31.世話を焼かれる
今日も今日とて見張り中なう。
村の子供達は昼食を食べに村に戻って行ったので、周りはとても静かなのですが、タマちゃんの愚痴が止まりません。
『もうさっさと村を出ても良いのではないか?』
「もうそろそろ他の村から人が来る頃だろ?それまでの辛抱だ」
『むぅ……』
タマちゃんが不機嫌の原因はアーニャだ。
あの夜から、毎晩俺の部屋に来てはやたらとシロコの世話を焼く。中身がシロコだと嫌がるから、毎回タマちゃんが張り切るアーニャの対応を担当、もうグッタリである。
昨夜も──
「シロコさんの髪はとても綺麗だから、この髪飾りが似合うと思うんです!」
「そ、そうかの?」
「はい! それとこの昔お母さんが使ってたこの服も、シロコさん用に繕い直してきました!!」
「それはわざわざすまんの…」
「それくらいなんでもないです!それでこの髪飾りでシロコさんの髪を纏めるので、ちょっと後ろを向いてください!あ、この櫛も持って行って下さい!!」
「い、いや、そこまでせんでも良いのじゃが……」
「駄目ですよ!タクミさんの前では綺麗なシロコさんでないと!」
「そ、そうか……」
「あ、タクミさん!」
「はい!」
「シロコさんが普段身に付ける用の物は、この荷物入れに入れてあるので覚えておいて下さいね、間違ってもお肉とか入れないように!」
「イエス、マム!」
──と、終始こんな感じだ。
そのおかげでシロコの発声練習は、あれから1度も出来ずじまいである。
それのせいか知らないが、シロコは今、俺の膝の上にのっしり上半身を乗せて不動の構えだ。
ずっと撫で撫でを要求されるので、手が疲れる、そんでテラ重す……。
「アーニャがああも張り切ってるのは、タマちゃんのせいだろ?大人しく接待されときなよ」
『限度というものがあるじゃろう、いい加減鬱陶しくてかなわん』
「ワン!」
『シロコも同意見じゃ』
んな事言われてもな……。
ブツブツと文句を垂れ流すタマちゃんとシロコを宥めていると、村からゴドルさんがこっちに向かって歩いてきた。
「よう、今大丈夫か?」
「大丈夫も何も、見ての通りですよ」
ただ座ってシロコを撫でているだけである。
「はは、まあそうだな。なに、さっき他の村からの助っ人が来たんでな」
「そうですか、予定より早く来ましたね」
予定では後2.3日くらいあったはずだ。
「ああ、今回は若いもんを寄越してくれたみたいでな、そのおかげもあるだろう」
「それは頼もしいですね」
「いや、ほぼ1人で村を守ってる兄ちゃんに比べたら、どんな武器使いでも話になんねえよ」
後半はほとんど子守になってたけどな……。
「もう絡むことも無いだろうが、一応紹介しとこうと思ってな。一緒に来てくれるか?」
「ああ、そういう事ですか。分かりました、ほら、シロコも行くぞ」
渋々といった感じで、シロコが俺の膝をやっと解放してくれた。
あっ、めっちゃ痺れてる。
「相変わらず仲が良いな、それじゃあこっちだ」
見張り台に代わりの人を置いてもらい、ゴドルさんの案内で村の中に向かう。
あ、ちょっと待って、足が痺れてまともに歩けない……。
…
「お、あれかな?」
村の広場に着くと20人程の集団がおる。
確かに結構若いのが多いね、半分は10代後半っていった感じだ。
ゴドルさんは、その集まりの中で1番歳上であろう人物に声をかける。
「待たせたな」
「いや、それでその人が例の?」
「ああ、見た目は人族だが、魔族のタクミって言う。 兄ちゃん、こいつは隣の村のカダン。
いつもこの村に来る武器使い達のまとめ役だ」
「どうも、魔族のタクミ…サンダースです」
やべぇ、偽名がなんだったか忘れかけてたわ。
「どう見ても人族にしか見えんが……ああ、すまない。俺はカダン・イノキという、この村の助けになってくれて感謝する」
お互い自己紹介して握手。
このおっちゃんもムキムキやね、イノキという名は伊達じゃ無いな。
てか爺いめ、絶対苗字を考えるの面倒になってただろ……。
「それにしてもハーフとは、初めて見たよ」
「ええ、俺も他に見た事はありませんね。でもこの通り」
左手から炎を出す。
お、若い衆が騒ついておる。悪い気分じゃ無いな。
「お、おお、本当に魔族なんだな……」
「はん!そんなの大した──」
「バカ!」
「お前何言ってんだ!」
ん? なんか声を上げようとした若者が、周りの人にボコられてる。
「あれ…大丈夫ですか?」
「あ、ああ、こっちの話だ。気にしないでくれ……」
なんか、アイターって感じで額に手を当てている。上司ってのどこも大変そうだな。
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