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56.こっちもすれ違い


 獣人国王室隊の一際目立つ馬車に、1人の獣人が馬に乗りながら近づく。


「ゲンホルド様、よろしいでしょうか?」


「なんだ? 馬車の進みが遅くなったぞ」


「進行方向に商隊の集まりがおります、おそらくエラン村に向かわれるものと思いますが、如何いたしますか?」


「オーサカの方から来たという事は人族の商隊であろう? そんな事で一々足を緩めるな」


「いえ、オーサカからという事は護館からの獣人達も連れていると思われます。ゲンホルド宰相のお言葉をかけられるかと思いまして」


「いらん、我々はその護館に向かっておるのだ。それより馬車を止めてキシラとキシリが起きたらどうする!」


「ううん……」

「んか……」


 ゲンホルドが強い口調で話すと、横で寝ている獣人の双子がむずがった。


「おお、危ない危ない……。とにかくそういう事だ、そのまま通り過ぎろ」


「はっ!」


 ゲンホルドの命令を受けた軍人は馬を蹴り、先行している部下の下へ向かう。


「エラン村でも2人には魔力感知で無理をさせてしまったからな。ゆっくり休みなさい……」


 ゲンホルドは優しい顔をすると双子の獣人の頭を撫で、ズレた毛布を掛け直した。





 商隊のリーダーであるボロノフは、斥候であろう獣人族の軍人に足を止められていた。


「獣人族の護衛がいない様だが?」


「いえ、いますよ? もう休憩が終わって今から出るとこだったので、もう馬車に乗り込んでると思います」


「そうか、今から宰相の馬車が通る。挨拶をさせるので呼んで来い」


「はぁ……」


 今から出発すると言っているのに、そんな事は知らぬとばかりに言われ、ボロノフは眉をしかめる。


 言われた通りに連れている獣人族を呼びに行こうとするが、ふと足が止まる。

 連れている獣人族、シロコについて思い立ったからだ。


(確かにシロコさんは獣人族だが、人族の冒険者ギルド所属だよな? 護館から獣人族は借りていないし、これは色々と難癖つけられそうな……)


 急に足を止めたボロノフに、斥候の獣人はイラつきながも事を急がせようとした。


「さっさと──」

「おいっ!」


 だがその言葉は彼の上司によって遮られる。


「はっ! 如何いたしましたでしょうか?」


「ゲンホルド宰相は馬車を止めるなとの事だ。このまま進むぞ」


「了解致しました! ……おい、行っていいぞ。だがもっと端に寄せろ」


 あからさまな態度の違いに腹が立つが、そこは商人として表情には出さず、ボロノフは笑顔で了承した。


「分かりました、道中お気をつけ下さい」


「はっ、人族に心配されるまでもない」


 斥候の獣人はそう言い捨て、本隊に戻って行った。


「聞いたな? 馬車を1列にして端に寄せるぞ」


 ボロノフは後ろにいた商人に指示を出した後、はぁ……と溜息をつく。


 総じて獣人族は力の劣る人族を軽んじる。

 ここまでの道中、シロコを見ていたボロノフは、獣人族の見る目が少し変わっていたが、ほとんどはこうなのだろうと改めてシロコが特異なのだと認識した。





「お、動き出したみたいだな」


 馬車が一向に動き出さないから、何か揉めてるのかと思った。


『シロコ、飛車を進めるのじゃ』


「わん」


『ああっ! 違う! そこではない!』


 手製の将棋盤の対面に座っているシロコは、タマちゃんに操作されながら駒を動かしているが、あまり上手くいってないようだ。


「ありゃ、今度は引っかからなかったか」


『何っ? また姑息な手を使いおったか』


 人聞きの悪いドラゴンだ。


 馬車が動き出して少し立つと、あの豪華な馬車の集団がすれ違っていく。

 ガラガラと交差していく集団を後ろから見てみると、やはりというか全員が獣人族のようだ。そしてみんな皮の鎧みたいなもの着込んでいる。


「なんか物々しい集団だなぁ……」


『何をしている? タクミの番じゃぞ』


「ん? ああ、悪い」

「タクミのはここ!」


「あっ! こらっ、勝手に……いや、ありだな」


『シ、シロコ……』


 テーブルゲームでもシロコに振り回されながら、護衛の旅は続く。

読んでいただいてありがとうございます。

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