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43.夜中の客


 宿にて今日の反省会。


「結局あまり買えなかった……」


 今着てるローブとかが高級品と聞いて、これを放置して他の服を着るのが怖くなってしまった。結局買えたのはインナー的な物ばかりだ。


『シロコの服の方が増えたの』


「あのポニテさん、商売上手だったな……」


 俺が服選びにウンウン悩んでいる時に、さりげなくシロコに合った服を勧めてくる。

 俺が話半分に ハイ ハイ って言ってたら、いつの間にやらシロコ用の服を沢山買う羽目に……。


「シロコ用の鎧は断れて良かったと思おう」


 積まれた服の中に隠されたのが見つけられて良かった。さすがにあれは嵩張るし、あんな動きづらそうなの、シロコが大人しく装備するわけがない。


「……スピィ」


「またコイツはこんな格好で……」


 結局、服屋の後はシロコに強請られて、昨日と同じく出店巡りになった。今日も腹一杯食べたシロコは満足そうに寝てらっしゃる。


『服屋はシロコにしてみたら、あまりにも暇であったからの』


「そのせいであまり選べなかったんだけどな」


 俺が服の前で悩んでる時にクルクル回ったり、のしかかってきたりと、構ってオーラが半端なかった。

 ポニテ店員も呆れてたぞ。


「もうしばらく、熊で我慢するしかないな……今日はもう寝るかな」


 俺も腹一杯で苦しいし。


『今日もシロコの為にご苦労であったの。我も少しは労ってやろう、ベッドを広く使うが良い』


「え? 昨日は別に寝たら、シロコが拗ねるとか言ってたのに」


『なに、シロコが起きる前にお主のところに潜り込めばいい話じゃ』


「なるほど」


 でも起きた時に、寝床が変わってたらビックリ……シロコはしないな。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」


『うむ、ゆるりと休め』


 この部屋で初めて使われるもう一つのベッドに潜り込む。 おお……1人で寝るこの感覚は久し振りだな。両手の可動域が広い。


 明日は冒険者ギルドにお邪魔でもしてみますか……。



 …

 ……

 窓枠に肘をつき、そこから見える3つの月を眺めながら、羞月閉花と言う言葉がよく似合う美女が呟く。


「さて、そろそろタクミの寝入りも深くなったかの」


 そう言うと、すぐ隣のベッドで寝ている男を起こさぬ様、静かに窓を開け、宿の外にトンッと飛び降りる。

 そして地面に降りるや否や、誰もいない方へ顔を向け、言葉を投げた。


「我に用があるのだろう? さっさと出て来ぬか」


 その言葉を受けてか、建物の影から5人の獣人族の男がタマの前に現れる。


「来ていただけると思っていました」


 タクミから茶耳と言われていた男、タジル・クエールは静かに頭を下げた。


「夕刻からピーピーと煩くしおって、近所迷惑じゃぞ」


「この辺りは人族しか住んでいません、ですからこの方法でお呼びしました」


 そう言うと、タマに先程まで鳴らしていた笛を見せる。この笛の音は人族には聞こえない音が出せる、言わば犬笛の様なものだ。


「それで? まさか我がタクミより御し易いとでも思うたか? そこまで節穴とは思わんかったの、この程度の人数で来るとは舐められたものじゃ」


 呆れた様な目から、獲物を狩る目に変える。

 その様子を見るや慌ててタジルは用件を話し始めた。


「ち、違います! 獣人族にとって…いえっ、貴方にとっても、良い話があるんです!!」


「ほう、その話とやらをする為にタクミを避け、我を呼んだと?」


「は、はい! 貴方は強い男がお好きなのですよね!?」


 いきなりこの雄は何を言い出すのか、あまりにも的外れな事を言うので、出しかけた魔力も引っ込んでしまった。


「た、確かに私ではあの人族に勝てませんでした……。ですが、より強い方をご紹介します!」


「……見た限り、どれもそうは思えんがの」


 取り巻きの獣人を見て、タマは溜息交じりに述べる。

 タマは二千年振りに外の世界に出て、驚いた事がある。 それは人族もそうだが、獣人族も明らかに弱くなっているのだ。

 タクミを簡単には死なせぬ様、魔力操作の指導をしていたが、それも必要無かったかと思うほどに。


「い、いえ、ここにはいません。ですがその方と繋がるべく為に、同行を願いたくお呼びしました」


 随分と回りくどい事をするものだ、もう面倒なので全員吹き飛ばしてしまおうかと思ったが、ふと思いつきその行動を止めた。


(ふむ、タクミの良い練習相手になるかも知れんの)


 タクミはまともに戦闘というものをしていない。性格的に、力に酔って横暴な振る舞いは出来ないと思うが、ここは苦戦の一つでもしてもらいたいところでもある。


「いいじゃろう、案内せい」


 タマの言葉にタジルは安堵の溜息をつく。

 念のために4人の護衛隊を連れてきたが、改めてまともにタマと対峙すると、全く勝てる気がしなかった。


「よ、良かった。 ではこちらへ、案内します」


 月明かりの中、タマとタジルを含めた6人の獣人は、オーサカにある獣人族護館へと足を運んだ。


読んでいただいてありがとうございます。

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