20.感謝される熊
「本当にありがとうございます!!」
涙まみれの村長に両手を握られて感謝される、あんまし嬉しくない。
村長が娘さんをオイオイ泣きながら抱擁した後、しばらくしてゴルドさんが事情を説明。
俺が娘さんを無事村まで連れてきたということで感謝されまくっている。
娘さんは今村長の奥さんにこってり絞られ中。
「いえいえ、まあ娘さんに頼まれましたし、向かう方向も一緒でしたので」
「それでも感謝します!…まさか本当に温川まで1人で行っていたなんて……」
温泉で娘さんに会ったと言ったらめっちゃ蒼ざめてた。
村長のありがとう攻勢が止まらないので、ゴドルさんが横から入る。
「まあまあ、村長も奥さんもその辺で、2人ともたった今温川から帰ってきたんだ、少し休ませてやってくれよ」
「ああ!これはお茶も出さずに申し訳ない!!ささ、狭いですが応接室にご案内します!!アーサ、茶の用意だ!」
「はい。タクミさん、アーニャを連れて来て下さって本当にありがとうございました」
村長の奥さんにもペコペコ感謝される、元凶である娘さんは、奥さんにオタマではたかれた頭をナデナデしながら涙目だ。
「うぅ…痛い……」
…
……
「はぁー、疲れた……」
「ワフッ!」
シロコがしばらくほっとかれてご立腹だ。
ご機嫌取りよしゃよしゃをしてやる。
今俺たちは村長に「宿泊でしたら是非この部屋をご利用下さい!」と言われたお客さん用の部屋にいる。
応接室に案内されてからもてんやわんやだった。
娘を助けたお礼に始まり、虎さんを倒したことに驚かれ、その虎をそっくり寄付した事に感激、薬草を渡すと涙を流し、しばらく村の防衛に協力するという話になったら土下座されながら感謝された。
「久しぶりにベッドで寝れる……」
当たり前の様な事が幸せだったと思うね。
『どれ程この村に滞在するつもりじゃ?』
部屋に入るなりベッドの上に鎮座したシロコから、タマちゃんが言う。
「少なくとも他の村から支援が来るまでいる必要があるんじゃないか?」
『そういえば救援を出してると言っておったの、まったくどれ程かかるのか』
「まあしばらく周辺の情報集めだな、さすがに俺の世界に帰る手段は見つけられないと思うけど……」
とりあえず人里に着くという初期の目標は達成できた、中長期の目標として帰る手段が無いか知りたい。
『うん?帰りたいのか?』
「そりゃあ……な」
『シンちゃんも最後まで帰る方法を探しておったの、その過程で我と出会ったのじゃ』
「やっぱり爺さんは帰る方法を見つけられなかったのか?」
『色々調べておったがのぅ、シンちゃんの世界に連れて行ってくれると約束したのに』
ちょっと悲しそうにタマちゃんが呟いた…いやいや、ドラゴンが日本に来たらえらい騒ぎになるぞ。
『……そういえばこの世界に転移した場所がどうとか言っておったな』
「あそこか……ってかあそこはどこだ?」
『平地としか情報がないのに我が知るわけなかろう』
デスヨネー。
「まあ今は人里にこれたことを喜ぼう、今日は色々あって疲れたよ」
『シロコはもう寝ておるぞ』
「……ベッドのど真ん中じゃねえか」
ズリズリとシロコの体をズラし寝るスペースを確保して俺もベッドに潜り込む。
ああ…布団の感触に感動するなんて初めてだ。
「んじゃまた明日な……」
『うむ、ゆっくり休むがよい』
ああ、今夜はよく眠れそうだ。
明日の事は明日考えよう……。
シロコ、もうちょい横にずれて。
読んでいただいてありがとうございます。




