38.デート再開
ストーカーに絡まれたけど、カッパにしてやった事で少しは溜飲が下がった。
「タクミ! つぎ! つぎあれ食べる!」
「はいはい」
さっきの出来事など全く気にする様子も無く、シロコの食い道楽が再開される。お前、明らかに食べる量が犬の頃に比べて、増えてるよな?
「はぁ、絶対またちょっかいかけてくるよなあ……」
カッパにしてやった奴が言ってた坊っちゃんとやらが、このまま大人しくしてるとは思えない。
『なんじゃ、やはり殺してしまった方が良かったではないか」
「なんでタマちゃんはそんな物騒な事ばかり言うんだよ……」
『ああいう輩は最初に力の差を示さんと、いつまでも調子に乗りおる。獣人族は特にの」
「そういやあのカッパが、獣人族の女性は強い男に惹かれるとか何とか言ってたけど、そういうところが関係してるのかね?」
「そうじゃな、シンちゃんも人族でありながら、獣人の雌共に追いかけられておってぞ」
「なにそれ、羨ましい……」
老いてなお元気とか。爺いめ、モフモフハーレムでも作ってたやがったのか。
婆さんに言いつけるぞ。
でもそうか……それなら獣人族の国に行けば俺も……。
「タクミ?」
「ん? なんだシロ──あだだだ! いきなり強く手を握るな!」
急にシロコが繋いだ手をギリギリと握り締める。これ、強化しないと普通潰れるんじゃないか?
「デミセ!」
「今買いに行こうと向かってるだろうが」
「わん!!」
「まったく、いきなりどうしたんだ……」
急にプリプリしだしたシロコに、次なる出店に引っ張られる。
よく分からないが。まあ、串焼きの1本でも与えとけば機嫌も治るだろう。
「あれ? お兄さんじゃないですか」
シロコに引っ張られている中、見知った顔に出会った。
「やあ、ティナちゃん。偶然だね、宿の方はもういいの?」
宿のおませっ娘ちゃんだ。
「はい、うちは昼やってないんですよ。ですので、お昼ついでに夜の買い出しに行くとこです!」
むん、と慎ましい胸を張って答えてくれた。
今のそんな自信満々に答える内容か?
「そうなんだ、お疲れ様」
「はい! ウフフフ……」
「……な、なに?」
なんかすっげえニヤニヤしながら見られてる。
「そんなに仲良く手を繋いで一緒にいるなんて……もう、2人が離れる事は有り得ないんですね!!」
あ、めっちゃ乙女モードや。
このままここで話を続けるのは朝の二の舞である、そしてさらに繋いだ手にかかる圧力がじわじわと増えてくる。
手が潰れる前に早々に逃げ──いや待てよ。
「お昼まだなんだ? それなら出店で良ければ奢るから、街を案内してくれない?」
「え、いいんですか? でも2人の邪魔をするのは……」
「俺もシロコもこの街の事はよく知らないからね、主要な場所とか知っておきたいんだ」
「あ、教会とかですね! 分かりました! 私にお任せください!!」
違うよ? 何で街の主要な場所が教会になるのん?
「あー…よろしくたのアイテテテッ!」
繋がれてる手の圧力が強くなった。
「なんだよ?」
「……わん」
いや、分かんねえよ。
『それくらいシロコの主人なら察せぬか』
「いや、この街の地図なんて持ってないんだから、早めに知っといた方がいいだろ」
あ、プイッてしやがった。
こうなったら……。
「ほら、案内されてる間は好きなの食べていいから」
飯で釣ってさらに頭を撫でる。
なでりこなでりこ……フフフ、尻尾は正直だな。
「…お兄さん…こ、こんな場所で……キャーー」
うぐっ…ここが大通りなの忘れてた。
だが、ここでやめてしまうと余計に拗ねそうだ。ここは鉄の意志で……。
なでりこなでりこ……。
「…………」
なでりこ……。
「…………」
なで……。
ま、まだか? いい加減恥ずかしさが天元突破しそうだ。後ティナちゃん、手で顔を覆っていても指の隙間から覗いてるのバレバレだからな。
「……またあれ食べる」
そう言ってシロコが指差したのは、串焼きの店だ。
「そ、そうか! ティナちゃんも最初はあの店でいい?」
「へ? あ、はい。私は構いませんけど……もう終わりですか?」
俺に死ねと言うのか。
とにかくなんとか宥めることに成功した、これで街のガイドもゲット。
ちゃっちゃと街を案内していただこう。
…
出店と屋台をハシゴしながら、テクテク街を案内される。さすが大きい街だけあって、武器屋、服屋、薬屋と、宿の近辺だけでも色々あるね。
隣のシロコはそういう店には全く興味を示さず、モグモグタイムが止まらない。
さらに、なるべく食べやすい物を選んで買っているのだが、繋いだ手を離したがらないので、片手のシロコは口の周りを汚しがちだ。
それを俺が拭ってやるたびに隣でキャーキャー言われて疲れる……。
「あ! あそこが冒険者ギルドですよ」
「へー、結構大きいね」
なんか市役所みたいだな。
あんまし宿からは離れてないし、後でちょくちょく覗きに行こう。
「建物は立派ですけど、中にいる人達は怖い人ばっかりですよ? シロコさんを連れて行くにはオススメしませんね!」
「そうなんだ、でも護衛とかの仕事柄しょうがないんじゃない?」
「うーん、そう言われると確かにそう──」
ガシャアアン!!
「キャアッ!?」
案内された冒険者ギルドの窓から、人が飛んできた。…中で喧嘩でもしてんのか?
せっかく俺がティナちゃんに、ギルドのフォローをしてあげてると言うのにこれは酷い。
飛んできたカッパはボロ雑巾の様に地面に転がって……カッパ?
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