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78.子泣きシロコ


「ふぬぬ……と、とりあえず離れろシロコ」


「むうぅぅ……」


 俺の腹に張り付いたシロコをなんとか引っぺがす。


「わぅ!」


 だが今度は背後に回り込まれ、俺に飛びついて両手両足でロックされる。いわゆる抱っこちゃん人形状態だ。


「ぐぇっ」


「わゔゔぅぅ……」


 ギリギリギリ……。


「ちょっ、クビっ、首絞まってるから! 後その手に持ってる焼き魚もいい加減離せ!」


 俺の顔に焼き魚の串がチクチク刺さってる。


『お主がシロコを放ってこんな所におるのが悪い』


「悪かったって! そこら辺も説明するからちょっと落ち着け! っていうかなんでこの場所が分かったんだ!?」


「ふん! ふん!」


『シロコがお主の匂いを辿ってじゃな』


「いつの間にそんな特技をぉぉギブ! ギブ!」


 タマちゃんが説明してるにも関わらず、圧を強めるシロコ。サモエドでも匂いを辿るとか出来んのかい、見た目が変わっても犬ということか。


 そこから落ち着くまでの五分間、身体強化してなければ背骨が折れるんじゃ無いかというくらいの力で、シロコは俺の体を締め付け続けた。



 …

 ……


「──というわけで、しょうがなかったんだって、別にわざとシロコを置いてったんじゃ無いから。あ、そこの2人も、別に怖く無いから」


 その場に座り、背中にシロコを貼っつけたま釈明する。獣人娘達も時間が経って落ち着いたからか、恐る恐る壁から離れた。


「ほ、本当に大丈夫かい? てかこの騒ぎでよく起きなかったね、この子」


「あー……ガラスが散らばっちゃってる」


 ベッドに降りかかったガラスの破片を、タタが優しく手で払う。マジですんません。


「シロコ、さっき話しただろ。テテとタタだ、俺を助けてくれた」


「……わぅ!」


 なぜプイッとする。


「助けてなんてないよ、偶々あそこではちあっただけさ」


「……そう言えば貴方の名前聞いてない」


「てんやわんやで自己紹介もまだだったな……じゃあ改めて。俺はタクミでこっちがシロコ、オーサカから商隊の護衛でこの村まで来た冒険者だ」


 背中にシロコを貼っつけたままで自己紹介。なんとも間抜けな格好だが、離れないので仕方がない。


「ご丁寧にどうも、じゃあタクミって呼ばせて貰うよ。そっちのシロコさんの事は知ってる、昨日の事でギルド内はその話で持ちきりだよ。

 まさか人族の冒険者ギルド所属とはね……ああ、私はテテ、一応冒険者さ」


「タタ、右に同じ。よろしくタクミ、シロコさん」


 なぜ俺だけ呼び捨てなのか。


 まあいいや、グラマラスな方がテテ、貧乳がタタと覚え……ゲフンゲフン。

 おっと、そういやシロコの乱入で忘れてた。


「よろしく。タタ、ちょっとそのズタ袋取ってくれる?」


「これ?……ん、結構重い」


「ああ、あり──ぐぁ、と……」

「ゔぅ……」


「大丈夫?」


「あ、ああ……」


 ズタ袋の受け渡しにタタが俺に近づくと、シロコのホールドが強くなる。

 タタは心配してくれたが、テテからは白い目で見られる。俺負けない。


 背中のシロコはほっといて、ズタ袋を漁る。

 ……このヤマガタ村で貰ったやつでいいか。


「ほいっ」


 袋を1つ掴んでタタに放り投げる。


「おっと、おも! 何これ?」


「それで窓の修理代と俺にくれた薬代に当ててくれ」


「ふむふむ……おおっ! マジで!?」


 袋の中身を見てタタが目を見開く。その様子を見て、テテも渡した袋の中身を覗いた。


「ば、馬鹿じゃないの!? こんなに受け取れる訳無いだろ!!」


「ええー、いいじゃない。よっ、太っ腹」


「タタも調子に乗んな!」


 ヤマガタ村での報酬約400万、そのまま渡したけどやっぱり多過ぎたか。

 だが1千万手に入ったし、あの蛇でまた増えそうだから、幾分か処分したいのが正直なところである。


「まあ本当に助かったから気にせず持ってってくれ。村長からも貰って、ぶっちゃけ邪魔だったんだ」


「そんなんギルドに預ければいいだろう!」


「お金が邪魔とか……そんなセリフ言ってみたい。じゃあ遠慮なく」


「タタ!」


 あ、やっぱり金はギルドに預けられたのか、やっとけばよかった。


「ぐぬぬ……」


「ぐぎぎ……」


 テテとタタは俺が渡した袋を引っ張り合ってる。このままだと袋が破れんばかりの力の入れ具合だ。


「まあ迷惑料として受け取ってくれよ、それもそっちで預ければいいだろ? ついでにさっきの物盗りの報告もしてくれよ」


「ああ、そういやそうだったね……あっ!」


 テテが一瞬止まったのを見逃さず、袋を奪い取るタタ。その顔はとてもご満悦だ。


「むふー」


「はぁ……仕方ないね。ったく、ビダンの奴も馬鹿な事したもんだよ」


「あいつと顔見知りみたいだったけど?」


「それだけさ、一応あいつはこの村の上位冒険者だからね。それももう終わりだろうけど」


 どうやら有名人だった模様。


「それをあんな簡単に倒すなんて凄い。どう? 私達と組まない? 今ならテテが付いてくる」


「勝手に私を差し出すな!」

「あたっ」


 ほぅ、それはとても魅力的な提案──グェェ。


『シロコ、肘をもう少し上にすればより絞まるぞ』


 タタは叩かれ、俺は締め付けられる。お互い暴力的な相棒を持ったものだ。


「そうと決まれば早くギルドに行った方がいいね、行くよタタ!」


「分かった。あっ、テテの下着はそこの箱に入ってるから気にしなくていい」


「余計な事を言うな! すぐ戻ってくるから変な真似しない様に!!」


「あ、ああ、気を付けて……」


「またねー」


 テテはプリプリと、タタは俺が渡した金を大事そうに抱え部屋から出て行く。子泣きシロコに取り憑かれた俺は、動けないのでその場で見送る。


 獣人娘2人が居なくなって一気に静かになった。


「…………」


「シロコ、そろそろ離してくんない?」


「やだっ!」


 即答だな。


『して、これからどうするのじゃ?』


「はぁ、とりあえずこの床に散らばった窓だった物を片付けないといかんな……っと!」


 溜息を一つこぼし、シロコを背中に引っ付けたまま、俺は床の掃除を始める。


 ……シロコ、もう張り付いてていいから、その状態のまま焼き魚を食べるのはやめてくれないか?


読んでいただいてありがとうございます。

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