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83.フィオ


 彼女の名前はフィオ。エルフを母親に持ち、魔族の国育ち。父親の顔は知らないそうだが、肌の色からして魔族だろう。

 母親は冒険者で、女手一つでフィオを育ててくれたそうだ。


 フィオはそこで母親に鍛えられ、しばらくするとオーサカに向かう事になる。エルフの国経由ではなく獣人国経由なのは、母親が言葉を濁したので深くは聞かなかった。


 オーサカに向かう道のりは護衛のついでではなく、母親と2人で向かったとフィオは言う。俺からしたから母娘2人でなんとも無茶な真似をと言うと、母親は魔族領での冒険者で依頼を受けられないのと。これまでは彼女は魔力で索敵が出来るから問題は無かったと。


 タマちゃんが言うには魔力の索敵能力者はレアらしい。人に寄ってその範囲や性質は変わるが、その範囲内は相手の動きが手に取るようにわかるそうだ。なにそれ俺も欲しい。

 でもそれなら確かに、魔物などの危険を避けて旅をするのも不可能では無いように思える。


 だが悲劇は起きた。

 どこでばれたか分からないが、彼女は狙われた。索敵範囲外から徐々に囲まれ、2人は襲われてしまったそうだ。

 そこからは母親を人質に取られ、盗賊達に協力を強いられていたと言う。それが大体ひと月前の話だ。


 俺の身体が勝手にフィオの小さな身体を抱き締めていた。有罪ならば甘んじて受けよう。


「……別に信じてくれとは言わない」


「信じるよ、そんな表情で嘘をつけるとしたらオスカー女優も真っ青だ」


「……なにを言ってるか分からない……」


 淡々と語るフィオの瞳は濁り、その表情は屍人のそれだった。こんな風にした盗賊達に殺意を覚える。あんとき殺っときゃよかった。


「盗賊達は討伐依頼が出されてる、今すぐお母さんを助けに行こう。場所は分かる? いや、ギルドに寄った方がいいいいか、もしかしたらもう救出されてるかもしれない」


 はやる気持ちを押されられず、早口で喋ってしまう。

 だがフィオは静かに首を横に振った。


「私が出来る感知範囲は家が10件並ぶ程度、それ以上離れると分からない」


「じゃあ1人取っ捕まえて吐かせるか。いや、もうギルドが捕まえてるか?」


「ギルマスが盗賊に協力してるのに? それにお母さんは……もう」


「は?」



 獣人族のギルドでフィオが聞いた話を聞く。


 ……マジか、あの獣人ギルマスがグルとか。一瞬ギルド全体がそうなのかと頭が過ったが、テテとタタがそうで無いのと。討伐依頼が出てたところから一部なのだろう、今回は尻尾切りと言ったところか。


 そしてフィオのお母さんはもう死んだとの言葉。俺はやり場のない怒りに震え……いや、やり場はあるな。


「ちょっとあの獣人ギルマスんとこ行ってくるわ」


「まてまてまて」


「ひっ!?」


 部屋を出ようとしたら止められた。タマちゃんの事すっかり忘れてた。

 フィオがタマちゃんを見て小さな悲鳴を上げる。


「そこの娘怯えるでない。タクミ、我とこの娘をこの部屋に置いていくのか?」


「ぬ……だけど……」


「今すべき事ではないであろう、いつでもやれる事じゃ。ほれ座れ」


「痛い痛い」


 立ち上がった俺の首根っこを掴まれて強制的に座らされた。


「さて、我も名乗らせて貰うかの。フィオと言ったな? 我はタ──シロコじゃ、先程のように我の手を煩わせるでないぞ?」


「…………」


 フィオは無言で頷いた。もうちょっと優しく言えないのかこのドラゴンは。


「そう恐れるな、貴様が攻撃して来なければ我は何もせぬ。……ふむ、それにしても良く馴染んでおるの」


「……」


 タマちゃんはフィオを繁々と眺めた。見られてるフィオは居心地が悪そうだ。


「先程の魔法も中々の物じゃったしの、タクミと違って力の使い方が上手いようじゃの」


「いちいち俺をディスるな……ってそうなの?」


「この肌に傷をつけられたのだからの、それに逸れた魔法もこの宿を両断しておるぞ、見た目では分かりにくいが」


 聞きたくなかった……雨が降ったらバレるな。


「……私の力はそんなに強くない」


「ふむ? ではタクミの魔力のおかげという事か。そうなるとやはりタクミの魔法は無駄だらけという事じゃな」


「……?」


 魔法デビュー数十日の俺を責めないでくれ。それよりフィオがタマちゃんの話を理解できてない様なので説明せねば。


「えっとね、フィオ……ちゃんでいいかな?」


「フィオでいい……」


「オーケー、実はフィオはついさっきまで魔力が空っぽだったんだ。そんで俺が君に魔力を注いだ、今フィオの身体には俺と同じ魔力が流れている」


「……そんな事出来るわけがない」


 普通はそうらしいね。でも俺は普通では無い、てか普通ってなんだ? この世界の普通を教えて欲しい。


「自身で確かめてみればよかろう」


「…………っ!?」


 タマちゃんの言葉から、少し間を開けてフィオの目が見開いた。多分魔力生成したのだろう。


「こ……これ……は……」


「ふむ、作り出される魔力もタクミと同じ様じゃな」


 俺にはまったく分からないが、タマちゃんが言うならそうなのだろう。フィオの両手が震えているが、俺の魔力は嫌だったか?


「これ……なら──っ!!!」


 バタンッ!


「えっ? あっ! ちょっ!?」


 フィオが窓を開けて飛び出してしまった……いや追いかけないと!


「た、タマちゃん!!」


「元気な娘だのう」


 慌てて俺たちも窓から外に飛び降りる。ってか早っ!? もうあんなところに!


「ほう、風を纏うとあの様な事が出来るのか」


「何のんびり解説してんだ! 追いかけるぞ!」


 早いが追いつけないスピードではない。俺とタマちゃんは、跳ねる様に移動するフィオの背中を追った。

 方角的に……湖の方向か?

読んでいただいてありがとうございます。

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