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84/84

84.連れて帰る


 建物の屋根から屋根へ、フィオが飛びながら移動する様はまるで忍者の様だ。そんな道無き道を進むもんだから中々に追いつけない。


「やはり子供は身軽じゃのう」


「さっきまで寝たきりだったのに無茶しないで欲しい……てか森にまできちゃったぞ」


「察するに何かを感知したのじゃろう、あの様子では止まらんじゃろうから好きにさせい」


 好きにさせいって、させるにしても見失ったらあかんだろう。


「うわ、森に入っても速度が落ちな──グエッ!?」


 走っている最中に、いきなり襟首を後ろから掴まれる。


「このままだと見失うであろう、上から追うぞ」


 言うが早いか飛び上がるタマちゃん。


「ちょっ、首、首絞まってるから!」


「ほれ、見失うで無いぞ」


「ぐ、ぐえぇぁ……」


 運ばれ方に文句を言いたいが、おかげで目下にフィオを捉えることが出来た。木々を器用にすり抜け、ぐんぐんと進んで行くフィオ。俺とタマちゃんは付かず離れずの距離で上空から追いかける。



 …

 空を飛んでからそう時間もかからず、フィオは1つの洞穴に真っ直ぐ入って行った。


「ふむ、洞窟か? あそこが盗賊のアジトかの」


「それってまずいだろ!? 残ってたら鉢合わせになる!」


「では行ってこい」


「ちょおっ!?」


 入り口らしき穴に向かって放り投げられる。雑に扱われて色々と言いたい事はあるが、今はフィオに合流するのが先だ。

 ドン、と洞窟前に着地する。


「いつつ、早くフィオに──」

「ウワアアァァッ!!!」


「っ!? くそっ!!」


 洞窟内から響くフィオの叫び声、俺は慌てて中に突入する。

 洞窟はそう深くなく、直ぐにフィオに会うことが出来た。俺の目に写ったのは、フィオが誰かを抱きしめている姿だった。


「……さん……母……さん」


 フィオが抱きしめているその人が母親だろう。鎖に繋がれ、すでに事切れているその人物はエルフの女性だった。


「くぅ……うぁぁ……」


「…………」


 泣いているフィオを見て、俺は情けない事に動けずにいた。握る拳に血が滲む。


「そのエルフ身体にまだ魔力が残っておった様じゃな」


「タマちゃん……」


 遅れてタマちゃんが洞窟内に入ってくる。


「ここは盗っ人共の根城と言うよりは倉庫かの」


 タマちゃんがぐるりと辺りを見回す。盗賊達が奪ったであろう、金や物資らしき物が散らばっていた。

 あまり広く無い部屋の中で、フィオの嗚咽が嫌でも耳に入る。


「うぅ……あぁ……」


「……はぁ」


「え、あ、おいっ!」


 タマちゃんがフィオをみてため息1つこぼすと、スタスタとフィオに近づく。そして母親を抱いて泣いているフィオの頸に手を置いた。


 パチンッ!


「あぅっ」


 小さな破裂音がすると、フィオの身体の力が抜けてそのまま倒れた。


「おい、タマちゃん!?」


「気を失わせただけじゃ」


「いやそうじゃなくてだな……」


「この様子ではいつまでもこのままじゃろう、どうあっても死んだ者は生き返らん。ずっとこの場におるつもりか?」


 自分は半分死んでるのに酷い言い草だなこのドラゴン。


「だからってなぁ……」


「この場に置いておく事の方がその娘にとっても良いことでは無いのでは無いか?」


「……はぁ、分かったよ」


 確かに、こんな盗賊の部屋にいつまでもいるものでは無い。

 俺はフィオを抱き上げる。


「この子のお母さんの鎖を外さないと……」


 鍵か何か無いかと部屋の中を見渡すと、ゴキンッと音が鳴る。音の発信源に目をやると、タマちゃんが鎖を引きちぎっていた。


「ほれ、さっさと行くぞ」


「力技だな……」


 荷物を持つように抱えるタマちゃん。そこら辺の気遣いとかこのドラゴンに期待するのは無駄だな。


 まだ時間的に早朝もいいとこだ、村の活動が始まる前にさっさと宿に戻ろう。



 …

 ……

 なんとか誰にも見られずに部屋に戻ることが出来た。もう部屋の扉を使うより、窓からの出入りの方が多いような気がしてきた。


 片方のベッドはフィオを寝かせ、もう片方にはフィオの母親を横たわらせてある。寝ている部屋に死体を置くのはあまり気分が良いものでは無いが、かといって他において置けそうな場所に心当たりがない。後でマックさんにでも相談すべきか。


「いざとなったらもう一部屋取るか。いや、取った方が良いかもな、フィオが起きた時の事を考えると……」


 でも取る理由はどうしよう、シロコと喧嘩したという事にしておこうか?


「そう直ぐには起きんじゃろう、強目にやっておいたからの」


「無茶すんなや……」


「死んではおらん、心配す──む? シロコが起きるの」


「えっ? あ、おい!」


 表に出ていたタマちゃんが急に引っ込む。

 キツイ目つきから力の抜けた目に変わったので、シロコが表に出てきたようだ。


 そして俺と目が合うなり犬になった。


「ち、ちょっ、なんでいきなりサモエモード?」


「クゥーン……」


 耳をペタンとして俺を見上げるシロコ(犬)。


『昨日子供に吠えた事を気にしておるな、タクミがシロコを責めたのが悪い』


 責めたって……コラッ、て言っただけなんだが……。そして何故気まずいと犬形態になるんだ?


「クゥーン」


「あー……」


 シロコのこの表情、本当に気に病んでるようだ。別に俺は怒っている訳では無いんだが……。


 俺はその場にしゃがみ、シロコ(犬)を正面から抱きしめつつ頭を撫でてやる。


「シロコ、俺は怒ってないぞ。というよりお前があの子を止めたんだ、良くやった」


「……ワン」


 頭を撫でる度に、シロコの耳が少しずつ起き上がっていく。もう少しだな。

 今度はシロコを正面に据えて両頬をワッシと掴んでこねる。お気にのよしゃよしゃだ。


「よーしゃよしゃよしゃ。お前が落ち込んでると俺も悲しいぞ? さっきも言ったがシロコはあの子を助けたんだ、誇って良いぞ。コラって言ったのは俺が悪かった」


「……ワン!」


 フサフサ尻尾がパタパタと床を叩き始めた。やはりシロコによしゃよしゃは鉄板だな。後はもう1つの鉄板、飯でフィニッシュ。


「よし、俺は下に行って朝食を貰ってくるから、お前はあの子を見ててやってくれないか?」


「ウォン!」


 俺がそう言うと、シロコはフィオが寝ているベッドにタタタっと近づく。そして頭だけベッドに乗せた。これがシロコの監視モードなのか。

 とにかくこれでもう大丈夫そうだな。


「それじゃ頼んだぞ。まだ早朝だが厨房は動いてるだろう、パンだけでも貰ってくるよ。そこのスープが残ってるしな」


「ウォン!」


『うむ』


 シロコの元気な声が返ってきた、タマちゃんの声も喜色が感じられる。

 その声を聞いて俺は胸をなでおろし、部屋を後にした。


読んでいただいてありがとうございます。

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