23.犬、人気者になる
ヤマガタ村に来て3週間がたった。
今俺とシロコは、村の北側で椅子に座ったまま、ボーっと景色を眺めている。
山を見廻って1週間程で、村に近づく魔物どころか、村に一番近い山の魔物がいなくなった。
それ以降はもっぱら櫓で見張ってるか、山の近くで魔法の練習をしている。
午後に村の力仕事でも手伝うつもりだったんだが、遠慮されてあまりさせてくれない。
村に近い山の魔物がいなくなったので、たまにシロコと他の山に行って狩りはするけど、それ以外は結構暇だ。
そんなボーっとしている熊と犬を、背後から狙うハンター達が近づいてきた。
『……はぁ、また集まってきおったぞ』
俺の横で寝ているシロコから、タマちゃんがため息混じりに言う。
俺はその言葉を聞いて、いそいそと熊の頭を被り完全熊モード、タイミングを見て勢いよく振り返り走り出す。
「ターベチャーウゾー!!」
「わーー!」
「きゃーーー!」
「あはははは!」
両手を上げて村の子供達を追いかける、ここ最近毎日こんな感じだ。
最初は何人か遠巻きに見て近づいて来なかったが、ナンナちゃんがシロコと仲良くしているのを見られてから、どんどん増えてきた。
やはり子供には動物と着ぐるみが鉄板だな。
「ガオーーー!」
「キャハハハ!」
「こっちだよーー!」
「わーー!」
お、シロコが起きてこっちに走ってきた。
「よし、シロコ!一緒に追いかけグッハァ!」
なぜ俺に突っ込んでくる……。
「シロコが魔物をやっつけた!!」
「シロちゃんカッコイイ!」
今日も俺は怪人ポジションか、まぁいいけどね。
子供達がシロコに集まりモフモフする、モフモフするのはいいんだけど、せめてシロコが俺から下りてからにしてもらえませんかね…。
お、村から娘さんがバスケットをもってこっちに来た、今日の弁当は何かな?
ほれ、シロコさんやいい加減下りなさい。
「コラ!みんな、ここは山から近いんだから、あまり来ちゃダメって言ってるでしょ!!」
「シロコがいるから大丈夫だよ!」
「シロちゃんが守ってくれるもん!」
俺は無視か。
「タクミさん達はお仕事でここにいるの、邪魔しちゃダメよ」
「えー」
「ただずっと座ってるだけだよ?」
反論のしようがないな。
「もう…すみませんタクミさん、今日も子供達が……」
「いや、暇だったのは事実だしね、いい事だけど」
「はい、タクミさんが村にいらしてから1度も魔物を知らせる鐘が鳴っていません、本当にありがとうございます」
「おかげでタダ飯食らいになっちゃってるけどね」
ここ1週間ほぼ座ってるだけだ、たまに狩り行ってるけど。
「そんな事ありません!タクミさんがいるだけでみんな安心して生活してます!いただいてるお肉だって凄く助かってます!!」
おおぅ、凄い剣幕だ。
「あ、ああ、それなら良かった、それで今日のお弁当は何かな?」
「あっ、す、すみません!えっと、はいどうぞ!今日は吹雪虎の挟み焼きです!」
「ありがとう、それじゃあ早速頂くよ」
「はい!
それじゃあみんな、村に戻るわよ」
「えー」
「えー」
子供達はシロコを絶賛モフモフ中だ。
シロコもパタパタ尻尾を振っている。
「……本当に子供は平気なんですね」
「まぁ、そうだね」
娘さんが恐る恐るシロコに手を伸ばす。
シロコはスッとその手を避けて、俺の後ろに移動した。
「あっ、シロちゃん!」
「アーニャ姉ちゃん何すんだよ!」
「……うぅ」
ここ最近になってシロコが危険ではないと分かってくれたのか、娘さんはシロコに触ろうと頑張っている。
今のところ全敗だ。
「まぁ…無理しなくてもいいよ?」
俺の親でさえ駄目だったんだし。
「い、いえ!私シロコさんと絶対仲良くなってみせます!」
「そ、そう」
両手をグッと握って決意表明する。
何か心境の変化でもあったのかな?
「はい!それではお仕事頑張って下さい!ほら、みんな早く!村に戻るわよ!!」
「ちぇー」
「シロちゃんまたねー」
嵐が去って行った。
なんか娘さんがオカンよりの保母さんになっとるな。
「んじゃ飯食うか、ほれ、シロコ」
「ワン!」
今日のお弁当、虎さんの挟み焼きを頂く、サンドイッチみたいなやつだ。
うん、美味い。
読んでいただいてありがとうございます。




