51.調べもの
「だーみだー……」
図書館内にある机に両手を伸ばして突っ伏す。
「よっし、よし」
「シロコ……慰めてくれるのは嬉しいが、場所は選ぼうな。後、両手で撫でるのはなんか違うぞ?」
それなりに人がいる室内で、うどんをこねるかの様に撫でられる。
『知りたい事は、何1つ分からなかったの』
「爺さんがこの世界に本当にいたのか、怪しく思えてきたよ……」
ここ数日図書館に通い詰めたが、爺さんが調べていた遺跡の情報どころか、シンゾウ・アズマのシの字すら見つからなかった。
『1番古い記述が一千年程前とはの、歴史の浅い国じゃ』
いや、結構凄いと思うよ?
「そもそも人族の王国があったっていう話すら見つからないよな……本当にあったんだよね?」
爺さんが所属していた王国があったのなら、その痕跡やら記録やらあってもいいと思うんだが。
『当事者の言葉が信じられぬのか?』
「そういう訳じゃ無いけど……やっぱり昔の話過ぎるのかなぁ」
グニャ~、とまた机に突っ伏す。
……シロコ、だからそれはナデナデでは無いぞ。
「あの……何かお探しでしょうか?」
「あい?」
シロコにこねられていると、なんか優しい声で話しかけられた。
おお、眼鏡のお姉さんではないか。俺に眼鏡属性は無いけど、これはこれでいいものだ。
「初めまして、私はここの職員でナリアと言います。ここ数日、ずっと何かお探しの様子ですが、良ければお力になりますが?」
「はぁ……」
親切心から言ってくれてる様だが、それは嘘だね! だって眼鏡さんの後ろの方で他の職員さんがヒソヒソしてるもの……。
多分シロコを連れてるのが原因だろうけど。これはアレだな、ジャンケンで負けた人が罰ゲームで嘘告白的なやつだ。俺のトラウマを抉るのはやめていただきたい。
「いやー、無理しなくても良いですよ? 迷惑でしたらもう出て行きますけど?」
「えっ? あっ! 違います違います!」
俺が眼鏡さんの後ろに向けた視線に気が付いたのか、慌てておる。
「私も先日知ったんですけど、お二人とも最近冒険者登録した方ですよね? そしてギルド前で護衛隊の人を屋根まで蹴り飛ばしたっていう……」
「なんか色々と噂に尾びれ背びれが着いてそうだなあ……」
こんなとこまで噂が広がっているのか。それともマックさんの仕業か?
「ここに獣人族の方が来るなんて珍しいなと思ってたんですけど、それがこの街の冒険者って知って驚きました」
「なんというか半分成り行きでなったんすけどね」
それはもう流れる様に登録してしまった。
「そうなんですか? それで後ろの娘達も、その噂を聞いて気になってるだけです。誤解させてすみません」
ペコリと頭を下げる眼鏡さん。
「いえいえ、俺もシロコを連れてここに入り浸るのはマズイかなって思ってただけなんで。謝らないでください」
逆に嘘告白とか思ってすみません。
「いえ、確かに他の種族の方が利用するのは珍しいですけど、駄目ということはありません。それで何かお探しでしたらご協力致しますが?」
これはありがたい、もう本を探す作業は疲れたですたい。
「是非ともお願いします、本の数が多くて辟易してたとこでした」
「ここは街の唯一の図書館ですから。それで何をお求めですか?」
「えーっと、そうですね……」
さて、どんな質問が良いだろう? 地球への帰還方法とかあったらそれで終わるんだが、まあ無理だろうなぁ。
「シンゾウ・アズマに関する記録や著書とかって無いですか?」
「シンゾウ・アズマですか? ……すみません、初めて聞く名前です。響きからして人族の方だと思いますが……」
爺さん、名前すら知られてないぞ。
「そうですか……では、この街が出来る前の事が分かる本とかは?」
「この街が出来る前の歴史ですか、それは神代歴の頃ですね。その時代人族は、この北の地でバラバラに住んでいたと言われてますので、そういった記録は難しいかもしれません……」
えぇ……本当に存在して無いことになってないか?
「そうですか……」
「シンゾウ・アズマとはその時代の人ですか?」
「まあそんな感じです」
「そうなりますとこの図書館ではご期待に応えられそうに無いです……申し訳ありません」
「いえいえ気になさらないでください」
さて、振り出しに戻ったか。
『あれだけシンちゃんから恩義を受けておきながら記録すら残さぬとは、やはり人族じゃの』
それもあるけど、王国の事すら知らないのはおかしくないか? この地にバラバラに住んでいたってのも、タマちゃんとは言っている事が違う。
「うーん、どうしたものか……」
「あの……お連れは獣人族の方ですよね?」
さっきから俺の着ぐるみを捲ったり引っ張ったりしてる人ですか? 中身は犬でござる、恥ずかしいのでやめていただきたい。
「ええ、そうですが?」
「神代歴の時代は獣人族の方達の方がお詳しいと思いますが……」
マジか。
「い、いやー、人族ではどう伝わってるのかなーって思いまして?」
「そうですか。でもそれでしたら、その時代から国として続いている、魔族やエルフ族の方が詳しく分かると思いますよ? ああ、でもそれは難しいのですね」
眼鏡さんはシロコをチラッと見て勝手に察してくれた。良かった、誤魔化せた。
「え、ええ、そうなんですよ」
「私ではお力になれないようです、申し訳ありません」
「いえ、いくつか知りたい事も分かりましたので、お気になさらず」
こうなると他の国に行く必要がありそうだな……。
冒険者として訪れる事は出来そうだけど、シロコがいるから魔族やエルフの国は難しいかも知れない。いや、犬状態ならいけるか?
「タクミ、おなかすいた!」
お姫様が空腹を訴えてきた。お前の腹時計は正確ですね。
「ああ、もうそろそろ昼か。それでは失礼しますね、ご丁寧にありがとう御座いました」
「いえ、また御利用下さいませ」
眼鏡さんに挨拶をして図書館を後にする。
外に出るなり手を繋いでくるシロコ。もう歩くのに不安はないだろうに、これも恒例になってしまったな。
「他の国に行く必要がありそうだなぁ」
『地図はギルドから貰っておろう? 何処でもひとっ飛びじゃぞ』
「そうなるとどこに行くかだけど、やっぱりシロコがいるから獣人族のとこかな?」
『好きにするがよい。それよりもほれ、いい加減シロコが拗ねるぞ』
そう言われてシロコの顔を見ると、頬を膨らませている。最近その仕草が増えてきたな。
「分かった分かった、何が食いたいんだ?」
「デミセ!」
「お前そればっかじゃねえか」
シロコに引っ張られ、出店が多い広場に連れて行かれる。
明日は冒険者ギルドで他の国の状況を教えてもらうとするか……。
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