40.3人目のムキムキ
カッパが茶耳を連れて行ってしまった。森へお帰り、ここは貴方の住む場所では無いの。
「お兄さん凄いですね! シロコさんを守る為に……もう! もう!」
「おい、お前声かけて来いよ……」
「凄え……どんな武器使ったんだ?」
「あの獣人の人綺麗ね……」
ティナちゃん、もう勘弁してくれないか……。
もう事は済んだのに、君が騒いでるせいもあって、野次馬が減るどころか、寧ろ増えてる。
「タクミ!」
「げふっ!」
近距離タックルで抱きつかれた。
このタイミングでシロコ(シロコ)かよ。
「キャー! キャー!」
見ろ、ティナちゃんが興奮しすぎてエライ事になってるぞ。
「はははは……さて、宿に戻ろうか?」
もうここは逃げの一手だ。すみません、通してください。
「あー、悪いが少し話をさせてくれないか?」
冒険者ギルドの方から野太い声で止められた。
なんだよもう、帰してくれよぅ。
……あそこに立ってるって事は多分ギルドの人か、このおっさんもムキムキだな。
「窓の弁償代はあの獣人族の人に請求してください」
「いや、それは別にいいんだが。……ここじゃあなんだ、中で話さないか?」
「えぇー……」
あからさまに嫌な顔をしてみる。
「そう言わないでくれ、こっちもいきなり獣人側の館長の息子が乗り込んできて、熊の冒険者を出せとか喚き散らしてたんだ」
「あー……」
それならこの人も、茶耳の被害者という事か……しょうがない、同じ被害者として情報提供しておこう。
「分かりました、でも大した内容じゃ無いと思いますよ?」
「助かる、そう時間は取らんから安心してくれ」
「ええ。それじゃティナちゃん、そう言う事だから、街の案内ありがとね」
「え? あ、はい! 今夜もうちの宿で合ってますよね?」
「うん、昨日から合わせて10日取ってあるよ、夕食前には戻るから」
戻れるよね? って視線をおっさんに送る。うん、大丈夫の様だ。
「分かりました! それじゃまた、お待ちしてますねー!」
元気よく返事を返され、ティナちゃんはブンブン手を振りながら走って帰って行く。ちゃんと前を向かないと…あ、野次馬にぶつかった。
「それじゃあ行きましょうか、中に入っても?」
「ああ、こっちだ」
シロコを連れて冒険者ギルドの中に案内される。あ、野次馬の皆さん、お騒がせしましたー。
…
……
「はぁー…、あんたも災難だったな。それであいつがここに来て、熊の冒険者を出せとか騒いでたのか……」
昨日からの茶耳との流れを説明した。説明する程の情報量は少ないけどな。
ちなみにこの目の前のムキムキ3号は、このギルドの教官的な人で、マック・ヤマダさんという。ここはレスラーシリーズかスズキにしてほしかった。
「あの茶耳ってこの街では結構偉いんですか? なんか嫌がらせとかしてきますかね?」
「あー、昨日この街に来たんだったな、そりゃ知らないか。 まあ心配しなくても、そこそこ偉いのはあいつの親父で、それも獣人族の中での話だ。 だからその獣人の姉ちゃんに、ちょっかい出したんだろ」
あら、シロコさんたら、玉の輿かと思ったらそれも微妙でしたわよ。ますますあんな茶耳にはやれんな。
「嫌がらせと言っても、そこの姉ちゃんが言ってた様に、なんかしたらそれこそ情け無くなるだろ。獣人族は見栄っ張りだから、何もできないんじゃないか?」
「いや、見栄っ張りだから逆に払拭しようとしません?」
「あー、確かに……。でもそれなら正面から来るだろ。それなら問題無いんじゃないか? あんたもそうだし、獣人の姉ちゃんも相当だろ?」
その獣人の姉ちゃんは、出された茶菓子に夢中である。
「……なんか、さっきと随分雰囲気が違うな」
シロコがポロポロとこぼしながら茶菓子を食べる姿を、不思議そうに眺めるマック。
「はは、シロコはお菓子が好きなんですよ。 後はもう無いですかね、帰っても?」
「あー、ちょっと待ってくれ。 これが一番聞きたかった事なんだが……あんた人族だろ? あの熊の毛皮でそんなに強くなれるのか? かなりの魔力が必要だろ」
とうとうこの質問が来てしまったか……。
熊の着ぐるみでパワーアップとか笑えるが、もうそういう事にしておこう。上手い言い訳なんて思いつかん。
「ええ、それもありますけど、俺は生まれつき魔力量が多いんですよ。 それにこの服や靴も武器みたいなもんです」
「はー…、靴が武器ね。確かに蹴りの威力は上がらない事もないが、ああいう使い方は初めて見たぜ。羨ましい魔力量だな」
お、なんとかゴリ押せた。
「……なあ、あんた冒険者ギルドに入らないか? かなりの待遇で迎えられるが」
ヘッドハンティングキター。
「あー…誘ってくれるのはありがたいんですけど、ここに定住の予定は無いんですよね」
「そうか……なんなら名前だけ登録して貰って、依頼も気が向かなかったら拒否してくれてもいいんだが」
「それは随分ですね、ギルドにメリットが無いんじゃ?」
「獣人族の手練れを単独で倒しちまう様な奴が、ギルドにいるってだけで充分なんだよ」
「あの茶耳がそんなに強いんですか?」
「ああ…、あんたからしたら情け無い話だろうが。アイツを倒すとしたらギルドの冒険者4.5人で囲むしか無いな。まあ囲んでも、頭を飛び越えられて強制的に1対1にさせられるだろうから、さらに難しいかもな」
なんか網で取っ捕まえてボコればいけそうだけどな。
「そうですか。でもまあ考えておきますよ、俺達は昨日街に来てばかりなんで、そうすぐには決められません」
「お、可能性があるなら是非とも頼むぜ。あんたならいつでも歓迎する」
「ええ、その時はよろしくお願いします。ではもう失礼しますね? そろそろ宿の夕食の時間なので」
「ああ、引き留めて悪かった。後ギルドの一階の一室は酒場だ、登録してなくても入れるからいつでも来てくれ」
「分かりました、是非寄らせて貰います。ほれ、シロコ、行くぞ」
「ハッ!?」
……コイツ、半分寝てたな?
「……本当に外で見た時と、随分雰囲気違う様な……」
アーアー、キコエナーイ。
読んでいただいてありがとうございます。
ブクマ30人!(`・∀・´)ワーイ




