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55.道中でやってること


 道中でタマちゃんにボコボコ殴られながらも、順調に護衛の旅は続く。10日も経てば起きている間は魔力アイドリングにも慣れた。


「ふんっ」


「痛い!」


 顔の下からパンチが飛んで来て、ゴスッと綺麗に顎にヒットした。


「それはズルいんじゃないか?」


「どの様な状況でも油断するでない」


 タマちゃんは俺の膝から起き上がりながら俺に叱咤する。─あぶねっ! 今度はチョップできた!

 シロコは最近朝飯をたらふく食った後、馬車での移動が始まるやいなや俺の膝に突撃して寝始める。

 もう食っちゃ寝食っちゃ寝の繰り返しだ。それなのに夜もしっかり寝るのだから、もうこの犬は駄目かも知れない……。


「では昨日の勝負の続きじゃ、どちらでも良いぞ」


「負けそうになったら殴るのはやめてね?」


 勝負というのは、2人で遊べるゲームのお馴染み、リバーシと将棋だ。

 そんな物がどこにあったかというと。馬車に乗ってるだけの道中はあまりにも暇で、商人さんから紙と書くものを売ってもらい、自分で作ったお手製の物だ。

 最初はトランプでも作ろうかと思ったけど、2人で遊べそうなルールは知らないのでこれになった。


「今日は将棋にするか、待ったは5回まで許そうじゃないか」


「ふん、今に見ているがいい」


 タマちゃんは意外にも将棋にはまった。今の棋力は覚えたての小学生並みだが、あっさりとルールを理解したあたり、油断は禁物である。


「爺さんから教えてもらってなかったのな」


 こういうテンプレは消化していなかったらしい。


「シンちゃんは常に忙しそうにしておったからの、たまに温泉に行くくらいじゃった」


「それだと俺が暇してるみたいジャマイカ」


「そうは言うておらんじゃろう。ほれ、タクミの番じゃぞ」


「はいはい」


 使っている将棋盤は紙製なので、パチンという音が無いのが物悲しいが、いい暇つぶしにはなる。


 しばらくペタン、ペタン、と盤面が進んで行き、タマちゃんが得意げに自分の飛車を俺の王将のニマス前に放り込んで来た。


「ふふん、これが王手角取りというやつじゃな。昨日の借りを返すとしよう」


 昨日俺にやられた手をやり返してくる。このドラゴンは意外と根に持つタイプの様だ。


「ほい」


 俺はそれに対して持ち駒の香車を王将の前に置く。タマちゃんが置いた飛車の後方にはタマちゃんの玉将。絶対引っかかると思った。


「なにっ!? ぬ…くく……」


 タマちゃんは性格柄なのか、攻め将棋一辺倒で引く事を知らない。この将棋とリバーシで得た俺の地位は、まだ安泰の様だ。


「待ったする─あっぶな!」


「ふんっ、ちゃんと巡らせておるな……待った」


 いつもより強目のチョップが俺の頬を掠める。

 このドラゴン、2千年以上生きてるのに大人気ない。それでいて待ったするのね……。



 …

 ……

 ペタペタと将棋を続けていると馬車が止まった。


「昼の休憩かな?」


「その様じゃの。ではこの勝負はまた今度じゃな」


 タマちゃんはそう言ってグシャグシャーっと盤面を崩してしまう。勝てそうな時はそのままにする癖に……。


「シロコ、御飯」


「ごはん!」


 シロコ(タマ)からシロコ(シロコ)にチェンジ。ポヤッとした表情に変わりながらも、カッと目を見開く。

 お前は簡単だな。


「ああ、馬車から出るぞ」


「わん!」


 馬車から下りて固まった体を伸ばす。周りの下りてきた冒険者や商人達も同じ行動をするのを見ると、高速のサービスエリアを思い出す。

 世界が変わってもこういうところはみんな同じだな。


 休憩場所は、森のすぐ側で少し開けている。

 エラン村はオーサカの東南にあり、馬車は左側にある森に沿いながら向かっている。


「んーーっ!」


 シロコも俺が伸びをしているのを見て真似をするが、そのポーズは宇宙人と交信している様でなんか違う。


「さて、御飯を貰いに行きますか」


「ごはん!」


 朝と昼の食事は、毎回手で持って軽く食べられる物を配っていて、それを受け取りに移動する。

 夜は火を起こして、炊き出しをするのでちょっとしたキャンプ気分だ。


 配給場所に行くとチャラ男が食事を配っていた。


「あっ、タクミさんお疲れ様っす! これどうぞ! シロコさんは2人前ですね!」


「ああ、ありがとう」


「うぃっす!」


 チャラ男からハンバーガーみたいなのを受け取ってシロコにも渡してやる。最初からシロコの分は2人前用意されていたのは、気を使ってくれたのだろう。ありがとうございます。


 適当な場所に座ってハンバーガーを頬張る。やっぱり味が濃いな、美味いけどこれが続くと血圧が高くなってしまわないか心配になる。


「がふがふがふ」


 俺のそんな心配は他所に、一心不乱に食べるシロコ。


「そんなに慌てて食わなくても、もう一個は逃げないぞ……」


 シロコの口を拭ってやりながら、自分の食事を進める。これは子育てなのか介護なのか判断が分かれるな。



 …

 ……

 30分程の時間が経つと、そろそろ出発なのか周りの商人や冒険者達が動き始めた。


「よう、そろそろ移動を開始するぞ。あれ? 獣人の姉ちゃんはどこだ?」


 適当な岩に、ぼーっと座っていたらマックさんに話しかけられた。


「ああ、あそこにいますよ」


 視線をシロコがいる方に向ける。

 シロコは馬車に繋がれている馬の首をペチペチしていた。

 馬も馬でシロコの髪をハミハミしてるのは、仲良くしているのだろう。動物同士、意思疎通ができるのだろうか?


「……まあ、仲良くしている様で何よりだ」


「ははは……」


 コロコロ変わるシロコの行動に何か言いたいのだろうが、ここはまるっと無視の方向で。


「もうそろそろ距離的にも半分だ、しっかり頼むぜ」


「まあ座ってるだけですけどね」


「何も起きないってのは良いことだ。その調子で─おっ、珍しいな」


 マックさんがエラン村までの道に視線を向ける。俺もその方向を見ると、こっちに別の馬車の集団が向かって来た。


「何が珍しいんです? こっちとは逆に、オーサカに向かう集団ですよね?」


「オーサカに向かってるのは間違いないだろうな。だが、馬も馬車の作りもこっちよりも立派なもんだろ? 多分獣人国から直接移動してきたんだろう。要人を連れてるのかもな」


 確かに豪華な作りの馬車みたいだ。変な装飾も付いてて、引いてる馬の数も違う。


「まあ、ボロノフが対応するだろ。俺たちはさっさと馬車に乗っておこう」


「分かりました。シロコっ!」


「っ! わんっ!」


 突っ込んでくるシロコを受け止めて、担当の馬車に乗り込む。

 あの馬車にはどんなブルジョワが乗っているのやら。


読んでいただいてありがとうございます。

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