33.村から出る
……
そんな訳で朝である。
『では、シロコも空を飛ぶ感覚を、よく覚えておくのだぞ』
「ワン!」
朝食を取り終えると、すぐさま向かうよう急かされ、すでにシロコとパイルダーオン状態だ。
「翼とか生やすのか?」
『魔力で似たような形にはなるがの、まあ見ておれ」
タマちゃんがそう言うと、シロコの体から靄みたいなものが出てくると、意思を持ったように2つの羽根のような形をとる。ちょっとパリパリいってる?
『……ふむ、では行くぞ。しっかり捕まっておれ』
「お、おう、まかせ…うおおっ!?」
1度空に浮いてからとかじゃなく、ロケット花火の様に射出した。初速のGがハンパない、両手両足で必死にシロコにしがみつく。
俺が想像してた飛び方とちゃう……。
…
……
『うむ、思ったより早く着きそうだの』
マジか、まだ昼前っぽいぞ。
「む、村に直接降りるとビックリされるから離れたところに降りてくれよ」
『ではあそこで良いか』
タマちゃんがそう言うと、カクンと角度を変えて着陸、いや、墜落した。
『うむ、久し振りに飛べることが出来て我も満足じゃ』
「……それは良うございました」
俺は墜落の衝撃で地面に転がっている。
『シロコも感覚は覚えたのう?次は試してみると良い』
「ワン!」
シロコはもっとお淑やかな方法でお願いしたい。こんなんでタックルされたら……いや、フラグを立てるのはよそう。
…
「タクミさん!」
村に入るとアーニャが出迎えてくれた。
「や、今戻って来たよ。早速薬師さんのところに案内してもらっていいかな?」
「え、今すぐですか?もう少しゆっくりされてからでも……」
「いやあ、シロコが早く街に行きたがっててね」
本当は夕方戻るつもりだったしな。
「それじゃあもう村を出るんですね……」
「村長さんには挨拶しとくよ、ナンナちゃんは……きっと泣いちゃうだろうし、コッソリしといた方がいいかな」
「……いえ、ちゃんとお別れさせてあげてください。昨日の朝に、シロコさんがいなくて凄く落ち込んでましたし、このまま行ってしまったと知ったらもっと悲しむと思います」
「あー…、それもそうか。分かったよ、じゃあとりあえず薬師さんのところによろしく」
「分かりました、ご案内します」
…
……
うーん、またこうなってしまたったか。
今俺とシロコは村の外で村長達に見送られるところである。であるが、ナンナちゃんがシロコをがっちりホールド中だ。
ちなみに薬草は全部売れなかった、理由は薬師の家にある資金では足りなかったからだ。
それでも200万イェンになったが……。
残りは荷物になるんで、村長に寄付するって言ったら、若干押し付け合いになったが、最終的に50万イェンで買い取ってもらう形になり、俺の所持金は400万ほどになった。
村にいる時に狩ってた、魔物の肉代が結構美味しかったね。
そんなこんなでもう村を出る準備は万端なのだが、ナンナちゃんがそれを阻む。
「ナンナ、兄ちゃんが困ってるぞ」
「タクミさん、ごめんなさい。やっぱりコッソリ行ってもらった方が良かったかもしれません……」
「もう、こうなったらこの村に住むしか無いんじゃないかしら?」
ここにきて村長の奥さんにそんな提案をされる。
「はぁ……しょうがない」
シロコとナンナちゃんに近づいて小声でシロコに話しかける。
「タマちゃん、シロコの言葉をナンナちゃんに届けてやってくれないか?」
『……仕方あるまい』
シロコの言葉が届いたんだろう。ナンナちゃんがビックリした顔でシロコに顔を向ける。
「え!?シロコちゃ……ん?」
そこからシロコとナンナちゃんは会話をしている。シロコの言葉は俺に届いてないから何を言っているのか分からないが、ナンナちゃんが、…うん…うん…分かった、っとか言っているし、悪い方向には行ってないみたいだ。
少し離れている他の人達は、アーニャ以外何をしているのかさっぱりな表情だが。
5分くらい会話していると、ふとナンナちゃんがシロコを解放してくれた。離れる際にシロコがナンナちゃんの顔をひと舐めする。
「もう、大丈夫?」
「……うん」
ナンナちゃんはシロコから離れると、そのままゴドルさんのところに行って脚に抱き着いた。
「それじゃあ、あまりここにいるのも辛くなると思いますので」
「ああ、兄ちゃんには世話になった」
「薬草の件は本当にありがとうございました、また近くに来ることになりましたら是非この村に来て下さい、差額分をお支払いします」
「あ、あの本当にありがとうございました!……シロコさんの事、大事にしてあげてください!」
「ええ、それではまた。近くに来ることになったら寄りますね」
別れの挨拶を済ませ、食料や小物が入ったズタ袋と、シロコの服が入ったカバンを背負い、村の外へと足を進める。
「シロコちゃーん!またねーー!!」
ナンナちゃんが涙を流しながら手を振っている、それに対してシロコは「ワン!」と一鳴きして応え、俺もナンナちゃんが見えなくなるまで手を振って応えた。
…
「本当に何も言わなくて良かったの?」
「うん……タクミさんには、もう決まった人がいるもの……」
「あら、そうだったの?」
「うん、私なんかじゃ全然敵わないくらい綺麗な人」
「あら、母さんはいつでもアーニャが1番だと思ってるわよ?」
「ううん、それだけじゃないけど……とにかく、2人の間には絶対入り込めないと思ったから……」
「……そう、じゃあ今夜はアーニャの好きなものにしましょうか!ナンナちゃんも呼びましょ!」
お母さんが私の背中を撫でながら慰めてくれる。
「……うん、ありがとう、お母さん」
読んでいただいてありがとうございます。




