた少年期を知っているからかもしれない。
牧師や医者になるかと思っていたウィリアムが軍人になること決めた時は、家族揃って驚いた。
父などはお前には向いていないとはっきりと言ったくらいだ。
しかし、ウィリアムの決意は固く、士官学校に入り、さらにはパリシアのル・アーブルに一年の留学を果たしている。
ただ、学生時代は優秀とされていたが、実際の海軍では、まあまあと言う評価らしく、出世は早いとは言えない。
このように皮肉屋なところが、出世に影響しているのではないかと、ユージェニーは兄を見た。
「まあ、人を遠ざけていたお前が、こうして他家で一月も滞在するほどになったのだから、ナターリア嬢には、私も感謝しているけれどね。でも、バイアール公爵への評価は変えないよ」
ウィリアムは、持ち込んだジンを口に含んだ。
頼めば、バイアール公爵家が用意してくれるはずだが、上品とは言えないジンを頼むのは気が引けるそうだ。
変なこだわりだとユージェニーは思う。
「これがお前がいつも飲んでる酒か」
オリヴァーは小さなグラスでちょっとずつ口に含んでいた。
実はユージェニーも一なめしてみたが、あまりに強くて受け付けなかった。独特の香りは嫌いではなかったけれど。
夜も更けたオリヴァーの寝室で三人が揃って会話しているのは、晩餐会でのバイアール公爵の話に興奮して眠れないからだ。
斜に構えていらっしゃるけど、ウィリアム兄様だって、刺激されていますわ。
「で、どこら辺が、バイアール公爵を策士と言う理由なのだ」
のんびりした口調でオリヴァーがウィリアムに説明を求めた。
「まず、今回の招待客の顔ぶれだ」
タジネット侯爵夫妻、フレミア侯爵、ソールズ伯爵一家、ギルノース伯爵夫妻。デリトリー子爵一家、ハミルトン子爵。ダルバーグ男爵。チェンバレン男爵一家。庶民院のジョンマスター一家、バーラム夫妻。バイアール公爵の盟友と言えるロッドウェル氏。
新興富豪のカーランド家とアーチボルト家。
「そして、学者陣。中でもクラーソン氏は平等主義を標榜してらっしゃる。女主人役は、娘しかいないレディ・ジェーン。亡くなられたご夫君の爵位も財産も継ぐことは出来なかった方だ」
晩餐会に出席されたのは四十名あまり。
「まず、タジネット侯爵より身分の高い貴族は招いていない。必然的にバイアール公爵がエスコートするのは、レディ・ミランダになる。晩餐会の席位も隣同士に。そこへバイアール公爵は、ナターリア嬢の官吏志望という一石を投じる。誰であっても、女性官吏を目指すことをアイアン・レディは賛同したろうが、ナターリア嬢は、代々、黄金の心を持つと言われる、篤実なゴールディア伯爵家の令嬢だ。しかも、両親も承知のうえ。その影響は多大だ。レディ・ミランダはそれを直ぐに理解し、最大の賛辞を贈りつつ、ナターリア嬢の退路を絶った。自分が理想とする女性の社会進出のために」
ウィリアムは軽く肩をすくめた。
「それなら、言い方は悪いが策士なのはレディ・ミランダなのではないか」
オリヴァーは、飲み物を水のグラスに変えていた。
「そうなることをバイアール公爵は読んでいた、と思うね。ナターリア嬢がアイアン・レディの励ましに感激することも含めて」
「バイアール公爵は純粋に婚約者であるナターリア様を応援したかったから、お話を進めたのだと思うのですけれど」
不満そうになるのをユージェニーは押さえられない。
「我が妹が純真で嬉しいよ。バイアール公爵がナターリア嬢の後押しをするのは、彼女の風当たりを軽減することにもなるが、政治家として判断し、自らの名声を上げるためでもある。近しい一人ためではなく、国民のために考える人物としてね。ギルノース伯爵は、植民地独立戦争の時に内閣を率いて、女性官吏誕生をしぶしぶながらも認めた方だ。戦争に負けたので辞職されたが、今回の件は、政治的名誉の回復にはもってこいだ。そしてバイアール公爵は一千ポンドと言う絶妙な金額を提示してきた」
空になったグラスにやや粗雑にジンを注ぐウィリアム。
「ウィリアム兄様のおっしゃった通り、大金ですわよね」
「年収五千ポンド強の我がフロリッツ家にとってはね。だけど、年収十万は下らないだろうバイアール公爵家なら、今日集めた金額を一人で賄えるだろうよ。だが、今夜の顔ぶれなら、あまり考えなくても、出せる金額をあえて提示してきた。だから俺はその十分の一を申し出た」
「お前の俸給なら、半年分だろう。バイアール公爵に賛同したから、無理して出したのだと思ったのに。だから、私も五百ポンドを寄付すると言った」
オリヴァーが珍しく悲しげな顔をした。
フロリッツ家にとっては五百ポンドはなかなかの大金だった。
当主ではないオリヴァーが出せる最大限の金額だと思う。
「賛同はしていなくもない」
「いったいどっちなのだ」
「バイアール公爵の進歩的な考えは素晴らしいし、今日の回りを巻き込む手際も見事なものだ。それに、ユージェニーだって、挑戦したくなると思って。けれど」
「けれど?」
オリヴァーが言葉尻を繰り返した。
「レディ達があまりに自立すると、俺達みたいな次男、三男は花嫁の来てがなくなるかもしれない」
意外すぎるウィリアムの意見にユージェニーとオリヴァーは吹き出してしまう。
「笑うなよ。これは歴史的な事実なんだぞ。古代のラーム帝国でも問題になって、時の皇帝が女性の相続権を制限したくらいなのだからな」
ユージェニーはウィリアムの話に嘆息する。
「女性の相続権が認められなくなったのは、女性に結婚したいと思わせる魅力がない男性が多かったからなのですわね」
ウィリアムがジンを一気にあおった。
ユージェニーはいささか同情を感じる。
結婚に至る道が大変なのは、女性余りの今の時代、実はユージェニーも他人事ではない。ウィリアムの言った通り、一つの手段として官吏を目指すのも視野に入れておきたい。
「真心を捧げれば、ウィリアム兄さまなら、女性も否やは言わないと思いますわ」
ユージェニーは身贔屓も含んで兄を慰めた。
「女性は現実的だからね。愛を語るにも金がいる」
「なら、無理して、百ポンドも出さなくて良かったのじゃないか」
オリヴァーがしごく現実的なことを口にした。
「副艦長達から陸に上がる前にカードで百五十ポンド巻き上げたからね。それは大丈夫」
ウィリアムお兄さまの出世が遅いのは、カードゲームに強いせいかもしれませんわ。
再び嘆息するユージェニーだった。
◇◇◇◇
立ち上る湯気から紅茶の香り。
マッフィンは熱々で、たっぷりのバターが添えられている。
小さなタルトにはカスタードクリーム。
淑女たちの午後のお茶のために用意された部屋は愛らしい薄紅色の花を思わせる一室だった。
しかし、そこで交わされる会話はいつもの他愛ないものではない。
レディ・ミランダが官吏の採用についてのかなり立ち入った話をしてくれていた。
女性が官吏を目指すには、まず採用試験が行われる。
アンゲリア語、国際語であるパリーシャ語の読み書き。
算術に出来るなら初歩の数学。そして、基本的な教養と礼儀作法。
「初級の事務員として雇われるならさほどの知識は必要がありません。淑女として育てられたなら、大抵の女性が身に付けているでしょう」
レディ・ミランダの声は落ち着いていて、ナターリアの耳に心地よく響く。
淑女のためのお茶会といっても、紳士も幾人かいる。彼らの多くはバイアール家の馬に興味があるようで、連れ立って馬場に向かい、馬に興味がないものは、プレイルームでカードやビリヤードえをしたり、散策をしたりしている。
アーサーの姿もなく、同席しているのはフロリッツ家のオリヴァーとウィリアム。オースティン、
カーランド家はご夫妻でいらっしゃるが、アーチボルト家は夫人だけがおいでだ。
「わたくしは男の方と同じくらいの知識が必要だと思っておりました」
ナターリアがクロヴィスと同等の教育をと望んだのは、過分だったのかろうか。
「初級ならと申しましたでしょう?女性官吏は初級、中級、上級があります。初級と中級は最初の採用時に振り分けされますが、上級、官僚と呼ばれるには、働いたうえでの実績が必要になります。実績を積むには、相応の知識が無くては話になりません」
ナターリアの声にレディ・ミランダがすばやく反応する。
「初級と中級の差はどこからくるのですか」
質問した男性はロイス・カーランド氏だった。
「いくつかの基準がありますが、語学や数学の知識が優れていること。また、本人の家柄や推薦者のそれも考慮されます」
「階級によって区分されるのですか」
カーランド氏の声は落ち着いているが、かすかに落胆しているようにも聞こえた。
「もちろんです。政府の仕事に携わるのですから、身元の保証は当然のことです。けれど、それより重要視されるのは、実践的な技量や知識があることです」
「例えば、どのようなものですか」
今度はウィリアムが問いを発した。
「速記や会計についての知識、法律や経済に多少詳しければ、専門用語を覚えてもらう手間がはぶけますから、より重要な書類を任せることができます。したがって中級として登用される確率は高くなります」
ゴールディア家のロバートは速記ができる。
ナターリアは彼に速記を習っているところだった。
「それから、年齢や容姿ですね。年長で、少し品下る方のほうが採用される率は高くなります。例えば、社交界の花であるレディ・エマやマダム・テレーゼのような方はお断りされる可能性があります」
デビュタントしたばかりのナターリアは、自分の若さが障害になるとは思わなかった。
容姿については、自分はレディ・エマやマダム・テレーゼよりだいぶん品下っておりますから、及第でしょう。
ナターリアは自分の容姿は見られなくもないという程度で、美しく見えるとしたら、メアリーアンやマデリンの手腕にかなり負っていると思っている。
ユージェニー様はお顔立ちはよろしいけれど、装いが質素でいらっしゃるから。
ミフィーユやグレイシー様は王宮付の女官付が似合うということですわね。
「そんな基準があったのか。王宮の女官は華やかな大輪で、女性官吏は野辺の花のようだとは思っていたが」
オースティンは女官と女性官吏の容貌の差をそんな風に表現した。
「何より能力があることが優先されますが、官吏は直接、紳士方と接しますから」
ガヴァネスも年齢がかなり上で、品下る方を求める方が多いとナターリアは知っていた。
改めて考えると、マデリンはかなりな例外なのですわね。
だからこそ、アーサーは。
同じ部屋にいるマデリンの存在をナターリアは強く意識してしまった。
そんなこと考えてはいけません。
今はレディ・ミランダのお話に集中しなくは。
だが、一度意識してしまってからは、ナターリアはほんの僅か集中を欠いた。
だから、レディ・ミランダが、アーサーが提案した活動の立ち上げの補助と資金の管理を自分達でしてみたらどうかという意見に、なんのためらいも覚えず賛成してしまっていた。
しかも、基金の管理責任者という重要な役割を振られてしまい、それをナターリアは断ることが出来なかった。
お父様が財務次官を務めているからと言って、娘のわたくしが財務に詳しいわけではありませんのに。
ナターリアはほとんどお金を持ったこともない。
マデリンに付き添われて本を購入したのさえ、冒険と感じた。
ナターリアが必要とするものを購入する時は、昔から馴染んでいる商人が館にやってくる。そして並べてられたそこから選び、支払いはゴールディア家の名で行われる。
一番多くお金を触ったのは、アーサーとジャンブル・セールでレモネードを売った時だった。
ユージェニーの指輪の代金さえ、後から教会に届けさせたくらいだ。
さらに、会計学の教師はロンディウムに残っている。
「まず、どうしたら良いのでしょう?」
ナターリアは父のゴールディア伯爵に尋ねる。
「国の予算編成などとはまるで違うからね。まずは発起人であるアーサーと相談してみなさい」
「アーサー様に。でも、大勢のお客様がいらっしゃてますもの。お忙しいでしょうし」
「官吏になる勉強をしたいと言ったのはお前だろう?政府の仕事に後回しはない」
父が少し厳しい。
でも、仕事が山積みでも、シーズンが終われば、貴族の多くは狩猟に出掛けてロンディウムを離れてしまう。
お父様は、今回もすぐにロンディウムに戻られますけれど。
それはとても珍しい部類で、タジネット侯爵さえ、領地に二か月以上滞在するらしい。
「私がお手伝いできたら良かったのですけれど」
さすがのマデリンも、自らの収入と支出は記録しているが、組織における会計には詳しくない。
それに、マデリンは一週間でロンディウムに戻る。
ロイヤル・アカデミーの展覧会で入賞すれば、官吏にならなくても、彼女の名声は高くなる。
それが、二人の愛を結実させる道を開く可能性はある。
もともとがジェントリ階級なのだから、誰かの後見を受ければ。
官僚から叙爵を目指すより早道かもしれません。
「解かりました。自分の道を行くと決めたのですもの。少々苦手なことでも挑戦しなくてはいけませんわね」
「そうだ。それにお前には得難い友人もいる。アーサーに相談するのはもちろんだが、組織というものを目標を一つにするもの同士で考えて作ることは、いろいろな意味でためになる」
いつもの父親の顔とは違う、政務を司る者の顔がナターリアの前にあった。
◇◇◇◇
エルマー・アーチボルトがロイスに接触してきた。
てっきりアーチボルトは馬場へ行ったものだと思っていた。
彼は真に上流社会に食い込むべく、ダービーやアスコットで勝てる馬の馬主になりたいと動いているからだ。
その気持ちはよく解かる。
馬は貴族の象徴と言える。
古い戦争では身分高き者が馬に乗り、平民は歩兵だった。
馬に乗る戦士、騎士は特別視されて、一つの階級を作るほどになった。
貴族たちの馬への思い入れは今でも強い。
だから例え平民でも良い馬を持っていれば、社交界では持て囃される。
アーチボルトは近頃、小さいながら馬場を購入したと聞く。
名馬を数多く持つバイアール公爵から、一頭の子馬なりとも譲り受ければ、欣喜雀躍するに違いない。
余人がいないシガールームに二人はいた。
客人のために置いてある嗅ぎたばこやパイプ用の刻みたばこ、棚にはパイプが飾られていた。
たばこはアンゲリアの重要な貿易品だ。
美しい青いエナメルに金の象嵌がされた嗅ぎ煙草入れ。
パイプ用の刻みたばこも銀のポッドに入れてある。
その中で、ロイスの目を引く木の箱があった。テーブルの上に置かれた木の箱を空けると、あまり見かけない葉巻がナイフと共に入っていた。
「エスパニアからの輸入品ですか」
ロイスが営む保険取引所でも、嗅ぎ煙草やパイプを嗜む者は多いが、葉巻を吸っているものはほとんどいない。
「バイアール公爵は葉巻を好んでおられるのかな。では、良い葉巻をお贈りすれば喜ばれるでしょうな」
アーチボルトはバイアール公爵に取り入る事に余念がないようだった。
ロイスは葉巻の販売を自分のコーヒー店で販売することを思い立つ。
バイアール公爵が好んでいると、ウェイターから客に話をさせれば、すぐに流行になる。
まずは、購入先を抑えておかねば。
「ロイスは娘のレイチェルを呼びよせるそうだね」
アーチボルトがパイプをひと吹かしておもむろに言葉を出した。
ロイスは少し迷ってから、同じくパイプを選んだ。
「バイアール公爵がお許しくださいましたのでね」
「うらやましいことだ。うちには独身の娘がいないから」
「アーチボルト家のご姉妹は引く手あまたで、早々に嫁がれましたから。こちらこそ羨ましい限りですよ。うちの娘はレディ・ミランダのおっしゃっていた品下るというやつですからな」
娘は父親に似るというが、大柄なロイスに似て、レイチェルは背が並みより高く、体つきもがっしりしている。顔も親の贔屓目をもっても十人並みだった。
それでも、カーランド家の財産目当てで寄ってくる輩も多いが、できれば貴族の当主か跡継ぎをとロイス自身が選んで、一度はとある子爵家と縁を結べそうだったが、結局は子爵家の息子は、準男爵の令嬢と結ばれた。
準男爵とて平民だが、コーヒー店の主より世襲地主である準男爵のほうが、体裁がいいと判断したようだ。
それから、二年あまり。これと言った縁談はなく、レイチェルは二十歳を越えた。
「官吏になるまではいかなくても、王宮でお育ちになったレディ・ナターリアと一緒におれば、娘もいろいろと学ぶことも多いでしょうから」
あまりご自覚はないようだが、ナターリア嬢の動向は、社交界で注目を浴びている。
彼女の学友となれば、レイチェルにも箔がつくというものだ。
「バイアール公爵も人の子というか、ご婚約者にはお弱いご様子」
ロイスはしたり顔で洩らしてみる。
「ナターリア嬢のデビュタントの際に、バイアール公が贈った黒真珠を用意した宝石商の話では、公爵は一万ポンドを支払ったそうですよ」
「その話は私も聞いた。」
アーチボルトはタバコの煙と共に吐き出す。
海の気まぐれで作られる真珠は稀少さもあって多少形が悪くても高価だが、真円に近い大粒の黒真珠など滅多に出るものではない。
「その公爵が今回は我々の懐を宛にされていらっしゃる」
アーチボルトの表情にやや非難が浮かぶ。彼は晩餐会で二千ポンドを申し出た。
娘がいない分、ロイスの三千ポンドから一千ポンド引いたのだ。
そのしわさが高貴なる責務を重んじるバイアール公を始めとした貴族達にどう映ったか。
「しかし、我々の基金の代表や管理をご令嬢方に任せるとか。あっという間に失くなってしまったら困ります。どうしても女性というなら、代表を、最大の資金を提供したロイスの奥方なりでもよいでしょうに」
そして二番目に多いアーチボルト自分の夫人が資金の管理に加わるか。
すなわち、我々二人でバイアール公爵に働きかけようと言うわけだ。
娘を送り込めないアーチボルトが、これから始まる事業。そう、これは慈善ではなく、利を生む事業になる可能性がある。に噛んで行きたいと思っていることが解る。
「レディ・ミランダやバイアール公爵は実施で令嬢方に学んで欲しいのでしょう。なかなか厳しい課題ですが。ですから、今は静観して、何か困り事があれば、手をお貸しするように私も妻も心積りしています」
「や、これは、さすがは、リスクを引き受ける保険事業に関わるカーランドのご当主ですな」
アーチボルトは吸いきったタバコの灰を灰皿に落とした。
彼の素振りには灰のような落胆が垣間見れた。




