32.薬草集め
カダンさんとゴドルさんのムキムキコンビと話していると、村長宅の方から見知った顔がやってきた。
「た、タクミさん!」
「シロコちゃん!」
「アーニャ、ナンナちゃん、こんにちは」
そしてナンナちゃんは駆けつけるなり、シロコにしがみつく。
「シロコちゃん、村を出て行っちゃうの!?」
あー…、この集団を見て察してしまったか……。ゴドルさんも困り顔だ。
「た、タクミさん……」
「うーん、まあこうなるとは思ってたけどね」
ナンナちゃんはシロコの体に顔を埋めてイヤイヤしてる。シロコもちょっと困り顔だな。
「ナンナちゃん」
「やだ!」
「うーん、何も今すぐ村から出て行くわけじゃないんだけど……」
「ホント?」
「うん、薬草を取りに行かなきゃならないからね。村にいる時はシロコのそばにいると良い。
そうだ、今夜は俺の部屋でシロコと一緒に寝るかい?」
「…………うん」
アーニャとゴドルさんに、構わないかと視線を送る。
「う、うちは大丈夫ですけど……」
「まあ……しょうがないわな……」
『…………ハァ』
タマちゃんが溜息しおった。
「それじゃあ夕食はナンナちゃんの分もお願いしますね。 それでもう村の警護は引き継いでもらっても?」
「まあ、そうだな、今日は村のもんだけで大丈夫だ。カダン達は今日は休んでもらって、明日から頼む」
「ああ、任された。よし、お前ら行くぞ!」
ゾロゾロとむっさい男たちが移動して行く。
「ナンナちゃん、今日はもうお仕事無くなったから、他の子達と一緒にシロコと遊んでおいで」
ナンナちゃんの頭を撫でながらそう提案すると、少し沈黙した後…うん、と一言つ呟いてシロコを解放してくれた。
「と、言うわけで頼んだぞ」
「ワン!」
『……これで最後だと諦めるわい』
「んじゃ、行っといで」
「……うん」
まだ納得しづらいのだろう、そう力なく答えると、トボトボとシロコを連れて、村の奥に歩いて行った。
「……すまんな」
ゴドルさんが申し訳なさそうに言う。
「まあ、シロコも嫌がってませんし」
「た、タクミさん、それでこの後はどうするんですか?」
「もう今日は警護の必要も無いし、一度村長に挨拶して来るよ。後は明日にでも薬草取りに行って来ようかな」
「そうですよね……」
「じゃあ今夜はちょっと付き合えよ、とっておきの酒を出してやる」
「俺はあんま強くないんで少しだけですよ、ナンナちゃんが今夜泊まるんですから」
「ああ、そうか。それじゃあ今夜村長の家に俺が行くわ」
またな、と片手を振り、引き継ぎの説明をしに行くのだろう、カダンさんの集まりの方へ向かって行った。
「それじゃあ俺も行こうかな、アーニャはどうする?」
「……私も家までお付き合いします」
「そう? じゃあ行こうか」
「はい……」
ちょっとアーニャの元気が無いな……。
まあせっかくシロコと──本当はタマちゃんだけど、仲良くなってきたとこだったからな。思うとこもあるのだろう。
さて、久し振りの酒か。この世界の酒はどんなものなのかね?
……
一晩明けて早朝なう。
今日は山に薬草を取りに行くので早く起きたのだが、ちょいと昨日の酒が残ってるな……。
まさか出された酒がテキーラみたいなやつだったとは、寒い場所柄だろうか?
「アイタタタ……」
「だ、大丈夫ですか?また日を改めた方が……」
「大丈夫大丈夫、少し動けば酒も抜けるよ。それにせっかくナンナちゃんを起こさないように、こっそり出れたんだし」
朝にガッツリとシロコをホールドしているナンナちゃんから、シロコを解放するのが大変だった。
「そうですか……」
『ほれ、さっさとせぬか』
「ワン!」
「はいはい、それじゃシロコも急かしてるし、ちょっと行って来るね」
「分かりました……、タクミさんとシロコさんなら大丈夫だと思いますが気をつけてくださいね?」
「ああ、分かってるよ。よし、行くぞシロコ」
「ワン!」
「お気をつけてー!」
手を振るアーニャに、熊は手を振り返しながら2匹は村を後にする。
……
「ここの温泉でいいかな?」
『うん?そう移動しておらんぞ?』
「ワン!」
「いやいやいや……」
村を出てから昼休憩を挟んで、夕方まで結構本気で移動してみたら、最初に5日分くらいかかった距離を越えてしまった。
あまり疲れも感じなくなったし、つくづく魔法ってのは反則だな。
「もう日も落ちるし、ここに生えてる薬草でいいだろ。アーニャと集めたやつと比べると随分大きいし」
『まあお主がそれで良いなら構わんが」
「じゃあ適当に集めて来るよ」
『うぬ』
手伝ってはくれないのな……まあいいけど。
ぶちぶちと薬草を毟る。ところどころ千切れてるのがあるのは、虎さんが食べてんのかね?
それでもいっぱい生えてるから、袋がいっぱいになるのに1時間もかからなそうだ。
シロコは……あのやろう、寝てやがる。
……
「……まあ、こんなもんだろ」
『終わったのか?』
「ああ、ほれシロコ起きろ、飯だぞ」
シロコの鼻先に、アーニャから貰ったサンドイッチを置く。
……こいつ、寝ながら食いつきやがった。
寝てるシロコにサンドイッチを与えつつ、自分も食事を取る。
「この感じなら、明日の朝に出れば夕方に村に戻れるな」
『なんじゃ、また明日村で1泊するのか。いい加減、街に向かわんか』
「んな事言っても、今から村に向かうのか?正直夜道は怖いし、今日は早く起きたから、もう眠いんだけど」
『ふむ、それならばさっさと寝るが良い。早朝に出るとするぞ』
「俺は今日以上のスピードは出ないぞ?」
『もう我が飛ぶ分には問題ない、それに今のお主なら落ちても死にはせぬじゃろ 』
「シロコに乗って飛んで帰るってことか?」
『それ以外なかろう』
そこは落ちても死にはしないじゃなくて、落ちないように飛ぶ事にするとか言って欲しかった。
「とうとうその時が来たか……」
『我も久し振りの空じゃ、楽しませてもらうとするかの』
「頼むから、うっかり俺を落とさないでくれよ」
『そこはお主がしっかりと捕まっておれば良い。話はまとまったの? さっさと床につけ』
「はあ……、分かったよ。それじゃあ見張りよろしくな」
残りのサンドイッチを口に詰め込み、横になる。せっかくだし温泉入っときたかった……。
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