26.夜中の練習
…
……
「……さむっ」
顔に風が当たり、その冷気で起こされた。
「なんで風が…って窓がちょっと開いてるじゃないか」
ベッドから出たくない、出たくないはないが窓を閉めるには出るしかない。
「くそぅ……あれ?シロコ?」
寝ている時にいつも横にあるモフモフの感触が無い、布団の中にも入っていない。
隙間が空いている窓まで行って外を見てみる。
お、外の雪に新しい足跡発見。
「あんにゃろめ、外に出たな……」
まったく、なんでこんな夜中に……方向的にいつも見張りをしている場所かな。
「昼にあんだけ走り回ってまだ動き足りないのか?いや、これはタマちゃんだな」
うーむ、どうしよう……ベッドに戻りたいが、こうなると気になって仕方がない。
「やっぱ気になるよな……」
このままベッドに戻っても眠れなそうだ、ちょっと探しに行くか。
「あっ、俺の着ぐるみが無い」
くそぅ、持ってきやがったな。
外にローブだけで出るとか、とんだ罰ゲームだ。
「よっと。うひぃー、寒い寒い」
軽く身体強化をしつつ窓から飛び降り、シロコが向かったであろう、いつもの見張り場所に向かう。
幸い今日は雲一つないので、月明かりだけで視界に困ることはない。
というより月が3つあるせいか、明るすぎるくらいだな。
……
「お、いたいた」
予想通りにいつも見張りをしている場所に熊がおる。
「まったくあんなとこで何やって……」
うん?なんか喋ってる、中身はやっぱりタマちゃんか?
でも近くに人なんていないよな?
「…ま、ほ、う、……ワ、ほ、ウ、……ご、は、ん、……オ、ハ、ン……タ、ク、ミ…ハクミ!!」
こっそり近づくと何か単語を繰り返している。
1人でブツブツ何やってんだ?ちょっと怖いぞ。
「タマちゃん?」
「!!」
声をかけると弾ける様にグリンと首を回して振り向いた、後ろ姿が人の高さだから分かってたけど、白美人モードだ。
「ハクミ!!」
「え?ちょっ…グッハァ!」
いきなりタックルされた。
そしてそのまま流れる様に俺のマウントを取り、俺の顔を両手でこねくり回す。
「ハクミ!ハクミ!!」
『うーむ、バレてしもうたの』
「お、ちょっ、お前シロコか!?あ、待って、こ、こねるな!」
「ハクミ!」
「わ、分かったから……」
背中の雪が冷たいので、とりあえず体を起こす。
つかお前、上に着てんの着ぐるみだけじゃねえか!
「ハクミ!!」
「お、おう。タクミさんですよ、てか何これ?」
『なに、シロコとの約束の一つで、言葉を教えておったとこじゃ、人の形を取らんと話し辛いからの』
そんな事やっていたのか……。
とりあえずシロコ(人)さん、俺から下りて下さい。
こら!頭でグリグリするな!
…
とりあえずシロコ(人)を落ち着かせ、あらためて話を聞く。
「シロコが表に出てる時でも、人の形になれる様になったのか?」
「ハっ…か!」
『まだ歩くと転ぶがの、毎夜練習しておったぞ』
「全然気づかなかったわ……。
あれ?シロコ、返事したって事は、お前俺の言葉が分かるのか?」
「……ハマ…や、んに、ヒイタ!」
『なに、我がお主の言葉を伝えておる。じゃが今は大体理解しておるぞ』
「マジかー」
うちの子がどんどん犬からかけ離れていく。
『本当はもっと話せる様になってから、驚かせる予定じゃったがの』
「いや、充分驚いてるよ」
「ハクミ!」
「た行が苦手みたいだな……しっかし、まさかシロコと話せる様になるとは」
この世界に来て、少し良かったかなと思える。
『シロコでも人の形を保つことが出来るようになったからの、こうして我が入れ替わりながら、言葉の発し方を教えとる』
「それでさっきブツブツ言ってたのか」
「ハクミ!」
「タ、クミな」
「ラクミ!」
うん、もうちょい練習が必要だな。
「それならシロコの服を、どこかで購入しないといけないな」
裸に着ぐるみとか、特殊な性癖と思われてしまう。
『どうせ街に行くのであろう、その時に手に入れれば良い』
「フク!コ…れ!」
『うん? シロコはお主が着ておったこの熊の毛皮が良いそうじゃぞ?』
「いやいや、それだと俺が寒いわ」
「ワン!」
『嫌じゃと』
あら、不貞腐れた顔も可愛いわね。
…でもその着ぐるみを取られると、シロコは犬であり、ドラゴンで、見た目は熊。うん、訳が分からん。
「そう言うな、もっと良いもん着せてやるから」
シロコの頭を撫でながら説得する。
おお、フカフカのサラサラだな。
「ハクミ!ハクミ!」
頭撫でただけで膨れてた顔が笑顔に。このチョロさは人になっても変わらんな。
「とりあえず寒いし、部屋に戻ろうか。次からは俺も練習に付き合うよ」
『ふむ、その方が上達も早かろう』
「ワン!」
ちょいちょい犬のシロコが出てくるな。
まだ人の形だとシロコは転んでしまうそうなので、犬モードに変化して一緒に村長宅へ歩き出す。
「あ、そういや聞きたいことがあったんだ」
『なんじゃ、我にか?』
「まぁシロコにかな、お前なんで大人の人が苦手なんだ?」
……フイっと俺から顔を背けた。
『クックック、——まあお主が気にする様なことではない、シロコの好きにさせてやれ』
「えぇ、気にするなって言われてもな……」
結構フォローが大変なんだぞ?
『なに、シロコの妙なこだわりのよ「ワン!!」…分かった分かった』
シロコが体を震わせて抗議をしている。
結局分からずじまいだ、無理して聞くのもなんだけど、怯えてるとかじゃないなら……まぁ大丈夫か?
「はぁ……まぁいいけど。間違ってもいきなり他人に攻撃とかしないでくれよ?」
『相手が余計な事をせねばな』
「不安だ……」
はぁ、とため息を漏らし、肩を落としながらシロコと村長宅に戻って行った。
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