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66.打ち上げ


「……まて」


「ううぅぅ……」


 目の前の料理に呻くシロコ。


 あれからギルドで依頼料の残りを受け取り、宿も問題なく取れた。ここでもシロコに集まる視線は相変わらずだったが、もう慣れたもんだ。


 そして今はギルドに隣接している酒場で、打ち上げの参加中である。


「では今回の護衛依頼ご苦労だった! 道中盗賊の襲撃もあったが、タクミとシロコのおかげで誰1人欠けることなく、無事エラン村までの依頼を完遂することができた! この後オーサカまでの護衛依頼を受ける奴らもいると思うが、とりあえず今夜は楽しめ!!」


「……よし」


「ガフガフガフ!」


 マックさんの音頭により、各々が酒の入ったコップを持ち上げた後、飲みが始まる。

 俺とシロコが座る丸テーブルの上には、酒の肴がこれでもかと並んでいてどれも美味そうだ。手掴みで食べるものが多いのは土地柄なのか、酒のつまみだからなのか。


「ガフガフガフガフ」


 そのおかげで隣に座るシロコは、シロコ(タマ)に代わることなく、モッシャモッシャと鮎の塩焼きみたいなのを頭から齧りついている。


「魚が食えるのは嬉しいんだが、そういやここは別の世界だったんだよな……」


 目の前には俺が見たことのない色をした魚が積まれている。姿形はまあ魚なんだが、中々にカラフルだ。錦鯉みたいな色した魚がそのまま沢山皿に盛られているのを見ると、ペンキがぶちまけられているように見えて食欲が消えていく。


「アメリカのカラフルなケーキみたいだな……」


「ガフガフガフガフ」


 シロコはそんな事は御構い無しに、両手に魚を持って交互に口に運んでいる。

 ……骨とか大丈夫か?


 とにかく出されたからには、食さないと失礼だよな。恐る恐る塩焼きみたいなのを1匹手に取りかぶりついてみる。

 ……不味くない。いや、凄く美味い。淡水魚ならではの癖はあるが、今までずっと肉ばかりだったのもあってか、とても美味しく感じる。

 やっぱり味付けは濃いめだが、それをビールみたいので流し込むと、丁度いい感じだ。


「ガフガフガフガフ」


 ……もうシロコはこのまま放っておこう。


 一心不乱に食べ続けるシロコを横に、俺は久しぶりの酒を楽しむ。この色さえ無ければなぁ、と思いつつ魚を摘んでいると、目の前の席にコップを片手に持ったマックさんが座った。


「よう! 飲んでるか?」


「ええ、初めて食べる味ですけど、とても美味しいですね」


「そいつは良かった、あまり量は出せないが姉ちゃんには腹一杯食わせてやってくれ」


「え? これって高級食材なんですか?」


 目の前には山のように焼き魚が盛られているが……。

 他の席を見てみると、シロコの目の前だけ沢山置かれていて、他はあまり魚料理は出されていないようだ。これは楽しみにしていたシロコに対して気を使わせてしまったのだろうか?


 俺のそんな申し訳無さそうな態度に、マックさんがそうでは無いと口を開ける。


「いや、そんな高い物じゃ無いんだけどな。どうも湖の魚が数日前から結構な数が死んでるみたいなんだ」


「えっ、じゃあこれってその打ち上がった魚なんですか?」


 この色って病気とかじゃないだろうな?


「いや、さすがにそんなのは出さねえだろ。どうにも湖の奥にいる魚が決まった範囲で、浮き上がってるんだと。陸に近い養殖物は無事みたいだが、慌てて別の場所や他の生簀に移動してたみたいだぜ」


「それは怖いですね……」


 なんだろう、変なガスとか吹き出してるんだろうか?


「だから今は値も上がって量も出せないみたいなんだ。ああ、安心してくれ、そこにあんのは隔離された生簀で元気に育ってたやつだそうだ」


 その言葉にほっと胸をなでおろす。


「姉ちゃんが凄く楽しみにしてたみたいだからな、ちょっと無理言って出してもらった」


「それは……どうもすみません」


「気にするな。初めてこの村に来て、その名物が食えないってのはあんまりだからな!」


 だっはっは、と笑いながら酒を煽るマック。

 やはり気を使わせてしまったようだ、心の中でムキムキマンって言っててごめんなさい。


 それからしばらくガフってるシロコを横にマックさんと飲んでいると、1人の冒険者が皿を持って俺達の席に近づいてきた。


「あ、あの、お疲れっす!」


「ようトール、肴を持ってくるとは気がきくじゃねえか」


 あのウェーイな若者だった。魚料理を持ったままチラチラとシロコの様子を窺っている。

 ごめんよ、あの現場を作ったのはシロコであってシロコじゃないんだ……。


「俺んとこの料理が余ったんで、シロコさんにどうぞっす!」


「モガッ!」


 おおぅ、その皿の料理はまったくの手付かずじゃないか……。こんな若者にも気を使わせてしまって、申し訳無さがいっぱいいっぱいだ。

 このテーブルに俺とシロコ以外にマックさんしかいないところを見ると、余程冒険者の人達に怖がられてるようだ。そんな中、このトール君はシロコのために肴を持ってきてくれる。こんなに嬉しいことはない。


 シロコ、少しは申し訳無さそうな顔をしろ。手に焼き魚を掴んだ状態で、新しい料理を見つめるんじゃない。


「まあトールも座れや!」


「うっす! 失礼します!」


 マックさんに席を勧められてトール君が席に着く。そしてすかさずテーブルに置かれた新しい料理に目を光らせるシロコ。


「ガフガフガフ──っ!? んーっ!」


「ああっ! ほら、急いで食うからだぞ!」


 シロコは手に持った魚を口に詰め込んで喉を詰まらせた。俺は慌てて側に置いてある水を渡して飲ませてやる。


「お、おい、それは……」


「ング……ング………………ヒック……」


 ふぅ、焦った。……あれ? シロコが俯いてしまった。


「タクミ、さっき姉ちゃんに渡したのはお前が飲んでたやつだぞ……」


「え? あっ……」


 やべっ、入れ物が同じだから間違えた……。


「し、シロコ、大丈夫か!?」


 俯いてしまったシロコの顔色を見ようと手を近づけるが、俺が触れる前にシロコの顔が持ち上がる。


「心配するな、少々驚いただけじゃ」


「お、おお!?」


 顔を上げたシロコはシロコ(タマ)に切り替わっていた。


読んでいただいてありがとうございます。

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