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9.サモエド砲


 辺り一面静かな雪景色の中、その静寂をぶち壊しながら爆走する者がいる。



 ……はい、熊を背負った犬です。



「あばばばば……。 そ、そろしょろ休憩しにゃい?」


 かれこれ二時間は走ってる。


 この着ぐるみでもこの速度でずっと移動されると、完全には寒さを防ぐ事が出来てない。

 獣人の刻印で魔力ホッカイロしてたけど一時間くらいで疲れて余計に寒くなった。


『ふむ、じゃが記憶が確かならもう少しで暖かい場所に着くぞ?』


「えっ?」


 周りの景色に変化はない、そんな急に気候が変わるほどの距離を移動したのか?


『よくシンちゃんと訪れた場所でな、そこは辺り一面地面が暖かいんじゃ。 タマちゃんとシンちゃんの秘密の温泉郷と名付けた』


 おお!地熱が出てる場所があるのか。

 行こう、すぐ行こう。


「分きゃった、そこまで頑張りゅるる」


 顎が震えて口が回らん。


『なに、もうすぐのはずじゃ』

「ワンワン!」


 シロコは元気だなぁ…。


 …

 ……

 さらに10分程走り続けると景色に変化が現れた。


 お、ポツポツと地面が露出している場所がある! 心なしか気温も緩くなったような…まだ寒いな。

 あ、小さな木や草が生えてる!


『ふむ、二千年近く経っても、ここいらはあまり変わっていない様じゃの』


 どうやらタマちゃんのナビは正しく機能した様だ。


「よよ良かった、こここのままだとマジで凍るとこだった」


 更にずっと中型犬にしがみついているせいで、身体中の筋肉がバッキバキだ。


『お、少し先に湯気らしき物が上がっとるの、一度そこで止まるとしようかの』


「ワン!」


「たた頼んだ」



 …

 ……川だ、川が流れている。

 そして一部流れが穏やかな所から湯気が上がっている。

 あの辺りを岩で囲んで風呂を作れば、それだけで客が呼べる温泉旅館が出来上がるな。


 ……先客がいなければ。


『昔この辺りの魔物は一掃して我の縄張りとしたが、二千年も放っておけば忘れられるというものじゃの』


「……なにアレ?」


 目の前には子供の頃、テレビで見たサーベルタイガーっぽいのがいてめっちゃ威嚇してます。

 象さんよりデカイ……。


 俺も数百万人のハンターの1人だったけど、あいにくと今は愛剣のスラッシュアックスは持って来ていない。


吹雪虎(ブリザードタイガー)じゃの、そこそこの大きさじゃ。食いでがあるの』


「は?」


『シロコ、口を開けい』


「ワン!」


 カパッとシロコが口を開ける、一体なにを……。


 ヂッチチチチ…バチバチバチバチ!!


 シロコの口から雷が迸る。


 あたたた、肌がビリビリする!

 俺まだシロコの上に乗ったままなんだけど!


「な、何をして──」

 バシュウウゥゥゥン!!!


 轟音と共に目の前が真っ白になる。


 俺の愛犬は一体どうなってしまったんだ……。



「ゲホッゲホッ!」


 舞い上がった雪と土煙でむせる。


「シロコ、大丈夫……ってお前凄いことになってんな!?」


 シロコの毛が逆立ってマン丸になっとる。


『ふむ、まだ魔力が完全に馴染んでおらぬ割には上手くいったの』


「あっ!、あいつは!?」



 視界が晴れると目の前にはまだあのサーベルタイガーっぽい魔物は立っていた。


 首から上が無い状態で……。


 ドスゥゥンっとその巨体が倒れる。



『これでしばらく肉には困らんの。それより、もう降りたらどうじゃ?』


 シロコに跨ったままだった。


「あ、ああ、それでさっきのは?」


『雷の力を乗せたブレスじゃ。竜種の刻印は魔力に雷の力を乗せることが出来るのよ』


 黄色いネズミかよ……。


 シロコから降りて身体を伸ばす、無理な姿勢が続いたから節々が痛い。


 うわ、シロコの毛が静電気のせいか、逆立って雪だるまみたいになってんな。


『ほれ、邪魔者はいなくなったぞ。 さっさと身体を温めろ』


「そうだった!」




 急いで川から湯気が出ている場所に行って恐る恐る手で触れてみる。


「ああっつぅ!」


 さすがにポコポコしてるとこは熱すぎた。

 もっと川の水が混ざっているところに移動する。


 おおぅ、あったかいなりぃ。

 多分風呂にするにはヌルいのだろうけど、冷え切った俺の身体で感じるには熱いくらいだ。


「あんなのがいる場所だし、さすがに全身浸かるわけにもいかないよな、タオルも無いし…」


 いそいそとブーツを脱ぎズボンの裾を捲り、足湯の体勢に移行する。


 ああ…座ってるこの岩もあったかい。


「この川の水、もといお湯は飲めるのかな?」


 思えばこの世界に来てからずっと飲まず食わずだ。


『さっきまで吹雪虎が飲んでおったんじゃ、問題なかろう。

この川も雪が溶けて出来る物じゃし、シンちゃんもよく飲んでおったぞ』


 ありがたい情報だ、今さら雪とか食いたくないし。


 お湯を掬い上げ数時間振りに喉を潤す。


 生きてるって素晴らしい……。


『ふむ、しばらくそうしておれ、我も魔力をシロコに馴染ませる。ついでに少しこの辺りを見て廻ろう』


「ち、ちょっとそれはここに1人で待ってろって!?」


 またあんなのが出たら俺は確実にパクられてしまう。


『心配するな。先程吐いたブレスで、下手にここに近づく魔物などおるまいて』


「だといいけど……」


『そうじゃ、肉を焼くのに炎が使えるよう左手の刻印でも魔力を練る練習でもしてるが良い』


「おおぅ、こっちの刻印はそんな効果なのか。 ちなみに右手は?」


『風じゃの』


 風!そういうのもあるのか。


 ちなみにタマちゃんとの会話中シロコは、水を飲んだり穴を掘ったり雪がある場所に突っ込んだりと一ヶ所にいないので首が疲れる。


「……分かった、なるべく早く帰ってきてくれよ?」


『うむ、では行くぞシロコ』


「ワン!」


 ザシュッ、と音を立ててえらいスピードで消えてった……。


 やっぱり1人になると不安になるな……。

 とりあえず足湯をしながら両手の刻印での魔法の練習するか。


読んでいただいてありがとうございます。

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