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21.朝の出来事


 ……顔が生暖かい、これは確実にシロコが俺の顔を舐めているな。


『ほれ、早く起きんか』


 あっ、これはまさか!?

 朝の微睡みを吹き飛ばして無理やり目覚める。


「……ちっ、サモエモードだったか」


 白美人モードかと思って期待してしまった。

 あれから1回も白美人モードになってくんない。


『なんじゃそれは?いいからさっさと起きんか、シロコが腹を空かせておるぞ』


「ハイハイ」


 おっふ、ベッドから出ると空気が冷えてるのが分かるね。

 とりあえず日課のよしゃよしゃをシロコにしてやる。

 うん、今日も元気だな。


 ローブをまとってシロコと一緒に部屋を出る。

 お、なんかいい匂いがする、昨晩ご馳走してもらった食事も美味かったし、朝食も期待できるな。


 …まあ確実に昨日の虎さんの肉料理だと思うけど。


「あ、タクミさん!おはようございます!!」


 炊事場から出てきた娘さんに挨拶される、さすがにもう俺に対して慣れてくれたかな?


「ああおはよう、朝食の準備?何か手伝おうか?」


「い、いえいえ!そんな事して貰うわけにはいきません!!」


 気にしなくていいのに。


「そう?まぁ何かあったら言ってくれていいから」


「は、はい!それで朝食ですが、お肉を煮込むのでもう少しかかっちゃうんですが…」


 少し朝飯が遅くなるくらいで怒らないから、そんな不安そうな顔はしないで欲しい…。


「別に構わないよ、それじゃあちょっと庭に出てるから出来たら呼んで」


「分かりました!あ、あの、ありがとうございました、いっぱいの吹雪虎のお肉で村の皆も喜んでます!!」


 あの大きさでしかも2匹だ、充分に村の人達に行き渡っただろう。


「それなら良かった、それじゃあよろしくね」


「はい!」


 娘さんの声を背に玄関へ向かう。

 うーん、もうちょい慣れてくれてもいいと思うんだが……。

 親子共々対応に疲れるわー。


「おっふ、外はやっぱり冷えるねぇ」


「ワン!」


 身体を捻って固まってる筋肉をほぐす。

 シロコは何故か朝の体操をしている俺の周りをグルグルする。

 外に出ると犬はテンション上がるよなー。


「あ!熊のおじちゃん!!」


「グハァ!」


 俺は膝から崩れ落ちた……。


「お、おじちゃん!?」


 グフッ!追い討ちとはやるなお嬢ちゃん…

 ああ、分かってるよ、子供から見たら大人はみんなおじちゃんおばちゃんだって。

 でも成人になったとはいえまだ20歳、是非に、是非にお兄さんと呼んでいただきたい……嘘でもいいから。


「やあ、ナンナちゃんだっけ?おはよう」


「う、うん、おはよう……大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、ただ俺の事はお兄さんと呼んでくれないかな?なんならタクミと呼び捨てにしてくれても構わない!」


 このまま土下座も辞さない。


「え?じゃあタクミお兄ちゃんで……」


 スッと立ち上がり膝の汚れを叩く。


「ありがとう、これでもう少しだけ生きようと思えるよ……」


『お主は何を言っておるんじゃ』


「う、うん、あ!お兄ちゃんが吹雪虎をやっつけてくれたんだよね!?」


「ああ、ゴドルさんから聞いたんだね。そうだよ、美味しかったかい?」


「うん!ありがとう!お父さんも凄く喜んでた!!」


 めっちゃええ子や……。

 おや?ナンナちゃんが昔の魚屋スタイルで、空の桶を肩に掛けている。


「その桶は何?」


「水汲み!この先に井戸があるの!」


 おおぅ、この村ではこんな子が朝から働いているのか……。

 ホロリときた、ここは紳士として是非お手伝いせねば。


「そうなんだ、偉いね。そうだ、俺もその場所を覚えたいし手伝ってもいいかい?」


「え、でも……」


 ふふん、子供の扱いはお手の物なのだよ。

 そう、先程からナンナちゃんがチラチラと見ているものを使えばね!


「桶は俺が持つから、ナンナちゃんはシロコに乗ってくといい」


「え!そんな事出来るの!?」


 パッとナンナちゃんが笑顔になる。

 ハッハッハッ、なんて簡単なんでしょう。

 この方法で落ちなかった子供はいないのだよ!


「と、言うわけで頼む」


『お主……まあ、シロコが嫌がっておらんからええが』

「ワン!」


 村の道を幼女を連れた男が闊歩する。


「わあ!わあ!モフモフしてる!あったかい!」


 幼女はシロコの上でご機嫌である。

 シロコも尻尾の揺れ具合からご機嫌である、これが何で大人の人だと逃げ出すんだろう?

 後でタマちゃんに聞いてみよう。


「お、あれが井戸がある小屋かな?」


「うん!」


 雪対策なのか凍結対策なのか、井戸は小屋の中にはあるみたいだ。

 小屋の扉を開けて中に入る。お、ちゃんとポンプだ。

 ごめんなさい、勝手に手で引っ張るやつかと思ってました。


 桶に水を汲んで、きた道を戻る。

 これ子供には結構重労働だよな、俺がナンナちゃんの歳の頃にこの水汲みやらされたら、その足で児童相談所に直行してるわ。


 あ、家の前に娘さんがおる、待たせちゃったかな。


「あ、タクミさんどこに行って…ナンナちゃん!?」


「アーニャお姉ちゃんだ、おーい!」


「た、たたた、タクミさん!?シロコさんにそんな事、だ、大丈夫にゃんですか!?」


 なんか顔が真っ青になってる、噛み方が可愛いな。

 …あっ、そうか、あの時シロコのブレスも見たんだな、そら不安になるか、申し訳ない。


「ああ、大丈夫大丈夫、コイツが人見知りするっていうのは大人限定だから」


「凄いよお姉ちゃん!モッフモフであったかいの!!」


 シロコの上で興奮気味に話す幼女。

 ウンウン、子供の反応は世界が変わっても一緒だな。


「そ、そうなんですか?お、怒ったりしませんか?」


「子供限定だけどね。それじゃあこの桶をナンナちゃん家まで運んじゃうから、ちょっと待ってて」


「は、はい……」


 ナンナちゃんをシロコに乗せたまま移動を開始する。


「アーニャお姉ちゃん、またねー」


 ナンナちゃんはシロコに乗ったままブンブンと手を振る。

 娘さんは呆気に取られて固まってるが、ここはまるっと無視の方向で。


 こういうのは時間が必要だな。



 …ナンナちゃんを家まで見送り、村長宅に戻る。

 あ、娘さんがまだ家の前におる。


「ごめん、待たせたかな?家に入ってもらっても良かったのに」


「い、いえ、そんなに待って無いです…あの、本当に大丈夫なんですか?」


 娘さんがシロコをチラッとみる。

 そのシロコは、絶賛俺の背中にお隠れ中だ。

 顔を半分出して、娘さんを見つめることも忘れない。

 うーん、シロコの攻撃を見たのは娘さんだけだし、村でブレスの使用は控えた方がいいな。

 シロコが村の人達に怯えられるのはちょっと嫌だ。


「本当に大丈夫だから。コイツ、子供は好きなんだよ」


「そうなんですか……」


「まあ、心配する気持ちも分かるよ。ごめんね」


「い、いえ!私が勝手に騒いでしまっただけです!ごめんなさい!!」


「まあまあ、それより朝食を頂いても?」


「ああ!そうでした!ご用意してあります!!」


 娘さんの案内で村長宅に入る。

 さて、今日のご飯はなんでしょう?



読んでいただいてありがとうございます。

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