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27.朝ナンナ


 ……顔が生温い。

 もう朝の恒例になってきてるな。


「……おはよう」


「ワン!」

『ようやく起きたか』


 そして俺にのっしりと乗ったシロコを引っぺがし、毎朝の恒例のよしゃしゃ。

 うん、今日も元気だ、昨日の夜のシロコ(人)も悪くないけど、やっぱり犬状態が安心するな。


 シロコを連れてリビングに下りると、いつもの村長家族に、2人の人数が足されていた。


「あ、シロコちゃん!」

「こら、ナンナ、動くんじゃない」


「あ、タクミさん、おはようございます」


 ゴドルさんとナンナちゃんだ。2人とも向かい合って何かしている。

 とりあえず娘さんに朝の挨拶をしてから、ゴドル親子に話しかける。


「おはよございます。ゴドルさん、ナンナちゃん。珍しいですね、村長宅で会うなんて、どうかしたんですか?」


「ちょっと転んだだけなのに、お父ちゃんがうるさいの!」


「ああ、ナンナが怪我をしたんで、薬水を分けてもらいに来たんだ。今村にある薬水は、売るほどの質じゃないから、劣化する前にどうせなら使わせてもらおうかと思ってな」


「そうなんですか?」


 俺と娘さんが持ってきた、薬草の質が悪かったのかな?あの時は目の前の草を適当に取ってきだけだったからな。

 俺に薬草の良し悪しは分からぬ。


「いや、勘違いしないでくれよ、単純に取ってきた湯花草の時期が悪かったってだけだ。いつもならもう少し日が経って、気温が高い時期に取りに行くんだ」


「そうだったんですね、俺はよく分からないので、適当に毟ってきただけなもんで」


 それはもう草毟りのようにブチブチと。


「それでも助かったよ、いつもはもっと成長した湯花草で作るんだ。湯花草の茎が太ければ太い程、質も保存も良くなる」


 なぬ?確か俺が入った温泉の草は、娘さんと集めたそれよりも大きかったよな……。


「そうなんですか。それって気温が高くなきゃ駄目なんですか? 俺が見た薬草はもっと大きかったんですけど」


 えっ!?って顔で村長家族に見られた。


「もっと山を越えたところには、温川の温度が高いから質の高い湯花草が生えてるらしいが……まさか行ったのか?」


「い、いやあ、たまたま見つけまして……」


「北に行く程吹雪虎が多くいるから、無理には行けないんだが……そうか、兄ちゃんなら大丈夫か、つくづく魔族の魔法が羨ましいぜ」


「い、いやー、ははは……」


 すみません、魔族でも何でもないです。

 でもそうか、それなら後で取りに行けばひと財産になるかな?

 今の俺の全力で1日のところでも、結構薬草の大きさは違ってたし。

 これはいいことを聞いた。


「シロコちゃん!」


 治療を終えて、ナンナちゃんがシロコに飛びつく。おお、いいモフりっぷりだ。


「ゴドルさんと、ナンナちゃんも朝食ご一緒にいかが?」


「食べる!」


 村長の奥さんの食事の誘いに真っ先にナンナちゃんが答える。


 お、今度はシロコに跨って完全体になった。


「あー、誘ってもらえて嬉しいんですが、もう家のもんが用意しちまってると思うんで……」


「あら、それは残念ね」


「えーー」


 ナンナちゃんがご不満である。


「えーじゃない、ほら、もう行くぞ」


 ゴドルさんがナンナちゃんをシロコから下ろそうと近づく、──が、シロコがゴドルさんから離れてしまう。


「あ、こら、ナンナ!シロコから下りろ!」


「えー、やだーー」


「あらあら」


 ちょっとした追いかけっこが始まった。

 ゴドルさんがナンナちゃんを捕まえようとしても、シロコが華麗なステップで避ける。ナンナちゃんも素晴らしいバランス感覚だな。


 ……さすがにこれ以上は迷惑になるな。

 パンッパンッ!と手を叩く。


「シロコ!」


 ピクッと俺の言葉に反応して俺に駆け寄る。


「あ!シロコちゃん!」


 シロコからナンナちゃんを確保、そのまま流れ作業でゴドルさんに贈呈。


「ほら、お母さんがご飯作って待ってるんだろ?早く戻らないと」


「ぶーー」


 ぶー言わない。


「はぁ、ありがとよ…。

 それじゃ村長、薬水助かった、また来るわ」


「ああ、他のもんによろしくな」


「シロコちゃんまたねーー」


 ゴドルさんはナンナちゃんを抱えたまま帰って行く。


 ナンナちゃん、お兄ちゃんにも挨拶が欲しかったよ……。


「ふふ、今日の朝はいつもより賑やかだったわね。それじゃあ朝食のご用意しますね、アーニャ、手伝って」


「うん、それじゃあタクミさん、失礼します」


「はい、よろしくお願いします」


 朝食前のちっちゃな嵐が去り、ようやく朝食にありつけそうだ。

 おっと、薬草の事を村長に聞いておこう。


「ところで村長さん、さっきゴドルさんが言ってましたけど、薬草の質がいい物だったらお金になりますか?」


「ええ、茎の太さが倍違いますとその価値は5倍にはなりますな」


「それは随分違いますね……」


 最初に持ってきた薬草は村長さんから代金として20万イェンを頂いている、薬水の原価としたら中々のものだ思う。

 最初に貨幣の単位名を聞いて、また爺さんのせいかとゲンナリしたが、まあ分かりやすかったので許してやる事にした。


 それにしても5倍、100万か……ちょっとした小金持ちになれるな。


「もし取ってきてくださるなら、村の薬師に持って行けば、高く買い取ってもらえます。

 村の代表としても是非お願いしたいですね」


 薬師さんか、まだ会ったことないな。


「そうですか、でしたら持ってきたらその様にさせてもらいますので、後でその薬師さんの場所を教えて下さい。ああ、もちろん取りに行くときは、村の警護が終わってからにしますので」


 周辺の魔物を追い払ったけど、さすがに警護をほっぽり出すのはまずいよな。


「ええ、お願いします、村の皆も不安がりますので。薬師の店の場所はゴドルかアーニャに案内させましょう」


「よろしくお願いします」


「お話は終わったかしら?」


 声をかけられて振り向くと、村長の奥さんが朝食を持って立っていた。


「あっ、すみません、気づきませんで」


「ふふ、いいのよ、じゃあ冷める前にいただきましょ。はい、これはシロコちゃんの分ね」


「ありがとうございます」


 シロコ専用の皿に盛られた食事を受け取って、そのままシロコにコンバート。

 俺も席について朝食を頂く。


 ……うん、美味しいけど、虎さんのお肉、まだあるんだな……。



読んでいただいてありがとうございます。

ブクマ、ポイントもアザマス!( ;∀;)

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