25.今後の予定
村長宅での夕食後、村長に村の護衛の期間の延長をお願いされた。
「はあ、別に構いませんが」
逆にいいのかしら?って感じだ。
「申し訳ない、先日の雪でどうも他の村からの助っ人が遅れそうなんです」
「そうですか、こちらとしては逆にお世話になる期間が延びて、申し訳ない気持ちの方がありますけどね」
「そ、そんな事ないです!」
うおぅ、ビックリした……。
娘さんが急に立ち上がって声を上げた。
「あ、ご、ごめんなさい……」
「はは、アーニャもこう言ってますし、そこは気になさらないで下さい」
「そうですか、ではお言葉に甘えます。具体的にどんなもんですかね?」
「そうですね、天候次第ですが多分2週間もかからないと思います」
「それくらいでしたら全然構いませんよ、急ぐ旅でもありませんし」
急ぐも何も、単に迷子状態です。
そうだな……ある程度情報も集まったし、今夜あたりにタマちゃんと今後の方針を相談しよう。
「ありがとうございます」
村長さんが改めて頭を下げる。
「いえいえ。それではそろそろ自分は部屋に戻らせて貰いますね、娘さんもおやすみなさい」
「は、はい!おやすみなさいです!」
娘さんにフリフリと手を振って客室にもどる。
…
タクミさんが部屋に戻ると同時に、食器を片付けていたお母さんが戻ってきた。
「あなた、タクミさんは、まだしばらく村にいてくれそうですか?」
「ああ、快く引き受けてくれたよ」
「それは良かったわ、村の護衛の人達も回復したとはいえ、まだ病み上がりだもの」
「薬草の質がもう少し高ければ良かったのだがな、それでもアーニャが持ってきてくれた物でも充分助かっているが」
薬水に使う湯花草は、茎の太さによって効果の大きさが大分変わる。茎の太さが少し違うだけで価値も効果も段違いだ。
湯花草は温川の温度によってその成長具合が異なり、温度が高いほど茎が太く成長する。今回は冬が明ける前に取りに行ったので温川の温度が低く、いつもより茎が細かった。
「アーニャ、あなたのおかげで助かったのは事実だけど、前みたいな事はもうダメよ?」
「は、はい……反省してます」
「本当タクミさんのおかげね、魔族の人はみんな優しいのかしら?」
「私も直接魔族と話をした事は無いが、街ではあまりいい話を聞かないな。だが彼は人族のハーフだ、彼だけが特別なのかもしれん」
そう、人族は昔戦争に負けてから、その領土はこの北の地以外に認められていないと言われている。
昔すぎてよく分からないが、人族がその生活を南に移さないというのはきっとそうなのだろう。
そしてそれに不満を持っている人達がいるという話も聞いた事がある。
「あら?それならアーニャをお嫁さんにして貰って、村にいてくれないかしら?」
「お、おおお母さん!?」
お母さんがとんでもないことを言い出した。
「そ、それはダメだ!まだアーニャには早い!!」
「何言ってるの、アーニャはもう15よ?彼はいい物件だし、女は旬を逃すと相手なんて選んでられないわよ?」
それに男の子も欲しかったのよね、と追撃してくる。
「し、しかし! うぅむ……」
「ちょ、ちょっとお父さん!?」
お父さんが折れかかってる。
「あら、アーニャはタクミさんの事が嫌いなの?」
「そ、そんな事は無いけど……」
「ならいいじゃない」
簡単に言ってくる。
「で、でも、まだ名前で呼んでもらったこともないし……」
「あら、そう言えば確かにタクミさんはアーニャのこと、娘さんって呼んでるわね。
分かったわ、母さんからアーニャって呼ぶように言ってあげる」
「よ、余計な事しなくていいから!」
そんな事されたら明日からタクミさんの顔がマトモに見れなくなる。
「あらそう? でも彼がいてくれるのは長くても後2週間ほどでしょ?動くなら早くしないと!」
お母さんが両手でグッとしてわたしを鼓舞する。
「わ、分かったから!もう寝るね!?おやすみなさい!!」
このままだとなんか押し切られそうなので、撤退する事にした。
横目でお父さんを見ると、難しい顔して唸っている、多分このままお母さんに説き伏せられてしまいそうだ……。
……
「さて、もうしばらくこの村にいる事になったわけだが」
部屋に入るなり、すぐさまベッドのど真ん中で寝ているシロコに話しかける。
『我はもう、子供の相手は疲れたぞ』
「相手してるのはシロコじゃないか。
それでとりあえず村を出てからの事を決めるのに、集めた情報をまとめたいんだけど」
村長との世間話や、シロコを餌にして集まってくる子供達と、その親御さんから色々と話を集めることができた。
『そうは言うても、大した情報は無かったじゃろう』
「いや、右も左も分からなかった時に比べれば大分マシになったよ」
まず大雑把だが今いる位置と、他の種族の国の場所だ。
ここの場所は大きな大陸のかなり北の位置になる。
そして大陸の真ん中を囲むように、東が魔族、西がエルフ、南が獣人の国で、いつも真ん中の領土を巡って争っているらしい。
『その土地は人族の国があった場所であったのだがのう、この地に追いやられた様じゃな』
情けない、とタマちゃんが仰る。
「そのタマちゃんの話から、多分爺さんと俺が転移した場所はそこだと思うんだよな。転移した時は平地で何も分から無かったけど、3種族に囲まれたし」
争っている3種族の軍団が同時に集まる場所って言ったら、その争っている大陸の真ん中の戦地の可能性が高いと思う。
『ふむ、そうであろうな』
「それでこの世界に転移した場所は分かったけど、他に爺さんから帰還に関する事で何か聞いてない?」
『ふむ……確かシンちゃんが、我に帰還するのに協力して欲しいと言っておったのは覚えておるが……忘れたわ』
「えぇ…」
そこ結構重要やで。
『まあ、そのうち思い出すじゃろ』
「はぁ、頼むよ。じゃあ、この村から俺が転移した場所の方向に、人族の街があるみたいだから、まずはそこに向かおうか。そこなら他の種族の動きも、ここよりは分かりそうだし」
『オーサカじゃったか?』
「そ、そう、そこだよ……」
もう何も言うまい。
『まあ良い、それでは話はそんなとこかの。ほれ、さっさと眠らんか」
「な、なんだよ急に、いつもはそんなこと言わないだろ」
確かにいつもより遅くまで起きてるけど。
『お主が喋っておると、シロコの眠りが浅くなるんじゃ、さっさとせい』
「わ、分かったよ……」
シロコはそんな繊細な犬じゃないと思うけどな。
はぁ、またこんなベッドのど真ん中で寝ておってからに……。
もう寝る前の定番になっている、ズリズリとシロコを押して自分の寝床を確保する作業を終え、ベッドに潜り込んだ。
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