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67.一抹の不安


 シロコが酒を飲むと中身が入れ替わっていた。何を言ってるのか分かんねーと思うが……って俺も何言ってんだ。


 俺が驚いていると、目の前のシロコ(タマ)が俺の近くに置いてあるコップに酒を注いで、グイグイと飲み出した。


「お、おいおい!」


「なんだ、姉ちゃんもイケる口じゃねえか」


「姉さんさすがっす! あ、俺に注がせて下さい!!」


 慌てる俺の横で一気にコップを空にするシロコ(タマ)。そしてそのままトール君にコップを突き出す。てか姉さんとか。


「うむ、苦しゅうない」


「タ─シロコ!」


「なんじゃ、タクミばかりずるいぞ。我にも飲ませろ」


「そ、そうは言ってもだな……」


 それシロコの身体だからな!?

 オロオロと狼狽えるオレを見てか、タマちゃんが俺に直接思念を飛ばしてきた。


『心配するな、この身体はそんなやわな作りはしておらん。何か異常があれば我にはすぐに分かる、シロコはすぐさま寝てしもうたがの』


「えぇ……」


 酒の強い弱いは中身の問題なのか? そんなわけないだろうと、疑いの目をタマちゃんに向けるが。当の本人は涼しい顔でトール君に酒を注いでもらっている。


「うむ、この肴も中々の美味じゃな」


「お、分かるかい? ここの1番人気の料理だぞ」


 トール君が持ってきた、紅白な色した魚の天ぷらみたいな料理を、シロコ(タマ)が指で摘んで口に運ぶ。さっきまで魚を両手装備で貪ってた姿に比べると、えらくお上品な食べ方だ。

 マックさんはこの変化になんとも思わないのだろうか……酔ってんのか?


「なぁ……ほどほどにしといてくれよ?」


「心配するな、酒が残るような事にはならん」


 いや、そういう事じゃなくてな……。

 俺の心配もよそに酒を煽るタマちゃん。トール君もその度に注がないでくれ……。


「そういや宿はどこに取ったんだ?」


 もう俺も酒に逃げてしまおうと、新しいコップに口を付けると、マックさんに話しかけられる。


「え? マックさんに教えてもらったギルド近くのやつにしましたよ。えーっと、青水亭だったかな?」


「ああ、それであってる。そこは店員も客もほぼ人族だから余計な事は起きねえだろ」


「まあシロコにはビックリしてましたけどね」


「それはしょうがないだろ」


 商人の人達が宿を取る並びに紛れて、そのまま流れで取れたが、やっぱり俺たちの番の時に受付の人が一瞬固まってた。


「護衛してた商人の人達が一緒にいたんで、まあ問題は無かったですよ。マックさんはしばらくギルド施設に泊まって、エラン村に滞在するんですよね?」


「ああ、こっちのギルドをしばらく手伝ってから、オーサカに戻る商隊の護衛で戻るつもりだ。いつ戻るかは分からんが」


「? 商人の人達の都合に合わせるんですよね?」


 荷物運んだ後も色々時間がかかる物なのだろうか?


「いや、獣人族のギルドにオーサカまでの依頼をしなきゃならんからな、ある程度集まらんと出発できねえんだ」


「あ……それはすみません」


 そうだ、俺はここで終わりなんだった。そうなるとまたオーサカまでの獣人族の護衛が必要になるのか。


「いや、エラン村からオーサカに行く時はいつも依頼出してんだ、気にする必要はねえよ」


「そうなんですか?」


「ああ、オーサカで護館から借りる連中は、半分くらいは獣人国までの里帰りに利用してんだ。どっちにしろ依頼は毎回出してんだ」


 なるほど、護館の獣人族は田舎に帰るついでのバイトみたいなもんだったのか。


「今回は数が必要だが、ここに来るまでの依頼料が浮いたからな、多少上乗せすればすぐ集まるだろ。タクミはここで何すんだ?」


「そうですね……」


 翌日に速攻で獣人国とかに行っても問題ないだろうが、向こうでここにいる誰かと鉢合わせると気まずいか?

 そんな事を考えると、ふと目の前に盛られた紅白魚と目が合う。……こっちを見るな。

 その中の1匹を摘み上げて、マックさんの皿にパスしてその問いに答える。


「この魚のいる場所。湖とか見てみたいですね、ちょっと観光しながら考えますよ」


「そうか……この前も言ったが、ここは獣人族が多いからな、東側に行く時は気をつけろよ?」


「ええ、分かっています」


 そういや西側から村に入ったからか、ほとんど獣人族は見かけなかったな……。

 獣人国がある東側が獣人族と住み分けされてるいるのだろう。ここはひとつ犬モードに……余計目立つか。


「また2.3匹殴り飛ばせば良いじゃろう?」


 グイッとまたコップを空にして、タマちゃんが物騒な事を言い出す。


「ハッハッハッ、姉ちゃんだったら問題ねえな!」


「姉さんシビれるっす!!」


 煽るんじゃない、この脳筋共め。


「街中であんな盗賊相手にやった様な事はやめてくれよ?」


「それは相手次第じゃろう?」


「姉さんカッケェっす!!」


 もうこれ以上タマちゃんを持ち上げないでくれ……。


「…………」


「……どうしたんですか?」


 マックさんが急に深妙な面持ちで黙ってしまった。そのシュワちゃんみたいな体格で黙られると、ちょっと怖いぞ。


「いやな、今回の依頼は人手不足で俺も参加したんだが。エラン村に向かう途中で盗賊に襲われるのは初めてだったからな……」


「? いつもは違うんですか?」


「ああ、大抵はエラン村からオーサカに向かう時に狙われるな。それも獣人の冒険者が護衛の依頼を受けた人数が少ない時が多い」


 行きより帰りの方が怖いのか。


「やっぱり獣人族がシロコ1人だったから狙われたんですかね?」


「やっぱそう思うよな? だから毎回野営の場所は変えているし、その前に軽く巡回もしている。夜が深まってから奴らに見つかっても、馬車やテントの中は分からないんだぜ?」


「それなのに今回は盗賊に狙われたと……」


「しかも見張り番が姉ちゃんの時だったからな、他にも獣人族の護衛がいると思うだろう?」


 そう言われれば、盗賊達は獣人族はシロコ1人だと思ってた節があったな……。


「うちらの中に裏切り者がいると?」


「いや、それはないだろう。もしそうならタクミと姉ちゃんがいる時に、狙ったりしないだろ?」


 確かに。一応ここにいる人達は、茶耳の件や修練場の出来事を知っているはずだ。


「それにオーサカに戻る時は、決まって護館の連中が全員獣人国に行っちまって、護衛に着けるのが少ない時を狙われんだよ」


「それってこの村から護衛人数の情報が漏れてますやん……」


 そうなると、このエラン村にあの盗賊の関係者が潜んでいる可能性が高い。うわ、めんどくせえ。


「だよなぁ……。それも考えてるんだが、そうなると余計に今回狙われたのがおかしくてな」


「…………」


 同じ考えでオーサカにスパイがいたとしても、俺達の事は結構噂になってた筈だ。途中からずーっとつけられてたとかか?


「魔力感知が出来る輩がおれば問題無いじゃろう?」


「えっ?」


 俺とマックさんの会話に、横からタマちゃんがコップ片手に入ってきた。


「なにそれ?」


「言葉通りじゃ、ある程度の距離でも相手の位置や属性が分かる。量まで分かるのはほぼおらんがの」


 レーダーみたいなやつか。


「おいおい、それが出来るやつなんてそうそういないぞ? いても大体軍に所属してるか、他のギルドにスカウトされてる筈だ。わざわざ盗賊になんてなるか?」


「なっておるんじゃろう」


「姉さんさすがっす!!」


 タマちゃんの言う通り、それが1番可能性が高そうだけど、魔力感知が出来る人は希少みたいだ。そんな人物が盗賊ってのは、世の中世知辛い。

 トール君は……もういいや。


「もしそうならかなり厄介だが……一応参考にさせてもらうわ」


 マックさんは難しい顔で考え込んでしまった。上に立つ人は大変だと思う。


 せっかくの打ち上げが少し重い空気になってしまったが、酒の力もあってかすぐに元の雰囲気に戻る。

 トール君の宴会芸(裸踊り)もあって、酒場は笑い声に包まれながら、夜の時間は過ぎていった。


読んでいただいてありがとうございます。

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