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79.新たな問題


 村の外れ、湖を囲む森の奥にビダン達の隠れ家があった。

 盗賊達はタクミによってびしょ濡れなった体を、火を囲んで乾かしている。


「ビダン、どうすんだよ? アイツらに顔覚えられちまった、もう村に戻れねえぞ」


「うるせえっ! んなこたぁ分かってんだよ!!」


「お前があの人族なら楽勝だと言ったんだぞ!」


「てめえら全員乗り気だったろうが!!」


「そもそも最初にこいつがしくじりやがったのがだなぁ!!」


「ああっ!?」


 各々が互いに罵り合う。

 一度火がついてしまうと、その場で殴り合いにまで発展してしまい、そんな様子を見てビダンが大声で叫んだ。


「てめえら黙れ! とにかくここにある奪った物を他に移すんだ!!」


「他ってどこに行こうってんだ!? 村には俺の──がはっ!?」


「うわっ!?」


「お、お前ら!?」


 1人の盗賊の喉が掻っ切られる。そしてそれを皮切りに、続々と森から人が現れた。

 そのうちの1人が口を開く。


「うわ、本当にいたよ。お前らこんな真似してたのか」


「おい、そいつらの話はまともに聞くなって話だろ。さっさと終わらせるぞ」


 ビダンら盗賊達は囲まれていた。その囲む人物は、先日まで同じギルド内にいた顔馴染みの冒険者達だ。それも殆どがベテランで構成されている。


「おっとそうだったな、んじゃ早く終わらせて村に戻るか。ったく余計な仕事増やしやがって」


「なっ、やめっ──ぐぎゃっ!」

「うわあぁっ!」

「やめてくれっ! 俺はビダンに無理矢──がぁ!?」


 問答無用で襲いかかる冒険者達。盗賊達は半裸に近い状態であり、なす術なく次々と葬られる。


「くそがっ!!」

「うわっ!?」


 ビダンは仲間の1人をつき飛ばし、その一瞬の隙を突いて包囲を抜け出し、その場から全力で逃げ出した。


「あの野郎逃げたぞ! そっちで追え!!」


「往生際の悪い野郎だ!」


 ビダンを複数の冒険者が追いかける。

 腐っても元上位冒険者、勝手しる場所柄なのもあってか、ビダンはかなりの速さで森の中に消えて行った。




 …

 ……

 追っ手を撒いてビダンはその場で膝をつ。

 目指す場所は、手下にも教えていないもう一つの隠れ家だった。


「はぁ……はぁ……くそっ、いくらなんでもあの場所がばれんのが早すぎやしねぇか?」


「やはりここに来たか」


「なっ、てめぇ! ランダス!!」


 ビダンの前に現れたのは獣人族冒険者ギルドのギルドマスターだった。


「お前がアイツらを集めやがったのか!!」


「俺まで道連れにされては叶わんからな、当たり前だろう。それにな……」


 ランダスは懐から1枚の紙を取り出す。それは速鳥に持たす手紙に使われる物だ。


「今朝にオーサカから届いてな、しかもゲンホルド宰相の直筆だ。内容はまあ大雑把に言えば、シロコ、タクミなる人物を見つけたらその報告。後お前らは余計な手を出すなとの事だ」


「はっ!? な、なんだってそんな……」


「焦ったぞ、お前があの人族を襲うって出てからこの手紙に気づいたから……なっ!!」


 ランダスはビダンに一瞬で近づき、装備していた爪で胸を1突き、そして後ろに回り込んで両腕を使って締め上げる。


「がっ……かはっ」


「そして同時にあの白い狼を保護っていう国の依頼も撤回された。獣人国全体に出された特クラスの依頼がだぞ? オーサカで何があったか分かんねえが、下手な事したら尻尾を切るどころの話じゃねえ」


 ギリギリとビダンの首が絞まってっいく。

 ビダンは両手を振り回して暴れるが、逃げる時に消費した体力と、胸を突かれた傷のせいで抵抗という抵抗が出来ないでいた。


 そしてゴキャリと嫌な音が鳴ると、崩れるようにビダンの体が地面に落ちる。


「それにただでさえあの力だ、そんなヤバイ奴にちょっかいかけて、俺にまで迷惑かけんじゃねえよ」


 もう物言わぬビダンにランダスはそう言い捨てる。

 そしてその遺体を担ぎ、自分の出した依頼によって冒険者達が襲撃している場所、盗賊の隠れ家に向かって歩き出した。






 ガチャッ。


「お、帰って来たかな? というわけで降りろシロコ」


「ことわる!」


「……どこでそんなセリフ覚えた?」


『我じゃな』


「どんどん話し方が達者になっていくなぁ……」


 テテとタタがこの家から出て1時間ほど、ずっと子泣きシロコスタイルのままである。話し方からして、お前もう拗ねてないだろう?


 床の掃除も終わり、椅子に座っていると部屋の扉が開かれる、入って来たのはもちろんテテとタタの獣人娘2人組だ。


「おかえり……って、どうした?」


 テテが頭を掻きながら浮かない表情で部屋に入る、そして俺を見るなりもっと顔を歪めた。


「あんた……ずっとその状態のままだったのかい」


「ただいまー、ってわお、まだおんぶしてるとは思わなかった」


「これはもうグェ……気にしなくていい」


「ゔうぅ……」


 2人を見るなり小さな声で威嚇するシロコ。もう大人しくさえしてくれればそれでいい。


「それでギルドで何かあったのか? 浮かない顔だけど……いや、タタはご機嫌だな」


「貯蓄額が増えたからね! ──あたっ」


「そ、そうか」


 すかさずテテの拳骨がタタの頭に落ちる。


「調子に乗るんじゃない、思いっきり怪しまれただろうに」


「でもシロコさんから貰ったって言ったら直ぐに対応してくれた。感謝感謝」


 俺が渡したのに……解せぬ。


「お役に立てて何よりだよ……それで、アイツらの件は?」


 俺の質問に、タタは思い出したかの様にまた頭を掻きながら答える


「ああ、それなんだけどね。もう私達が報告するまでも無いっていうか……討伐依頼が出てたんだよ」


「しかもアイツらの根城も分かってて、すでに村の武闘派達が討伐に出てた」


「そいつはまた……」


 昨日の今日で随分と忙しいなこの村は。


「情報の出所は確からしい、ギルマス主導で動いてるみたいだから捕まるのも時間の問題」


「だったらあん時に捕まえとけば良かったかな?」


「その通り──あたっ」


「馬鹿言ってんじゃ無いよ、そんな暇なんて無かっただろ」


「でも結構な報酬だった……」


 タタが頭をさすりながら口を尖らせる。


「命あっての物種さね。─そういうわけでアイツらの事はもう気にしなくて良くなったのさ。残る問題は……」


 テテの視線がベッドに移る。


「まあこの子の事だな……」


「私らが出てる時、目を覚まさなかったのかい?」


「ああ……」


『うん? そこに寝ておる娘は起きる事はないぞ?』


 はい?

 いきなり頭に響くタマちゃんの声、もしかして原因が分かるのか?


『見事に体内の魔力が空っぽじゃ、すぐ死ぬ事は無いじゃろうが……まあ時間の問題じゃの』


「はぁ!?」


 ガタンッ、と椅子が倒れる。


「な、なんだい!? 急に!」


「ここでいきなり欲情?」


「あ、わ、悪い……」


 タマちゃんの言葉に思わず立ち上がってしまった。この2人にタマちゃんの言葉は聞こえないので、そっちからしたら前触れも無くいきなり立ち上がった変な奴にしか見えない。

 しかもシロコを背負ったままだ。


 慌てて椅子を戻し、座り直す。


『普通は空になる前に気を失う物じゃが、ここまで魔力が無いのを見るのは初めてじゃな』


「な、なんとかならないか?」


「ん? 起きるまで待つしか無いだろ?」


「焦ってもいい事ない」


 俺の言葉にテテとタタが答える。自分の声を抑える事が出来なかった様だ。


『魔力の受け渡しは同族で無いと難しいの』


「そんな……」


 この村にエルフなんていない、タタそうが言っていた。


「ど、どうしたんだい? 今度は急に項垂れて……」


「……?」


 エルフのいるオーサカまで連れて行くか? だがあの状態でシロコのぶっ飛んだ飛行にあの子の体力が持つとも思えな……ぐえぇ。


 背中のシロコがいきなり締め付ける。


「できる!」


「ど、どうしたシロコ?」


 今まで静かに張り付いていたシロコが急に声を上げる。獣人娘の2人もポカンとした表情だ。


『シロコ? ……ふむ……そういう事か、まあ多分としか言えんが……うまくいくかもしれんの』


「タクミならなんでもできる!」


「え? はい? どういう事?」


 シロコとタマちゃんで会話しないでもらいたい、俺には何が何だかさっぱりだ。


『エルフの属性が混ざったタクミなら大丈夫かもしれないという事じゃ。まあ賭けに近いがの』


「タクミならなおせる!」


「お、おい、そんな無茶苦茶なぐえぇ……」


「だいじょうぶ!!」


 いきなりそんな俺がこの子の命を奪いかねない事をするとか、胃が破れるくらいのプレッシャーだ。


「タクミは随分とシロコさんに信頼されてる様だね。……それでどうする?」


「1泊5万なら面倒見てもいい」


「馬鹿!」


 タタの言葉にテテが突っ込むが、その声は俺の耳には届かなかった。


『どうするのじゃ? あの様子だと、持って今夜までじゃが』


「だいじょうぶ!」


 …………シロコ、いちいち締め付けるな。


 俺は俯き考える。考えて考えて、そして顔を上げてテテに尋ねた。


「ちなみに、今この村にエルフっているか?」


「は? ……いや、一応戦争中だしね、1人でもエルフがいたらすぐに分かるはずさ」


 その言葉を聞いておれは覚悟を決めた。


「分かった、それじゃあその子は俺の宿に連れて行くよ。ここに連れてきた時と同じ様に俺の服に包んでくれ、あれは結構あったかいんだ」


「は? べ、別にうちで暫く預かってても構わないよ?」


 俺の提案が意外だったのか、テテが慌てて預かっても構わないと言う。ええ子や。

 だが今夜までの命と聞いた今、その提案を受ける事はできない。


「この窓が無い部屋でか? まだ夜は冷えるぞ?」


「そ、それはそっちのシロコさんが! あ、いや、何でもない……」


 シロコの名前に反応して、その本人がキョトンとテテを見つめる。シロコと視線が合ったテテはその言葉を濁した。

 もう怖がる必要も無いと思うのだが、まだ昨日の惨劇の事が尾を引いているのだろう。


「まぁ窓の事は悪いと思ってるよ、渡した金で何とかしてくれ」


「凄いのに取り替える。いや、いっその事建て替える?」


「タタ! あんたはもうさっきから!」


「多分タクミの泊まってるとこの方がここよりいいと思う。お金持ちだし」


「うぐっ……」


 タタの反撃にテテ言葉を詰まらせる。


「はは、まぁぶっちゃけ正解だ。俺達は商人が使ってる1番高い宿を取ってる。近くにはギルドもあるし、何かあったら報告しにまた来るよ。心配するな」


「べ、別にそういうわけじゃ……ああもう、分かったよ! いいかい、くれぐれも変な真似するんじゃ無いよ!!」


 そう言うとテテは部屋を出て行く、多分外に干してある俺の着ぐるみを取りに行ったのだろう。

 テテの後ろ姿を見送ると、タタが俺に近づいた。


「後で見に行きたいから宿まで一緒に行く」


「そうだな、よろしくたのぐえぇ」


 シロコ、締め付けるな。


読んでいただいてありがとうございます。

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