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28.昼娘


 ……

「ガオー」

「ワンワン!」


「アハハハ!」

「こっちだよー!」


 うーむ、今日も今日とて保父さんで終わりそうだな。

 まあシロコも楽しそうだからいいけど……。

 お、娘さんが大きめの荷物を持ってこっちに向かっている、ナンナちゃんも一緒だ。


「……はぁ」


「シロコちゃん!タクミお兄ちゃん!おーい!」


 娘さんはしゃぐ子供たちを見てため息。

 ナンナちゃんは俺より先にシロコに声をかけるが、悲しくはない、いやホントに。


「タクミさん、お弁当持ってきました」


 はしゃぐ子供たちを横目で見た後、お弁当を差し出される。

 もう子供たちに言うことを聞かせるのはあきらめたようだ。


「どうもありがとう、でも随分と大きくない?」


「はい、これは……、みんな!お弁当持ってきたから、こっちにいらっしゃい!!」

「お弁当持ってきたよー!!」


「え?やったー!

「ここでご飯食べるの!?」


 おお、子供たちがわらわらと集まってくる。


「というわけです。どうせ家に戻っても、ご飯を食べ終わるとすぐにタクミさんのところに行ってしますので」


「どちらかというと、シロコに集まってる感じがするけどね」


「どっちでも一緒ですよ……、それで子供たちのお母さん達から、お弁当を一緒にと渡されました」


 それでナンナちゃんも荷物持ちとして、お弁当を持ってきたのか。


「なるほど、手間をかけさせてごめんね」


「いえ、もう魔物は村の付近でも見かけませんし、タクミさんがいるから大丈夫だろうということで。

 それにもう子供達を抑えるのは、無理だと諦めました……」


「アーニャ姉ちゃん!早く早く!」

「シロちゃんにご飯あげるの!」

「ごはんなに?なに?」


 おおぅ、まるで燕の親が餌を巣に持ってきた時の雛鳥のようだ。


「今から渡すから、ほら!並んで並んで!中は一緒だからナンナちゃんからももらって!」


「はーい」

「はーい」


 子供たちが綺麗に並んで、昼食のサンドイッチみたいなやつを受け取っていく。

 ご飯のことになると素直に言うこと聞くね君たち。


「はい!シロコちゃんの!」


「ワン!」


 お、シロコのは一回り大きいやつが渡された、特別扱いとは羨ましい限りだ。


「ああ、ありがとうナンナちゃん…………俺のは?」


 なんだ?いじめか?さすがにこんな子に嫌がらせを受けるとなると、さすがの俺も自殺を考えるぞ?


「お兄ちゃんのはあっち!」


「あっち?」


「あっ、タクミさんのはこれになります!」


 おお、俺のは二回り大きい!特別扱い嬉しいね。

 食いきれるか心配だが……


「おっと、ありがとうございます」


「い、いえ」


「あ!兄ちゃんのおっきい!ずるい!」


「た、タクミさんはお仕事だからこれくらい必要なの!ほら!はやくみんなも食べちゃいなさい!」


「いただきまーす」

「まーす」


 子供Bのブーイングを娘さんが急かすことで押さえつける。

 随分と賑やかな昼食になったな。



 …

「おいしい!」

「はい、シロちゃん、あーん」

「あ、俺のもあげる!」


 昼食時もシロコは子供たちに人気だな、みんなシロコを取り囲んで各々サンドイッチをほおばっている。

 シロコももらったものはすべて平らげているが、あまり食べすてまた扉に挟まっても知らんぞ。


「シロコさんは相変わらず、子供達の人気者ですね」


「そうだね、そのおかげで熊はいつも悪者役だよ」


 たまには俺もヒーロー役をやりたいが、ビジュアルが熊だと無理がある。


「それでもみんなタクミさんの事を慕っています、魔物が山から下りて来たときは、子供たちの笑い声なんて聞けませんでしたから。

 改めてタクミさん、ありがとうございます」


「い、いやいや、俺も暇だったしね、ははは……」


「そういえばお父さんから、後でタクミさんを薬師の人に案内するように言われたんですけど、何かお薬が必要なんですか?」


「え? ああ、違う違う。俺が街に行く前に、質のいい薬草を後で薬師の人に卸すかもしれないから、その場所を聞いておこうって話だよ」


「街に……ですか……、タクミさんは村を出たら、そのまま街に向かうんですか?」


「今のところそんな感じだね、ところでその街、オーサカってここからどれくらいの距離があるの?」


「と、遠いです!それはもう!行くのが嫌になるくらい!!」


「そ、そうなんだ……」


「はい!」


 近い遠いじゃなくて具体的な距離を聞きたいんだが……。


「まあ急いでるわけじゃないし、のんびり行く事にするよ。」


「そ、そうですか……」


「そんなわけだから、薬師さんの場所は、俺が薬草を持ってきた時にでも教えてくれればいいよ」


「……わかりました」


「娘さんも忙しいと思うけど、よろしくね」


「むす――た、タクミさん!」


「は、はい!」


 急に大きな声を出されたので、ビックリしてかしこまってしまった。


「あの、私の事は娘さんじゃなくて、な、名前で呼んでくれませんか!?」


「え?あ、ああ、じゃあアーニャさんで……」


「さん、もいりません!」


「わ、分かった、じゃあアーニャ、よろしく頼むよ……」


「はい!」


 なんか勢いに押されてしまった……、そんなに娘さん呼ばわりは嫌だったのかな?

 それにしても、女性を呼び捨てなんて、妹以外では初めてだ。

 ちょっと照れ臭い。


 さて、今日も一日熊の保父さんとして頑張りますか。


読んでいただいてありがとうございます。

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