24.娘、頑張る
壮大な雪景色を見ながらの食事。
ご飯はおいしいけど景色は飽きたな。
「そういやこの村に来てしばらく経ったけど、村の人が魔法使ってるの見た事ないな」
人族の魔法は見てのお楽しみにしてて、タマちゃんに聞いてはいなかった。
『何を言うておる、毎日使っておろうが』
「えっ、マジで?」
それらしいの見てないぞ?
『ほれ、向こうでも使っておるぞ』
村の方向を見てみるがそれらしい人は見当たらない。
あ、薪割りしている人と目が合った、会釈しとこう。
「いないぞ?」
『あの薪を割っている男じゃ』
あれが?ただ斧で薪を割っているだけにしか見えないぞ。
『人族の魔法は、使う道具の性能を上げる事じゃ』
「なにそれ凄い」
とんでもない汎用性じゃねえか。
『じゃが大概の者はそれほど向上できんぞ?シンちゃんは別格じゃったがの』
「爺さんは人族の属性に染まったんだよな?
……ちなみにどんな感じだったの?」
『それはもう、剣を持てば敵のどんな魔法も斬り裂き、よく分からぬ玉に火を付けて投げたら山が消し飛びおったな』
懐かしいのぅ、と嬉しそうにタマちゃんが話す。
敵からしたらたまったもんじゃないな…。
てかジジィ、爆弾作ってやがった……。
はぁ、とため息混じりに昼食を続けていると、話しかけてくる人物が現れた。
「よお、昼飯中か?」
「ええ、こんにちは、ゴドルさん」
「お、吹雪虎の挟み焼きじゃねえか。
兄ちゃんのおかげで、俺ん家の飯も豪勢になってるから、ナンナが喜んでるよ」
「それは良かった」
沢山食べて大きくなるがよい。
「…うん、この様子だと今日も何事も無くすみそうだな」
「ええ、暇でしょうがないですよ」
「はっはっ、まあそのおかげで怪我人も回復したから助かったけどな」
「それは何よりですね、それじゃあそろそろお役御免になりそうかな?」
「それは…シロコがいなくなると、ナンナが泣きそうだな……」
「あー、確かに」
ゴドルさんの娘、ナンナちゃんは村で一番シロコに懐いている、村の仕事の手伝いを終えると真っ先にシロコに会いに来きて思う存分モフる。
たまに自分のご飯をコッソリ持ってきて、シロコに与えるほどのご執心振りだ。
「そういえば兄ちゃんは温川目的でここに来たんだよな?その後は国に帰るのか?」
「え、ええ、温泉が好きでして……
えっと、そうですね、特に決めていませんね、ていうか帰れるのかな?」
帰れるなら帰りたいわ。
「なんだ?国を飛び出してきたのか?」
「どちらかというと飛ばされてきたというか…まあ色々あるんです……」
はぁ、と凄い遠い目をしながら溜息を吐く。
「そ、そうか…」
「ええ、まあ旅の途中とでも思って下さい」
「良かったらこの村に定住してくれても構わないぞ?ナンナも喜ぶ。さすがに嫁にくれてやることはできんが」
「ハハッ、それは残念です」
「軽いな、ナンナのどこが不満なんだ!」
どないせいっちゅうんじゃ。
「まぁ、一応旅の目的みたいなのはあるので、誘ってくれるのは嬉しいですけど」
「そうか、村の皆もきっと喜ぶんだがな…」
ゴドルさんがちらっと村の方向を見る。
村の事が心配なのだろう、責任感が強い人だ。
「おっと、飯の邪魔をして悪いな、それじゃあ引き続き頼むわ」
「ええ、まぁ座ってるだけですけどね」
「魔物が村に来ないだけで充分だ、じゃあよろしく頼む」
そう言ってゴドルさんは村に戻って行った。
『やっと行きおったか。ほれ、早ようシロコに飯を寄こさぬか』
「ワン!」
「はいはい、てかゴドルさんは、ただ様子を見にきただけかな?」
いつもは見張りの交代の時に来るのに、この時間にゴドルさんが来たのは初めてだ。
『さあの』
ちょっとタマちゃんが冷たい…。
…
……
あ、タクミさんとの話が終わったみたいだ。
「よう、アーニャちゃん」
「ゴドルさん!ど、どうでしたか?」
「おう、兄ちゃんはまだ村にいてくれそうだぞ。一応旅の目的はあるみたいだが、そんなに急いでるわけでもなさそうだ」
「ほっ、そうですか」
「ああ、他の村からの武器使いが遅れそうなんだろ? だが最近は魔物も下りてこないし、うちの村の怪我人も回復したから、大丈夫だと思うけどな」
「そ、そうかもしれないですけど…」
そう、村に来てくれる武器使いの人達が、この前の雪で来るのが遅くなりそうだとお父さんが言っていたので、タクミさんがまだ村にいてくれそうか心配になった、そこでゴドルさんにお願いして探りを入れてもらったのだ。
「なんだ、兄ちゃんに出て行ってほしくないなら、旦那にしちまえばいいじゃねえか」
「な、何を言ってるんですか!」
魔族の人と、け、結婚なんて…
あ、でもタクミさんの父親は人族みたいだし…
「そうか?そうなれば他の村から助っ人を呼ばなくてもすむし、いい案だと思うがな」
「え、あの、うぅ…」
「まあ、考えといてくれよ、そうなればナンナも大喜びだ」
「それってナンナちゃんのためじゃないですか!」
「ガッハッハッハッ、違いねえ。んじゃまたな」
ゴドルさんは笑いながら村に戻って行った、まったくあの人は……。
遠目でタクミさんを見る。
シロコさんと仲良く私が作ったお弁当を食べてくれている。
ゴドルが言った言葉が頭をよぎると、顔が赤くなるのが分かった。
「で、でもまだ名前で呼んでもらったこともないし、それにシロコさんとも…」
いまだに私は娘さん呼ばわりだ。さらにタクミさんと話をすると、いつもシロコさんがタクミの後ろに回って見つめてくるので微妙に気まずい。
「ま、まずはシロコさんと仲良くならないと!」
両手でグッと拳を握って自分を鼓舞し、アーニャは家に戻って行った。
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