42.お買い物
宿の食堂にて朝食中、向かいに座っているシロコ(タマ)に物申す。
「僕の服が欲しいです!」
「……なぜ我に言う。好きにすればいいじゃろ」
「いやー、行動の指針をはっきりしておかないと、またでみ…屋台巡りになりそうだからな」
もう俺の中で、シロコが反応する"ご飯"と"散歩"にプラスして"出店"が危険ワードになりつつある。
「別に今着とるもので充分じゃろ」
「目立つ原因の1つは、こんなよく分からない色のローブや、熊の着ぐるみのせいでもあると思うんだ。 全然汚れないから便利ではあるけど」
「ならそれでいいでは無いか、目立つのは昨日の件でもう無理じゃろ。他の客も噂しておったぞ」
そうだと思ったよ。朝飯食ってる時に、やたらと視線感じたもの……。
「これまでの事はもう諦めるしかないな……」
「これからも似たような事が起こらなければ良いの」
カッカッ と笑うタマちゃん。昨日の事も何気に楽しんでたよな?
どこぞの女王様だ、って感じだったぞ。
「シロコはいいよな……アーニャから色々貰って……俺なんか、熊だもん……」
「別に反対はしとらんじゃろうが。雄がいじけるで無い」
そういやそうだった。
「服屋は昨日見つけたとこに行ってみよう」
「うちの近くの服屋は、どちらかというと冒険者に向けた服屋でほぼ防具屋です。だからプレゼントには向きませんね。はい、食後のお茶です!」
「あ、ありがとう。ティナちゃん……」
「シロコさんに似合う服だったら、噴水広場にある服屋がおススメですね! 後、中央教会の横にドレスを扱っているお店が……」
なぜにそうデートスポットに誘導するのか、するにしても俺は熊のままだぞ? ドレスに着飾ったシロコと熊が街を歩く……無いな。
もう少し俺の見た目にも、気を使ってはくれませんか……。
「お前さま、そろそろ行くとしようかの」
タマちゃんが昨日と同じセリフで、ティナちゃんのマシンガントークを切り上げる。
「そうだな。それじゃ、お茶美味しかったよ」
「あ、はい。また今夜お待ちしてますねー!」
……この、昨日の朝と同じ会話の流れ、常習化しそうだなぁ……。
宿の外に出るなり手を繋がれる。シロコ(シロコ)に変わったな。顔もぽやっとしとる。
同じ顔なのに、中身が違うだけで随分と表情が変わるものだ。
「そういやタマちゃんが朝食取ってる時は、シロコにも味がわかるのか?」
「タマちゃん、食べるおそい!」
「速度の話は聞いてねえよ」
『シロコが早食いなだけじゃ。味は互いに共有しておるぞ』
「それは……タマちゃん大丈夫か?」
『二千年近く、食うてはおらんかったのじゃ。楽しませて貰っている」
「そう言う考え方もあるか」
『シロコは早う、匙の使い方を覚えんといかんの』
ていうか何故ドラゴンがスプーンを使えるのかが疑問だけどな。
「うぅ……わん!」
「なんだその誤魔化し方は。でも、やるなら人目が着かないとこで練習しないとなぁ。いや、別に皿とスプーンだけ用意して、部屋でやればいいか。まずは水で練習だな」
「……わん」
言葉の練習と違ってノリが悪いな。
そんな会話を続けながら歩く事10分、目的の服屋兼防具屋に着いた。
冒険者ギルドも利用するからか、結構な店構えだ。
「たのもー」
「タモノー」
両開きの扉を開いて中に入る。
これは……ちょっとしたドンキみたいだな。ポニテの店員さんらしき人が、忙しなく商品の整理をしてる。
「はーい、いらっしゃ……っ!?」
ガタガタッ! と商品を落としてビックリされた。すみせん、いきなり熊が店に入ってきた驚きもしますよね。
「とっ」
「と?」
「父さーん! 父さーん!!」
ポニテの店員さんは店の奥に逃げてしまった……熊だけど食べないよ?
『最近の人族の娘は騒がしいの』
「俺も最近そう思ってる」
さて、どうしたものかと考えていると、すぐに戻ってきた。おっさんを連れて。
「父さん! ほら、ほら! この人が昨日ギルド前で獣人館長の馬鹿息子を倒しちゃったのよ!!」
あの茶耳、評判良くないのな。
「店にいる時は店長と呼ぶように言ってるだろう……。すまないね、うちの娘が煩くて」
随分と腰の低い店長さんが出てきた。
「いえいえ、店の中を見せて貰っても?」
「ああ、もちろん。昨日の事は娘から聞いてるよ、うちに来たって事はやっぱりギルドの冒険者なのかい? 初めて見る顔だけど」
「いえ、違いますよ。単に服を買いに来ただけです」
「それは失礼した、腕利きは大概冒険者だからね。 ここの商品もほとんど冒険者向けだから、気に入ってもらえる物があるといいが」
「とりあえず色々見せて貰います。まあ正直、今着ているやつ以外なら、なんでも良いんですけどね」
熊以外になりたい。
「うん?お客さんが着ているのって……」
「いやー、これのおかげで目立っちゃって」
「それ……もしかして、ロックベアの子供の毛皮かい?」
「あー…、確かそうだったかな」
タマちゃんがそんな事を言ってた。
「この店にそれ以上の物はないよ?」
「えっ? これってそんないいもんなの?」
そこに鉄の鎧っぽいのとかあるけど、それって着ぐるみ以下?
「知らないで着ているのかい……ロックベアの子供の毛皮は、魔力を通すだけで硬質化する。普通は防具の一部に使われる物だけど、全身丸ごととは、私も初めて見たよ」
ここにきて着ぐるみの価値が明らかに……雑に扱っててすみません。
「へー、珍しい物なんですね」
「かなり珍しいよ。子供の近くには必ず母親がいるから、まず狩る事は出来ない。偶に病気か事故で死んでるのを見つけただけでひと財産だよ」
「父さん、この毛皮ってそんなに凄いの?」
ポニテさんが疑っている。俺もそう思う。
「価値で言ったら、この店を丸ごと買えるんじゃないかな?」
「お兄さん! それください!!」
売れじゃなく、寄越せと来たか。
「その剣も、専門じゃ無いからよく分からないけど相当な物だろう? ローブも今じゃ作れない代物だ。確かにそれ程の装備なら、獣人も1人で倒したって話も信じられるねえ」
すみません、剣も着ぐるみも関係ないです。
てか、ローブも今じゃ作れないってアーティファクトかなんかになってる。
「ま、まあ毛皮の事は置いといて。欲しいのは防御力とか関係ない、普段着とかなんですよ」
「そうかい? それならあっちの方にあるから自由に見てくれ。レオナ、お客さんの案内を頼むよ?」
「はーい、店長」
やっと買い物が始められそうだ。
それにしても、服を買ったら今着てるやつ捨てようと思ってたんだけど。下手に捨てられなくなったな……。
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