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73.巨蛇


 冒険者達が集まっている一角に近づくと、めっちゃ注目を浴びてしまう。こののぼりを持ってきたのはまずかったか?


 のぼりを、ここまで案内してくれたトール君に渡してしまおうかと考えていたら、マックさんが近づいて来た。


「タクミ、広場に避難させるのに尽力してくれたみたいだな、話は聞いてる、よくやってくれた」


「え、ええ。まあこれ振ってただけですけどね」


「ああ、よく目立ってたぞ」


 くく、とマックさんが含み笑う。側から見れば、凄く滑稽な姿だったろう。それは全部このムキムキのせいだ、ちくしょう。


「トール君に冒険者がここに集まってるって聞いて来たんですが、どうしたんです?」


「ああ、これからどうするかなんだが。ちょっと、その前に……」


 マックさんが話し合いをしてるのであろう集団に顔を向ける。1人は昨日ギルドで見たギルマスだ、他は獣人族だから分からないが、似たような立場なんだろう。


 マックさんがシロコを指差して口を開く。


「この姉ちゃんの事言ってんなら、それは勘違いだぜ? 姉ちゃんはオーサカの人族冒険者で登録した、れっきとした冒険者だ」


「はぁ!?」

「馬鹿な……」

「………」


 マックさんの発言になんか3人獣人族が皆驚いている、今までの獣人族を見てきたら、まあその反応は当然だわな。てか冒険者みたいな格好した奴はなんか睨んでないか? てかなんの話だ?


「マックさん、話が見えないんですけど?」


「ああ悪いな、どうも姉ちゃんの事を護館の連中と勘違いしてたみたいだからな」


「ああ……でも護館の獣人族だと何があるんです?」


 「獣人国よりオーサカの方が近いからな、魔物討伐の応援を呼ぼうって話さ」


 なるほど、それで護館関係者の話が聞きたかったのか。

 ん、魔物?


「この騒動の原因って魔物の仕業なんですか?」


「ああ、なんでもでかい蛇が湖に出たらしいぞ。今は湖の魚を食い漁ってるそうだ」


 怖えな異世界。


「それでこれからどうするんです?」


「今は大人しくしてるみたいだからな、持てるもん持って村を出るしか──」

「ふざけるな! お前ら人族は湖から離れているからそんな事が言えるんだろう!!」


 マックさんが言葉を遮って1人の獣人族が叫ぶ。


「マックさん、あの人は?」


「この村の村長だ、その横にいるのは獣人族側の冒険者ギルドのギルマスだな」


 村長さんでしたか。この現状に頭を掻きむしっている、村長だったら無理もない。


「五百……いや、一千万だ!! あの魔物を討伐したら一千万出すぞ!!」


 その村長さんが、集まっている冒険者たちに向かって大声を上げた。


「おい、一千万だってよ……」

「馬鹿……湖の中にいるんだぞ、無茶だろう」

「俺と組んで山分けするか?」

「あの光を見ただろう? 無理だ」


 村長の一千万という定時に、冒険者達が目の色を変える。それでも半分くらい無理だとの表情をしているが。


「村長、そんな事言ってうちの冒険者を煽ってもらうのは困る」


「何を言う! 討伐依頼を出すのは普通の事だろうが!!」


「そうは言われてもだな……」


 ザワザワと周囲が騒めく中、クイクイと俺の着ぐるみが引っ張られる。振り向くとシロコ(タマ)が、もう飽きたかの表情をしていた。


「タクミ、もう戻らんか? ここにおっても仕方あるまい?」


「この状況でそんなセリフが出せるのが凄えよ……」


「なんじゃ、そのヘビとやらを狩るのか? 金はもう充分とあるであろう?」


「いや、そういう話じゃなくてな……」

「お、お前達! 何とか出来るのか!?」


 村長さんに話を聞かれてしまった。そんな化け物とバトルとか冗談じゃない。


「無理です」


「……余計な事を言うな!!」


 村長は俺を睨んでそう言うと、また獣人族の冒険者達を煽りに行った。


「タマちゃんのせいで怒られちゃったじゃないか……」


「我のせいではないであろう、たかが魔物1匹に右往左往しとるとは滑稽じゃわ」


 1匹は1匹でも規格外みたいだが……ドラゴンにとったら大して差はないのか。


「湖はこの村の大きな収入源だろうしな、無理もないと思うぞ?」


「はっ、そのヘビとやら1匹に振り回されるとは情け無い」

「ははははっ!」


 タマちゃんとの会話に笑い声が入り込む。笑っているのは……獣人族側のギルマスだったか?

 っていうか、タマちゃんは蛇ってどんなのか知らないみたいな言い方だな。


「魔物の姿も見ず、簡単に討伐出来る様な物言いだな」


「なんじゃ貴様は?」


「……俺はこの村、エラン獣人冒険者ギルドの長だ、口には気をつけろよ? 腕に自信がある様だが、まさか人族のギルド所属とはな」


 獣人族は偉い人もこんなんなんか。隣の冒険者っぽい奴も地面に唾吐いてるし。


「大方、騒ぎを起こしてギルドをクビになったんだろう? 若い奴がよく起こす話だ。

 どうだ、俺が口をきいて獣人族のギルドに戻してやるぞ?」


「おい! ランダス!?」


「ビダンは黙ってろ」


 唾を吐いてた獣人がギルマスに突っかかったが、すぐに諌められる。そしてそのランダスとやらに今度はマックさんが突っかかった。


「おいおい、こんな状況でうちの冒険者を引き抜くたあ感心しねえな?」


「その方が彼女にとっていい話だろう? そもそも獣人族が人族のギルドに所属してると言うのが──」


 シャアアアァァァッ!!!

「──っ!?」


 突然の大きな音が耳をつんざいた。俺は思わず両手で耳を塞ぐ。

 ……周りの人達も同じ様に両手を耳にやっているのに、なぜタマちゃんは平気な顔して立ってるんだ?


「おい! あれを見ろ!!」

「キャアアアッ!!」


 広場にいる全員が同じ方向に顔を向ける。

 その先には首をもたげた巨大な蛇がこちらに顔を向けており、月の光をその鱗に反射させているのか、やけにギラギラとしている。


 シャアアアァァァッ!!


「こっちに来るぞ!!」

「うわああぁ!!」

「逃げろお!!」


 巨大な蛇が一鳴きしてこっちに向かってくる、周りはパニックになり、皆が皆人を押しのけて我先にと逃げ出している。


「ひ、ひいぃぃ!!」


 近くで村長が腰を抜かしている。無理もない、持ち上がってる頭の高さだけでも30Mくらいのサイズだもん。

 って、冷静に判断している場合じゃない、俺達も逃げな。


「タマちゃん!」


 タマちゃんの手を取り、この場から避難しようとするが、当のタマちゃんは蛇を見たままその場に突っ立っている。


「おい! 早よ逃げな!!」


「うん? あれはニョロか、いささかでかいのう」


「い、いや、何言ってんの?」


「シンちゃんが、昔はニョロを酒に漬けたり、唐揚げとやらにして食ってたと言っておってな。たまにニョロを狩って一緒に食ろうたものじゃ」


 ふむふむと昔を懐かしむ様に頷くタマちゃん。


「いやいやいや、何そんな落ち着いてんの!?」


「こちらに向かってくるの。丁度良い、久し振りにニョロを食らうか、シロコも喜ぶじゃろうて」


「あっ、おい!?」


 タマちゃんは軽くそう言うと蛇に向かって歩き出す。その足取りはまるで散歩に行くかの様だった。


読んでいただいてありがとうございます。

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