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61.追いかける人達2


「…………」


「…………」


 シィーン、と静寂な時間が続く。


 魔族、エルフが沈黙して固まる中、その空気に耐えられなくなったのか、ゴドルは言葉を発した。


「あ、あー、なんだ? 姉ちゃん達、タクミの知り合いか? あいつも隅に置けないな!」


 ガッハッハッ、と笑うゴドル。

 そしてその言葉を聞いて、今まで固まっていたエルフ族のキリアは、ゴドルに掴みかかる。


「あああ、貴方も人間兵器に会ったのね!? どこ!? どこにいるの!? この村のどこに匿ってるの!?」


「お、おう? おう?」


 ゴドルの服を掴み、グイングインと前後に振りながら問うキリア。だが体重差のせいか、前後に移動しているのはキリア自身だった。


「キリアお嬢様、そんなんじゃ話を聞こうにもまともに聞けないですよ。モグモグ」


 落ち着きのなくなった上司を宥める従者のシリィ。


「逆になんであんたはそんなに落ち着いてられるのよ!? ひと月以上かかって、初めてまともな情報が見つかったのよ!?」


「いやあ、見つかって逆に面倒くさくなったなぁって……」


「あなた後で1回殴らせなさい!!」


 村長宅の前で騒ぐエルフ族。それを横目に、今度は魔族のネネリカがアーニャに話しかける。


「ふむ、そのタクミとやらのところに案内して貰ってもいいかね?」


 エルフのやりとりをポカンと眺めていたアーニャは、ネネリカに急に話かれられビクッとするも、聞かれたままにタクミが今はここにいない事を説明する。


「え、えっと。タクミさん達は10日程前にこの村を立たれましたが……オーサカに向かっていると思います」


「……なに?」


「うそっ!? 途中の村にはいなかったわよ!?」


 この異種族4人はオーサカからヤマガタ村まで、道中にある村全てで白い狼を連れた人族の捜索をしていた。


「どこかですれ違ったのか? だがどの村にもそういった人物がいた様な話は無かったが……」


「途中で雪に埋れてるんじゃないっすか?」


 ネネリカは道中での見落としが無かったか考え、ミネイはあっけらかんと酷い事を言う。


 各々まとまりがなくなっている状態の中、村長の娘アーニャが恐る恐る発言した。


「あの……よろしければ家の中でお話ししませんか?」


「うん? ……そうだな」


 ふと周りを見ていると、村の人々の視線が集まっていた。

 村長宅の前で、ただでさえ珍しい異種族がたむろしている。しかもなにやら騒がしくしているのであれば無理もない話だ。


「こちらにどうぞ。あっ、ゴドルさんも来てくれませんか?」


「あー、その方が良さそうだな。ちょっと交代の予定だった奴に話してくるわ、すぐ戻るわ」


「では上がらせていただこう」


「だからなんであんたが仕切ってんのよ!」


 アーニャは家に招き入れる。4人の異種族はぎゃあぎゃあと騒ぎながらも村長宅に足を踏み入れた。



 …

 ……


「魔族!? そう言ったんだな!?」


 ネネリカは興奮気味にゴドルに聞き返す。


「ああ、見た目は完全に人族だったけどな。あの炎の竜巻は凄えもんだったぜ。なあ村長?」


「いや、儂はその魔法は見ておらんが……。まあ、吹雪虎のあの有様を見たら、かなりのものだったというのは分かる」


 村長も交えて、タクミがこの村にいた時の事を語る。主に話しているのはゴドルであったが。

 そしてタクミが炎の魔法を放ったという情報を聞いて、エルフ族のキリアはうなだれた。


「なんて事……」


「あー、取られちゃいましたね」


「ふん、これで勇者の力は魔族の物となったわけだな」


「よく素っ裸で生きてたっすねー」


 ネネリカは勝ち誇った顔で、キリアに勝利宣言をする。キリアはネネリカのドヤ顔に腹を立てたのか、声を荒げて言い返した。


「なによ! 魔族同士の魔法は効果が薄くなるだけじゃない!! まだあんた達の物になった訳じゃないわ!!」


「薄くなるというよりは、干渉が容易いという事だがな。だがそれはエルフ族も一緒だろう? これで少なくとも、勇者の力が我が魔族に向けられる心配がなくなったという訳だ」


 同属性の魔法はある程度の干渉が可能だ。特に遠距離の魔法が多い魔族とエルフはその効果が顕著に現れる。獣人族の場合は基本的に近距離で殴りあうので、干渉するには組み伏せる必要があるが。


「そ、それでもまだ魔族に付いた訳じゃないわ!」


「そうだな、ではエルフ族で引き取るのか? 制御などできまい?」


「くっ……」


 ネネリカの言葉にキリアは顔を顰める。

 だが、キリアは1つの可能性を思い出した。


「……まだよ」


「なに?」


「村長、その白い狼、シロコって言ったかしら。その狼は何か魔法とか使ったのかしら?」


「え? い、いえ! そう言った話は聞いてませんが……狼ですよ?」


 村長は急に話を振られ、そのままに答えてしまう。そしてこの2人は一体なんの話をしているのだろうと、不思議に思っていた。


「やっぱり……それならまだエルフが竜の鍵を手に入れられる可能性がまだあるわ……」


「……ほう、エルフは守護竜の存在を知っていたのか。その場所は分かるのか?」


「それがどこにも──って!! なに言わせんのよ!! あんたにはなにも話すことなんかないわ!!」


「ちっ」


 情報の開示を誘導されそうになったキリアは、ムキーっと地団駄を踏む。


「ていうかさっきから何よ勇者って!? あんたのとこの情報おかしいんじゃないの!?」


「何を言っている? こちらはそちらが言う兵器とやらが記した正確な資料だぞ? そっちがおかしいのだろう」


「はん! そんなの人間兵器が鍵としての自覚が無かっただけでしょって、ああっ!?」


 頭に血が上っているのか、キリアはどんどんとエルフが得ている情報を小出しにしてしまう。


「もうキリアお嬢様は黙ってた方がいいんじゃないですか? モグモグ」


「勝手に色々喋ってくれるっすねー。ズズッ」


 その有様を見て、従者の2人は呑気にお茶を飲んでいる。他の人族達は完全に空気だ。


 そんな中キリアはバンッと立ち上がり、自分の従者に向かって声を放つ。


「シリィ! 今すぐオーサカに戻るわよ!!」


「えー」


 上司の言葉に、シリィはあからさまに嫌な顔をする。

 そしてキリアの言葉を聞いて、ネネリカも動き出した。


「ふむ、タクミとやらが魔族に染まったのなら、側にいるシロコというオオカミもそうなっている可能性が高いが、万が一という事もある。ミネイ、私達も出るぞ」


「えー」


 ミネイも嫌な顔をした。


「………」


「あんた達……」


 キリアはシリィの頭をポカリと殴り、ズルズルと引きずりながら村長宅を出る。ネネリカも追いかけるように、無言のままミネイの首根っこを掴んで玄関に向かっていった。


「あ、お邪魔しましたっすー!」


 引きずられながら、ミネイが退室の言葉を村長達に向けて放つが。いきなりやってきて勝手に解釈し、そしてそのまま出て行く。そんな展開についていけない村長達は、ただただそのまま見送ることしかできなかった。


 その中でもアーニャは特に混乱している。


(タクミさんを連れ戻しに魔族の人が来たのかと思ったけど、シロコさんの事は獣人族って知らないみたいだし……)


 タマが話したでまかせのせいで、余計に頭がぐちゃぐちゃになっていた。


読んでいただいてありがとうございます。

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