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63.追いかける人達4


 ネネリカ達とキリア達が冒険者ギルドに突入する1時間程前に、4人はオーサカに到着していた。


「オーサカに着いちゃったじゃない!? 人間兵器は何処に行ったの!?」


 街の入口でキリアは叫んだ。


「途中の全ての村で目撃情報はありませんでしたね。同じ村長に同じ質問するのは中々恥ずかしかったですよ、おかげで干し芋は増えましたけど。モグモグ」


「両手一杯に貰ってんじゃないわよ!」


「あたっ」


 キリアの従者、シリィは干し芋を頬張りながら答える。その態度にイラッとしたキリアは、シリィの尻を叩いた。


「ふむ、どの村にも寄らず、オーサカまで来るとは考えづらいが……」


「今度は追い越しちゃったっすかねー? もしくは何処かで雪に埋まってるんじゃないっすか?」


 魔族の姫ネネリカとその従者ミネイが、エルフの後ろをついて行きながら話す。タクミが魔族の属性に染まったと知ったこの2人は、憤慨するキリアと違い、のんびりとした雰囲気だ。


 ネネリカはその空気もそのままに、目の前を歩くキリアに話しかける。


「さて、我々は魔族護館に寄って今後の事を決めるが。第二王女様はまたヤマガタ村の方向に向かうのかね?」


「くっ……あ、当たり前じゃない!」


 ニヤニヤと挑発気味に話すネネリカに、そのまま反発して言い返すキリア。だが、それに付き合う従者のシリィは、たまったものではないと口を挟む。


「いやいやいや、私達も1度護館に戻りましょうよ。この干し芋持って移動するのは大変です。モグモグ」


「あんたは貰いすぎなのよ!」


「いやあ、どんどん食べなされって言うから、言われるがままに頂いただけなんですけどね」


「な、ん、で、あんたは村長に気に入られてんのよ!!」


 シリィは田舎特有の持て成しをそのままに受け、その食べっぷりからか、道中の村長から孫に似た様な扱いをされていた。


「まあ、それよりも。やっぱり1度エルフ族護館に戻りましょう、キリアお嬢様の顔を見せた方がいいですよ。オーサカを出る時も半ば無理矢理だったんですから」


「それだからこのまま北に向かうんじゃない! 1度護館に帰ったらまた出るのに苦労するわ。いいから黙ってついて来なさい!!」


「嫌どす、あったかい布団で眠りたいどす」


「何よその喋り方!?」


 エルフの2人が言い争いをしている中、その横を笑いながらネネリカは通る。


「ははっ、では私達はこれで失礼する。短い間だったが、それなりに楽しかったぞ?」


「そんじゃまたねっすー」


 勝ち誇った顔のネネリカを、苦虫を噛み潰したような表情でその背中を見送るキリア。

 その表情を見て、深い溜息を出しながらシリィはエルフ護館へ戻る事を促す。


「はぁ、どちらにしろ転移魔法を使うのも時間かかりますし、何より路銀が心もとないです。護館で休憩した方がいいですよ」


「……遅くとも明日には出るわよ!」


 シリィの言葉に渋々了承するキリア。そして不機嫌丸出しのまま、地団駄に近い足取りでエルフ護館の場所に向かって行く。シリィはその後ろをやれやれといった感じで、干し芋を頬張りながら付き従う。


 そしてその先で、タクミ達の情報を知る事になる。



 エルフ族護館。


「戻ったわよ!」


「芋のお土産もありますよー」


 バンッ、と扉を開いて屋敷の中に入ると、その声を聞いたエルフ族護館の館長が慌てた様子で出迎える。


「ああっ! キリア様! よくぞご無事で!!」


 その様子を鬱陶しいと言わんばかりにあしらいながら、キリアは話を進めた。


「うるさいわね、また明日には出るわ」


 その言葉に一瞬青褪める館長、だがすぐに今度は顔を真っ赤にする。


「な、なりません! どうしてもというなら今度こそ護衛を連れていただきます!!」


「やっぱりそうなりますよね。あっ、これみんなで食べて下さい」


 シリィは怒り心頭の館長に、両手に持った干し芋の束を渡す。出されたままに受け取った館長は、その量の多さに身体のバランスを崩した。


「人が多いと転移出来ないって言ってるでしょ。 それより! 何か新しい情報は入ってないの!?」


 受け取った干し芋を近くのメイドに渡し、身なりを整えながら、館長はキリアに向き直る。


「白い狼を連れた人族の事ですか? いえ、そちらはまだ何も……」


「やっぱりまだここには着いてないか……」


 キリアは爪を噛んで考え込む。普通は馬を使っても、ヤマガタ村からオーサカまで、1ヶ月以上かかる距離だ。やはりどこかで通り越してしまったのだろうと思っていた。


「あっ、その話とは別になりますが。キリア様がオーサカを立たれた後、獣人族護館の館長の息子が人族の冒険者に敗れたそうです。最近はその噂で持ちきりですよ」


「へぇ……、人族もやるじゃない。それで街中の獣人族が少なかったのかしら?」


 コートを脱ぎながら話半分に耳を傾け、エルフ族護館までの道のりで獣人族を見かけなかった事を思い出す。


「ええ、その噂が流れてから、獣人族護館の連中はまるっきり姿を現してませんから事実かと」


「これで少しはオーサカの街も静かになるんじゃない? 余程ベテランの上位冒険者がいたのね」


 脱いだコートを館長に渡そうと差し出す。館長はそのまま受け取ろうと手を伸ばしながら話を続けた。


「いえ、最近登録した新人の様です。確かタクミという名の人族──おっと」


 コートは館長に渡る事なく、手前で落ちてしまった。慌ててコートを拾い上げ、なぜ渡す前に手を離したのか。キリアの顔を見上げると、大きく両目を見開いて驚きの表情を浮かべている。


「はあああぁぁっ!?」


 エルフ族護館に、キリアの叫びがこだまする。



 …

 ……

 冒険者ギルド前。


 キリアは館長に噂の詳細を聞き出し、そのまますぐに冒険者ギルドに足を運んだ。

 そしてギルド前にて、ほんの1時間程前に別れたばかりの魔族の姫に出会す。


「……久し振りじゃない」


「ここに来たという事は、お前もタクミとやらの話を聞いたのだな」


「さっきぶりっすー」


「どうも。モグモグ……」


 あのまま北に向かえば良かったのにと、ネネリカは揶揄う様に話す。2人の従者は通常運転だ。


「それにしても、シロコという狼が獣人族の格好をしているとはな。これは獣人族に染まったという事かね?」


「そんな馬鹿な話があるわけないでしょ!」


 ここでもキリアからエルフしか知らない情報がないか聞き出そうとするネネリカ。その質問は一蹴されたが、それでも何か知っているという事は漏れている。


「まあ、それは本人に会って聞いてみるか」


「あっ!? ち、ちょっと待ちなさいよ!!」


 ネネリカが冒険者ギルドの扉に向かう。

 キリアは負けじとネネリカを追いかけ、そして追い抜いた勢いのまま、ギルドの扉に手をかける。


 バァン! と扉を開き、早足で受付まで歩くキリア。そしてポカンとした表情の受付嬢に早口で要件を伝える。


「ここにシロコと言う人物はいるかしら!?」


 そしてその後ろから、やれやれといった感じでネネリカが追いつき、似た内容を受付嬢に話す。


「タクミと言う冒険者は何処にいる?」


「えっ!? あ、あの……」


 急な来客に狼狽える受付嬢。その様子に構わず、キリアはカウターに身を乗り上げ、急かす様に話を続ける。


「ここにシロコという冒険者がいるはずよ! とにかく──」

「失礼する!!」


 そのキリアの言葉は大きな声で遮られた。自然とギルド内の視線が、大きな声の発生源に集まる。

 そこには髭を携えた獣人族が、ギルドの扉の前に立っていた。


「儂は獣人国宰相ゲンホルドと申す! シロコ様が受けた依頼の詳細を……魔族とエルフが何故ここにいる!?」


「はぁっ!? それはこっちのセリフよ!!」


「ふぅ……王女に続いて今度は宰相様か……」


 ギルド内に異様な空気が流れる。


 その中で受付嬢は、ただオロオロとする事しか出来なかった……。

読んでいただいてありがとうございます。


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