4.全裸の状況
---帰還中の魔族国軍---
軍の馬車内で魔族の姫ネネリカはボロボロになった1冊の本を読んでいた。
本のタイトルには"シンゾウ日記"と書いてある。
<○月○日>
いや、マジ焦ったね。
風呂入ろうとしたらいきなり知らない部屋の中で人に囲まれてんだもん。
目の前の、いかにもなお姫さんは"勇者様!"とか言いながら儂の手を掴んでくるし。
この状況、かーちゃんが見たら絶対包丁持って儂の金…
……
………
<○月×日>
お姫さんになんか魔法をかけられた。
これで人族の属性魔法が使えるようになるらしい。
他の人たちは産まれながらに母親の属性を引き継いでいるので、なんの属性持ちでもない自分は魔法をかけてその属性に染まる必要があるんだそうだ。
かーちゃん、儂魔法使いになっちゃったよ。
…
……
………
<×月△日>
儂の魔法すんごいね。
勇者による力なのかよく分からんけど山が跡形もなく吹っ飛ぶんだもん。
この力があればかーちゃんにも負けな…いや、無理だな。
…
……
パタン、と本を閉じる。
「やはりこの本に書いてあるように、二千年前に現れ、世界を統一した勇者は人族では無かったようだな」
付き人のミネイに視線を送り、ニヤリとしながら話しかける。
「みたいっすねー。見た目は人族でしたけど、胸に人族の刻印がありませんでしたし」
「先程の状況から鑑みるにエルフや獣人もこの情報を持っていたと見るべきだな」
「両方とも転移系の魔法みたいでしたっすからねー。
ウチらと同じように他に殺されない様自陣に転移させつつ、自分の種族の属性に染めるつもりだったみたいっすね」
「人族があの場にいなかったのは、自国の歴史なのに知らなかったようだな」
「まあ王国が存在してたのって千八百年前っすからねー。
国が滅んじゃった時にそこら辺の資料なんて、ウチらのご先祖様が没収しちゃったんじゃないっすか?」
「エルフと獣人もその資料が残っていたと言う事か」
「歴史では魔族だけで王国を滅ぼしたってなってますけど。
向こうも自分の種族が滅ぼしたとか言ってますし、多分三種族で事に当たってたんじゃないっすかね?」
「だろうな、まかりなりにも世界を統一した戦勝国だ。絶対的な力を持った勇者が死んだ後でもそれなりの力はあったはずだ」
「今の人族の魔力を見るととてもそうは考えられないっすけどねー」
「確かにな、昔の戦争で北の地に追いやったという人族の個々の力は、そう大きなものではないからな」
「あ、でも勇者の守護竜がいたって言う話ですから、軍事力はそれなりだったんじゃないっすか?」
「分からん、そもそもその竜も実際にいたのかどうかもハッキリしていないからな」
「資料が少ないっすからねー。正直人族が世界のトップだったなんておとぎ話の世界っすよ」
「だが実際にこの本の通りに、種族の魔力に染まってない人物が現れたのだ。他の種族の行動の事もある、早急に対策を立てねばならん」
「ウィっす、ネネちゃんのためにも頑張るっすよー」
「ネネちゃんいうな!」
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「……えーっと、その魔族とエルフと獣人の魔法使いにここに封印されたと」
『うぬ、高位の魔力を三重に混ぜ合わせた封印結界じゃ。魂でさえこの場から出られんから死んでも死ねん』
もー、暇で暇で。と、タマさんは語る。
……話をまとめると。
爺さんが二千年前にあった種族間の戦争を終結させて全国制覇。
その後しばらくして爺さん唐突に亡くなってしまう。
爺さんが亡くなったのでタマさんは放浪の旅に。
その間に魔族、エルフ、獣人が反乱を起こして人族の王国を落とす。
タマさんはそんな事も知らずにこの土地で寝ていると、結託した3種族の魔法使いに封印されてしまう。
そんな感じ。
『封印された後の事は、昔に儂を倒して名を上げようとした愚かな冒険者共から聞き出した話じゃから、正確がどうか分からんがの』
そう言えば会話をするのも千年以上振りじゃ。と、ケラケラ笑うドラゴン。
「……なんかもう色々ありすぎて頭が追っつかないな」
『お主も災難じゃったのぅ」
ドラゴンにも俺の状況を説明しておいたら同情された。
「ハッハッハッ」
シロコが飽きてきたのかキョロキョロもぞもぞしている。
が、離さなん。
お前が離れると俺はただの全裸ではないか。
『うん? そういえば無謀にも我を倒そうとした冒険者の装備がその隅にあるはずじゃ、その格好が嫌ならそれを着れば良い。
いくつかは魔法処理しておったから多分着れると思うぞ?』
「マジっすか!?」
そう言うが早いか顎で指された場所に行ってみる。
……うわぁ、骨がいっぱいナリィ。
シロコはちょっとした山になってる骨や装備品の上に登ってなんかキメ顔だ。
祟られるぞ。
まぁ、ほとんどボロボロだがいくつか普通に着れそうだ。
なんだこれ?熊の着ぐるみか?
適当に着れそうな物をホネホネさんから失敬させて頂く。
ナンマンダブナンマンダブ……。
読んでいただいてありがとうございます。