47.冒険者デビュー
「全体的に味が濃いな、不味くはないけど」
「シロコは好みの味の様じゃぞ?」
「すっかりジャンクフード好きになっちゃって……」
冒険者ギルドの酒場で出された定食は、ツマミがそのままオカズになってるみたいだ。
肉体労働な職場柄、味が濃いものになっているのだろう。でもこういうのが好きとか言われると、お父さんはお前が心配になるよ……。
ハンバーガーとかばっかり好む子供を持つ親は、きっとこういう心境なんだろうな。
「ここにいたか。丁度いい、俺たちも一緒させてくれ」
マックさんが新たな髭の小太りオッさんを連れて来た。モスか!? それともウィンドウズさんか!?
「ええ、構いませんよ。そちらの方は?」
「ああ、これは──」
「紹介するのにコレとはなんだ、自分で名乗るわ。だがその前に……おい、こっちにも同じ物を頼む!」
近くにいるウェイトレスさんに注文して、オッサンズは丸テーブルの向かいに座った。
「初めましてだな。俺はここのギルドマスターでマリオ・サナダだ、よろしく頼む」
マックにかすりもしなかった、逆にルイジを探さなければ。髭の小太りがフリだったか……。
「どうも、タクミ・サンダースです。こっちはシロコ…… ・タマチャンです」
シロコの苗字考えてなかったわ、とっさにタマチャンって言ってもうた。セバスチャンがいるんだからなんとか…あ、タマちゃんがわろてる。
「初めて聞く名だな……マック、本当に彼が?」
「ああ、ギルマスは実際に見てないから分からんだろうが。話は聞いてるだろ?」
「昨日ギルドに戻ってからずっと聞かされとるわ。目の前で獣人族がこの酒場を利用してるのを見なければ、本当にいるのか疑わしかったがな」
やっぱ他の種族はあまり利用しないのか。
「それでそこのシロコさん…だったか? 彼女がギルドに入るのかって話なんだが……」
おや、なんか難しい顔をしてる。
「いえ、絶対入りたいって訳じゃないですし、聞いてみただけなんで。無理なら別に構わないですよ?」
「おいおい、そんな事言うなよ」
「マック……お前は随分と押すな。いや、前例は無いが特に問題があるわけでは無い。ただなあ、この街にいる獣人族がなあ……」
「あー、確かに。この前の騒動を見た限り、またゴチャゴチャ言ってきそうですねえ」
「本人がいいならいいじゃねえか」
まだこっちは入るとも、いいとも言ってないが?
「我の事で獣人族が文句を言うてくる事は無いと思うぞ?」
「ん? そうなのか?」
「え? そうなの?」
食事を終えたタマちゃんがそんな事を言い出した。二度あることは三度ありそうだぞ?
「あれだけ力の差を見せつけたのだ。特に獣人族であれば、力が上の物に意見を言える道理は無い」
「力の差って、膝蹴りかましただけだけどな……。シロコは地面踏んだだけだし」
茶耳の心は折れただろうけど、その親父が出て来そうなんだが……。そう考えると本当にアイツは面倒臭い奴だな。
「確かに獣人族はそういうところはあるが……まあ、獣人族の君が言うならそうなんだろう」
いえ、犬とドラゴンです。
「お、なら決まりだな!」
「だからそう急かすな。…タクミ君だったね? 君はギルド登録の希望があると思って構わないのか?」
「あー、まだ何とも言えないですね。マックさんに待遇の話を聞いて、それならいいかなって思いましたけど」
「……マック、お前なんて言ったんだ?」
「あー…、名前だけの登録でも構わないって言ったな……」
「依頼の規定回数免除か、他の冒険者達の反感を買うぞ?」
「別に何も言えないだろ?」
「この俺が言われるんだよ!」
「じゃあいいじゃねえか」
「この野郎!」
随分と仲のいいオッサンズだな。
「俺はここに定住の予定は無いんですけど、そこら辺は大丈夫なんですか?」
「ん? あー、各場所にあるギルドは繋がっているからそれは大丈夫だ」
「お、やる気になってきたじゃねえか!」
「話の腰を折るな。それに規定回数免除となると位はどうするつもりだ?」
「上位でいいだろ?」
位って依頼書に書いてあったやつか。上中下しか無かったけど、特とかあんのかな。
「登録してその日に上位で免除か? 越権行為で俺が吊し上げられるわ!」
「そこはギルマスがなんとかしてくれよ」
「こいつ……」
「上位だと何かあるんですか?」
「ああ、定期的にギルドから支払われる支度金と護衛料の割合が違うな。その分働いて貰ってるわけだが……」
なるほど、こりゃ何もしないで勝手に金が入る免除とかされたら、いい目で見られなそうだな。
「俺としてはその依頼の規定回数ですか? それが無ければ位とか無くてもいいですよ」
「本当に名前だけって事か? 下位冒険者にも支度金は払われてるんだが」
「ええ、何もしてないのにお金だけ貰うってのも……あ、名前だけの登録でも依頼は受けれるようにして欲しいですね」
不労所得に憧れはあるけど。
「それなら……分かった、なんとかしよう」
「おお! 今後ともよろしく頼むぜ!」
あっ、いつのまにか登録する事になってた。
…
……
「こちらがお二人の登録カードになります、位は助位という事になりますが……、宜しいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
「おっし! これで他のギルドにもいい宣伝になるぜ!」
台所洗剤みたいな位になりました。
依頼の助っ人って感じで、内容はまんま日雇いみたいな扱いの形だ。まあこんなところだろう、パスポートをゲットしたと考えよう。
てかマックさんは広告塔が欲しかっただけでは?
「タクミ、おわった? おわった?」
シロコが俺の着ぐるみをクイクイ引っ張る。シロコにとっては暇でしょうがないんだろう、気持ちはわからんでもないが。
「ああ、それじゃあ──」
「マックさん! その人ギルド登録したんですか!?」
「おう、タクミとシロコだ。ハッハッ、これで護館の奴らもデカい顔できねえぞ!」
なんか茶髪の高校生グループが話しかけて来た。帰るぞ? 俺達は帰るからな?
「ほら見ろ! マックさんがこう言ってるんだぜ? 俺の言った通りだろ!」
「噂は聞いてるけど……本当にその人があのタジルを1発で倒したんですか? そこの獣人族の人じゃなくて?」
やめろチャラ男、フラグを立てるな。シロコの頬が膨らんでいるのが見えないのか? てかどこでそんな表情の仕方覚えた。
「なんだお前ら、疑ってんのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
あ、駄目だこの流れは。
「よし、じゃあ修練場でタクミの力を見せてもらおうじゃねえか」
やっぱりな……周りの人もざわつき始めた、これで帰ったら空気読めない奴みたいじゃないか……。
シロコもそんな目で見るな、頬を膨らましたお前も可愛いぞ?
「タクミも構わないよな? ここで1発かましとけば、免除の事で文句言う奴はいないぞ?」
このマックめ……モス派に変えるぞこの野郎。
「はぁ…、分かりました。やりますんで1つ条件を出していいですか?」
「条件? なんだ?」
「お菓子を…下さい……」
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