64.追いかける人達5
冒険者ギルド内の会議室に4つの種族が集まっていた。
ギルマスのマリオは、各々の目的が一緒という事もあり、ここに集まってもらった形だ。
受付嬢のフウノは、緊張した面持ちでお茶を各国の重鎮に運ぶ。
「それで、そのタクミとシロコという冒険者は、エラン村に向かったのね?」
「様をつけんか耳長!」
キリアの発言にゲンホルドが噛み付く。
「くくっ。獣人族はそのシロコ様とやらにこっぴどく振られた様だがな」
「なっ!?」
戦争中という事もあってか、各々が喧嘩腰であり、席の真ん中に座るギルマスのマリオは冷や汗が止まらない。
特にタクミ達が冒険者登録を行った経緯を聞いたゲンホルドは、今にも飛びかからんとした雰囲気だ。
「お、落ち着いて下さい。この地で各国の代表とも言える方々が争うのは、外交問題になりませんか?」
マリオは汗を拭いながら、ゲンホルド達に落ち着く様促す。腹に手を当てているのは胃が痛むの抑えている様だ。
「とにかく、先程仰った通り、タクミ達は冒険者ギルドに所属しており。現在は商隊の護衛としてエラン村に向かっております。その後はエラン村で依頼受けて、オーサカに戻るか獣人国へ向かうかはまだ分かりかねます」
「……そう、獣人国方面に向かったのは厄介ね……」
ギルマスの言葉にキリアは爪を噛む。
「ふん。分かっておるだろうが、お主達が許可なくエラン村に立ち入る事は、領土侵犯として扱わせてもらう」
ゲンホルドは、先んじてネネリカとキリアが獣人国側に向かう事を止める。その言葉にネネリカとキリアは顔を歪めた。
「ではさっさと迎えに行ってやったらどうだ? 獣人族護館の二の舞にならなければいいがな?」
「くっ……」
「えっ? 何よ、獣人族護館の話は聞いてないわ」
ゲンホルドはネネリカに挑発されて顔を顰める。キリアはタクミのギルド前の騒動と、2人が冒険者登録の事までしか知らず、ネネリカに他に何があったのかと尋ねた。
「ほう、第二王女は知らないのか。何、大した事では無い、ただ獣人族護館の連中がシロコとやらに全員叩きのめされたという話だ」
ネネリカはこれは愉快とばかりに話す。
その話を聞いてキリアと、ギルマスのマリオは驚きの表情をした。
「何よそれ!? 鍵が1人でそんな力を持ってるっていうの!?」
「それで護館に行っても、門前払いされたのか……」
「貴様ぁ……」
ゲンホルドは顔の皺を増やし、ネネリカを睨むが。当のネネリカは涼しい顔をしている。
「それにまだ獣人国に向かうと決まったわけでは無い。ここの冒険者ギルドに登録しているとすれば、ここが拠点なのだろう? 私はのんびりと待たせてもらうとする」
「……人族が魔族に染まったからって、随分と余裕じゃない」
キリアもネネリカを睨むが、その視線を微笑みで返すネネリカ。その態度に、たまらずキリアは言い返してしまう。
「別に鍵が魔族に染まったからって、龍の場所が分からなければ意味が無いんだから!!」
「ほぅ?」
キリアはしまった、と両手で自身の口を塞ぐ。その後ろに立っている従者のシリィは、やれやれと言った表情だ。
「耳長は何を言っておるんじゃ? 神獣様はシロコ様であろう」
「どうも第二王女様は、勇者の存在の他に何か知っている様だな?」
「し、知らない知らない! 私は何も知らないからね!?」
両手で口を押さえてブンブンと首を振りながら、キリアはこれ以上何も聞くなと態度で示す。
「いやー、キリアちゃんは相変わらずっすねー」
「ええ、優秀な人なんですけどね。あっ、この茶菓子美味しいですね、モグモグ……」
その後ろで魔族とエルフの従者は、仲良く談笑していた。
「と、とにかく! あの人間兵器のヤマガタ村からの移動速度を考えると、私達もこれじゃ下手に動けないわ。私達もこの街に滞在するわよ!!」
「誤魔化したっすね……」
「ええ。モグモグ」
「そこの2人! 聞こえてるんだからね!!」
キリアが後ろに振り向いて、シリィ達を威嚇する。従者の2人はフイッ、と視線を逸らすだけで反省している様子はない。
「移動速度か……確かに、私が聞いた話からすると、タクミとシロコとやらはヤマガタ村から1日やそこらで、このオーサカに着いたという事になるな……」
ネネリカは顎に手をやり考え込む。
「そんなの転移でも無理よ! きっと何か秘密があるんだわ。こんなんじゃいくら追いかけても捕まえられない……」
キリアは頭を抱える。
「ふんっ、神獣様であればその様な事造作もあるまい」
ゲンホルドはなぜか自慢げに答える。
それに対して、キリアは呆れた様に口を開けた。
「だからあれは神獣とかじゃないって……もういいわ、どうも貴方達獣人族は、シロコという人物の不興を買ってるみたいだしね」
「なっ!? この耳長が……」
キリアの言葉に憤慨するゲンホルド。何か言い返そうとするが、その声は会議室の扉をノック音によって止められる。
ガチャリと扉を開けて入ってきたのは、さっきまでお茶を運んでいたフウノだった。フウノは申し訳なさそうに、ギルマスに話しかける。
「あ、あの、失礼します……」
「なんだ? 余程のことがない限り、誰も通すなと言っておいた筈だが?」
「はい、そうなんですけどお客様が──あっ!」
「ゲン爺!」
「ゲン爺!」
フウノの足元から、2人の獣人の少女が会議室に飛び込んで来た。
少女達はゲンホルドに走り寄り、ゲンホルドは慌てた様子で迎える。
「キシラ、キシリ、護館で大人しく待ってなさいと言っただろう……」
「ゲン爺! 何か来る!!」
「デッカいの! おっきいの!!」
ゲンホルドは2人に護館に戻る様話しかけるが、2人の少女は興奮した様子でゲンホルドに訴える。そしてその内容に、周りの人物も反応する。
「ふむ? この娘達は魔力感知が出来るのか?」
「そういうのはエルフの方が得意の筈だけど……シリィは何か感じる?」
「……私には分かりませんね。もし本当なら、この子達の感知能力は凄く優秀ですね」
シリィが周囲を探ってみて何もない事を告げると、その発言にゲンホルドが噛み付く。
「貴様ら耳長にこの子達の──うぉっ!?」
だがその言葉は最後まで発せられる事なく、2人の少女に引っ張られてしまう。
「ゲン爺! 早く!!」
「ゲン爺! 行っちゃう!!」
「わ、分かった、分かったから……」
グイグイと少女達に引っ張られて、ゲンホルドは会議室を出てしまう。
会議室に残されたギルマス達も、互いに顔を見せ合い頷くと、全員が会議室を後にした。
「ゲン爺早く!」
「ゲン爺年寄り!!」
「分かっとる、分かっとるから」
ゾロゾロと会議室にいた面々がギルドの外に出る。そしてギルド前の道の真ん中まで移動すると、キシラとキシリの2人は空に向かって同じ方向に指を指した。
「あれ!!」
「あそこ!!」
指された方向に向かって、皆が空を見上げる。そして全員が息を飲んだ。
「あれは……ドラゴンか?……」
「うひー、デカイっすねー」
「うそ……解除されたの?」
「あれは食べれなそうですね。モグモグ……」
「あ、あれは神獣様!? そうなるとシロコ様は?」
はるか上空を飛んでいるものを見て、各々が別の感想を呟く。
2人の少女が指差した先には、巨大な黒いドラゴンが北に向かって飛んでいた。
読んでいただいてありがとうございます。
ブクマが話数と同じに!密かな目標達成( ;∀;)




