表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/84

48.進化したタックル


 というわけでギルドの修練場に来ました。

 ギャラリーもいっぱいだなあ……もう目立ちたくないって希望は儚く散ったな。


「それじゃあマックさん、俺は何をすればいいですかね?」


「そうだな……というかあの姉ちゃんはあのままでいいのか?」


 あの姉ちゃん、シロコは修練場の壁際にある椅子に座り、膝の上に茶菓子を沢山乗せてご満悦だ。あれで拗ねることもあるまい。


「ええ、お菓子ありがとうございます」


「それは別に構わないが、さっき昼飯食ってたよな? 大盛りで」


「……女性は甘い物が別に入る胃袋があるらしいですよ?」


「そ、そうか……」


 もうシロコは大食いキャラにしてしまおう、誰かに餌付けされてしまわないか心配だが……って、誰もシロコに近づかないな、ありがたいけど。


「獣人族って嫌われてるんですか?」


「ん? まあ獣人国に向かう護衛の道中はギスギスしてるな、大抵の獣人は人族を見下してるからな。タクミもあのタジルになんか言われてただろ?」


「あんなのばっかりなのか」


「だからタクミがあいつを蹴っ飛ばしてくれて胸がスッとしたぜ!」


 ニカってサムズアップされた。


「それは宜しゅうございました……じゃあ誰かを蹴っ飛ばすって事でいいですか?」


「うちの冒険者を潰す気か! ええっと、そうだな。うちは剣の使い手が多いから、とりあえずあの試し打ち用の大板で何か見せてくれ。 タクミもその腰の剣を使うんだろ?」


 この虎の脂でテッカテカのやつか。


「分かりました、それでいきましょう」


 力任せにぶった切ればいいか。


 …

「この板ですか?」


「ああ、それだ」


 目の前には、両端から縦線の入ったデッカい板が地面に突き刺さってる。幅2メートルくらいの長さだな。


「この左右にある線の目盛りで威力を測ってるんですか?」


「まあ見りゃ分かるわな、その通りだ。ちなみに上位冒険者の試験では10目盛りが最低条件な」


 10目盛り、大体50センチくらいか、板の厚さから考えると結構凄いね。でもマックさんがそう言ったって事は、それを越えろって事だよな……。


「んじゃいきますね」


 剣を抜いて板の前で構える。うわ、すげえ注目されてる。シロコ以外。


「おい、お前あれいくつだった?」

「おれは最高8だな……」

「マックさんが最高14だっけ?」

「シッ、始めるぞ」


 これ変に手加減して恥かくのもやだな……いいや、思いっきりやっちまおう。


 魔力を練って~練って~。


「ふんっ!」

 ボギィィンッ!! ……ドスッ。



 ……上下に真っ二つにしてしまった。……どうしよう。



「あの蹴りもそうだったが、すげえな……」


「…………」

「え? は? マジで?」

「嘘だろ?」


 この空気はやばい、やっぱりやりすぎたみたいだ。なにか、何か言い訳を!


「あ、あー。今日は調子が良いいなー、この剣のノリも良かったしー」


 我ながら苦しい。


「なあタクミ、ちょっとその剣貸してくれないか?」


「え? ええ、構いませんけど」


 周りがザワザワする中、剣の持ち手をマックさんに向けて渡す。


「ありがとよ。……うお! こりゃすげえな。この剣、魔力伝達率がハンパないぞ、すげえもん持ってんな。 よっと、ちょいと失礼」


 マックさんが剣を肩に担いで上下に割れた板に近づく。


「シッ!」

 ドスッ!!


 上半分が無くなった板に斬りつけた。目盛りは……20だ。


「おお! あっさり記録更新したぜ!! ……だがこれは物凄く燃費悪いな。俺じゃまともに使えそうに無いわ」


 ありがとよ、って剣を返される。


「あの武器が凄いのか……」

「ばか、それでもマックさんは20だっただろ」

「上位冒険者がまともに使えない武器ってなんだよ……」


 お、剣のお陰って事に出来そうだ。

 これでなんとか誤魔化し(クイクイ)……誰だ俺の着ぐるみを引っ張る奴は?


「……シロコ、どうした?」


「おかしなくなった!」


「結構な量あったよな?」


 食いしん坊キャラが止まらない。


「お、獣人の姉ちゃんも何か見せてくれるのか?」


 今度は何を言い出すんだこのマックは、林檎の会社に返品するぞこの野郎。


「いやいや、獣人族に強さの証明はいらないでしょう?」


「それもそうなんだがな、だが2人共強いって所を見せてくれてもいいんじゃないか?」


「えぇー…」

「?」


 見ろ、シロコがキョトンとしてるぞ。コイツに何かさせるって、厄介な事にしかならないぞ。


『ふむ、面白そうじゃな』


 あ、まずい。


「こら、タマちゃん! 今度は何をする気だ」


 ギャラリーに背を向けて、また小声で抗議。


『ここで力を見せつけておけば、シロコにちょっかいをかける奴もおるまいて』


「獣人族ってだけで充分避けられてるじゃん」


『では遠避けるまでにしておこうかの。 シロコ、アレを見せれば菓子を追加でくれるそうじゃぞ?』


「やる!!」


 何だよ!? アレって何だよ!? おれの知らないとこで2人共いつも何やってんだ!?

 てかシロコ、お前は最近タマちゃんに乗せられすぎだぞ!


「あー…なんか姉ちゃんがやってくれんだよな?」


 シロコの声が聞こえてしまったか……。


「お菓子をくれればやるそうです……」


「お、それでいいならいくらでも用意するぞ!」

「今度はあの獣人族が何かするみたいだぞ」

「白い髪の獣人族って初めて見たけど、凄いのかな?」


 畜生…味方がいねえ……。


 …

『ではタクミ、あの板の向こうに立て』


「え? 何でだよ?」


『いいから言う通りせい。シロコのやる気が変わるし、被害も抑えたいであろ?』


「また不穏な事を…もう好きにしてくれ……」


 ブツブツ言いながら、言われた通りに上半分が無くなった板の反対側に立つ。


 そしてシロコがその向かいに移動して俺がいる方向に体を向ける……。あ、嫌な予感しかしない、もうちょっと離れよう。


「なんだ? あの板を拳で破壊するのか?」

「獣人族ならまあ折ることは出来るんじゃね?」

「でも向かいに立たせる意味ってなんだ?」


 ギャラリーもなんかあったまってんなあ……。


『ではシロコ、準備は良いか?』

「わん!」


 ブゥワッッ!!

 チッチヂチチ……


 シロコ? お前頭がなんか凄い事になってるぞ? 腰まであった髪が全部上に向いちゃって、どこぞのペガサス昇天MAX盛りヘアーだ。ん? 合ってるか?


「し、シロコさん? 何をする気で──」

『良し、行け!』

「わん!!」


 チュンッ

 バキャアアンッッ!!!


「あっぶねええええ!!」


 板を粉砕してシロコが突っ込んできた!


 ドォン! ズシャアーーー……


 なんかパリパリしてるシロコを全力で受け止める。前もって身体強化して良かった、こんなん強化してなかったら反応出来ないぞ。

 

 ……ドンッ。

「ゲフッ」


 シロコを受け止めたまま地面を滑り、修練場の壁で止まる。胸元にいるシロコは俺を見上げて何故かご満悦だ、褒めろってか?


「お前はアメフト選手になれるな……」


 尻尾ぶんぶんのシロコの頭をひと撫で。


「…………」

「…………」

「…………」


「ギャラリー全員ドン引きじゃねえか……」


 シロコを連れてマックさんのところへ戻る。


「……こんなんでいいですかね?」


「あ、ああ……タクミは大丈夫なのか?」


「あー…、この毛皮も特別製なもんで」


 防具屋の人もそう言ってたし。


「あ、俺防具屋で聞いたぞあの毛皮、凄いもんらしいぜ」

「剣といい凄い装備だな……」

「あの攻撃まったく見えなかったぞ……」

「あの変なローブも相当らしいぞ」



 これは……あのポニテだな。個人情報だだ漏れじゃねえか。


「さすがだな。おい、これで文句無いだろう?」


「え? あ、ハイ。いや、別に疑ってた訳じゃ……」

「すっげえ……」


 何故かマックさんが修練場にくる原因になったチャラ男グループにドヤ顔で言った。解せぬ。


「それじゃあもういいですかね?」


「ああ、わざわざ悪かったな。おいっ! お前らも散れ散れ!」


 マックさんが解散宣言、ザワついたままのギャラリーが散っていく。


「はぁ、やっと解放されたな。んじゃ行くかシロコ」


 出口に向かって歩き出すが着ぐるみを引っ張られる。


「グエッ。…何すんだシロコ」


「おかし!」


 そうだったな……。


「マックさん……」


「あ、ああ、今持ってくるよ」


 マックさんが頭を掻きながら、菓子を取りに受付の方へ歩いていく。


 うちの子がすみません……。


読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ