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多大な恩義があったようです

1920年 評議会共和国スゼーグト暫定自治区


「大丈夫ですか、シロビィ様。」

 フェレンツ()()との会食を終えた後、アンナと共に寝泊まりしている部屋に戻った時のことだ。

 どうやら、私がボーッとしていたことを気にかけたようだ。

「あぁ、大丈夫だ。」

 改めてアンナを見つめて言った。

「我々は多くの、余りにも多くの恩義を受けた。私自身、アンナの助けが無ければ、恐らく父上と同じような道を辿っていただろう。」

「家と金と、そして地位を失いましたけどね。」

「ははは、違いない。」

 アンナの言う事に一緒に苦笑しながら応じる。そして続けた。

「だけど、泥を啜り、ゴミを齧るような生活を続けたおかげで、素晴らしき陛下の臣民として立ち上がることができる。アンナがいたから出来たことだ。」

「シロビィ様…」

 そんな感じでいい雰囲気になったところに。

「失礼します、シロビィ様!」

「ななな、何でしょうか???」

 突然、部屋を借りてる家主が明らかに興奮して入ってきた。

「シロビィ様に会いたいという方が!それも、かの提督、ホーティー提督が!」

「…!それは本当ですか。今すぐ会いに行くとお伝えください。」

 そう言うと、家主はそのまま部屋から立ち去って行った。

「さ、行こうかアンナ。」

 しかし、彼女は不服そうな顔をしながらこちらを見つめていた。

「どうしたんだ。そんな顔をして。」

「わからないのなら結構です!行きますよ!」

 と、叱られて置いて行かれてしまった。ただ、私ははっきりと見た。彼女の目は、表情は、明らかに怒っていなかったのを。にもかかわらず、彼女の頬が紅潮していたのを。

「…彼女も、私と同じなのかなぁ…」

 そう一人でつぶやいたあと、アンナを追って急いで部屋を出た。


「お久しぶりです、ホーティー提督。」

「久しぶりですな。シロビィ()()。」

 5年ぶりに呼ばれた大佐という階級。この、私を大佐と呼んだ人物こそが、先の大戦の英雄、二重帝国海軍第一艦隊司令官、ホーティー提督だ。

「その呼び名も、随分と懐かしくなりました。もう5年ですか。あの戦争から。」

「時がたつのは早いものですな。私も、二度とマージャルの地を踏むことはないと思っていましたが…」

 そう言いながら、コートのポケットから手紙を取り出して言った。

「亡命していたシルヴァニア大公国でこのようなものを渡されましてね。」

「これは…?」

「どうぞ、読んでみてください。」

 言われるがままに渡された手紙を読み始めた。

「これは…これは本当なのですか!?」

「ええ、シルヴァニアの公王陛下から、直々に渡されたものです。」

 手紙の内容は強烈だった。内容を話す前に、シルヴァニア大公国について説明しよう。

 シルヴァニア大公国、正式名称『シルヴァニア=モルドヴィア大公国』。マージャル評議会の隣国でかつての敵国だ。

 もともとは我が国により現在のシルヴァニア地方のうちカロルパティア山脈地方を占領されていたが、先の戦争で大シルヴァニア主義を掲げ参戦し、カロルパティア山脈地方を割譲した。

 そして手紙の内容である。色々と書かれてあったが、要約すると、『王党派革命の際にはあらゆる形での支援を行う』といった内容であった。

「しかし提督。なぜ彼らがこのようなことを?」

「それはですね、シルヴァニアが、ひいては公王のミハイル1世が反条約派だからでしょうな。」

「そうだったのですか…あぁ確かに、ミハイル1世はリンデンブルクの血筋を引かれてる。そのうえ反共主義者でしたね。」

 マージャル王国と隣国エスターラント、チェヒスラヴァとバルカニアの一部に跨って構成されていた二重帝国。そこでの君主であったのが『リンデンブルク=ロートリンデ家』であった。

 ミハイル1世はかつてミハイル・リンデンブルクと呼ばれていた。これは、二重帝国がシルヴァニア全土を統治下に置いていたころ、シルヴァニア侯爵としての名前であった。

 色々あってシルヴァニアは独立した結果、ミハイル1世はリンデンブルクの名を捨て、シルヴァニア家を名乗った。

 しかしながら、講和条約を締結する際には依然としてリンデンブルク家に未練を感じているのか、マージャル王国の共和制には反対していた。

 そして戦後結ばれた条約によって二重帝国が崩壊し、リンデンブルク家の多くが国外へ脱出し、シルヴァニアの隣国であるマージャル王国が赤化した事により,反共主義者であったミハイル1世は条約反対派となったのだ。

「今ここで蜂起に手を貸し、そしてそれが成功すればリンデンブルクの血筋に基づいて王位請求、或いは国政への大幅な介入ができることを狙ってる、ということですかな。」

「なんにせよ、我々は彼らから多大なる恩義を受けることになります。色々と考慮しなければなりませんね。」

「その通りですね。そう言えば…」

 ホーティー提督が話を変えてきた。

「今の王位候補は誰なのでしょうか?」

「あぁそれなら。現在のところはリンデンブルク=ロートリンデ家とリンデンブルク=エスターラント家、ですかね。場合によってはシルヴァニア家も入る可能性が。」

「そうなのですか。ならば…」



 提督との会話は3時間近くにもなった。その後、提督は再びシルヴァニアへ出発し、そして私は、アンナと共に部屋へ向かった。もうだいぶ夜も更けていた。

エスターラント共和国:マージャル評議会共和国の隣国で共和制国家。旧二重帝国の構成国。

チェヒスラヴァ連邦:評議会共和国の隣国で連邦制国家。旧二重帝国の構成国。隣国であり敗戦国のゲルマニアと民族的な問題を抱えている。

バルカニア連合王国:評議会共和国の隣国で君主制国家。旧二重帝国の構成地域を領有している。国内で深刻な民族問題を抱えているため、現在の国王の力は非常に小さく、軍の力のほうが大きい。

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