18.熊と犬、村に参上する
壮大な雪山を駆ける2つの影があった。
その影には山に住まうどんな動物でも追いつくことは出来ないだろう。
駆ける影とは一体何なのか?
人を背負った熊と犬だ。
「おー、ここの山は木がいっぱい生えてるなー」
「凄い、もうこんなところまで……」
身体強化は結構慣れた、人1人背負って2時間程走ってもまだまだ余裕である。
魔法って凄いね。
「大丈夫?ちょっと休憩する?」
「い、いえ!大丈夫です!……と言うよりもう直ぐ村が見えると思います!」
「あ、そう?」
以外と近かったのね。
『ふむ、あそこでは無いか?良くもまあこの様な場所を開拓したものじゃ』
「おお、見えた見えた……んん?」
あれっていつもの虎さんだよな?
「あ、ああ!吹雪虎が村に!に、2匹も!!2匹も!!」
娘さんがグイグイ着ぐるみを引っ張る。
俺は馬ではございませぬ。
・
「おい!臭毒をもっと寄越せ!!」
「ここで使い切ったら次来た時の対応が出来なくなるぞ!弓と剣でどうにか出来ないか!?」
「1匹でも難しいのに2匹同時じゃどうにもならんだろ!ここでコイツらを通したら臭毒の予備も何もあったもんじゃ無いぞ!!」
「クソ!!」
最悪だ…ここに来てまさか2匹同時に吹雪虎が村まで降りてくるなんて。
村の武器使い達もボロボロだ、まともに動ける奴は5人もいない、一刻も早く村長の娘さんを探さなくちゃいけないって時に!!
「もう薬水も無いんだ!残ってるなら使うしか無いだろ!!」
「ああもう!なんだってこん!?」
「失礼しまーす!!」
ドスン!!
「は?」
「え?」
空から熊と狼が降ってきた。
「……あー、取り敢えずやっちゃいますね?」
突如空から降ってきた熊はそう言うと、変なポーズを取る。
え?人?
「汚物は消毒じゃああぁぁ!!」
「キャア!、お、下ろしてくださいぃ!」
熊が目を疑うような炎の竜巻を吹雪虎に放ち、その命を奪った。
魔族が使うと言う炎の魔法はこんなに威力があるものなのか?
あ、村長の娘さんだ…。
…
……
「ふぅ、これで大丈夫かな?」
「あ、あの、その……」
「ああ、ごめんごめん、今下ろすよ」
名残惜しいが娘さんを解放せねば。
「お、お手数掛けます……」
娘さんを背負うのに使っていたシーツを解いていると、虎さんと対峙していた30代くらいの男が近づいてきた。
ムキムキやな。
「あ、アーニャちゃんだよな?」
「あ、ゴドルさん!ごめんなさい!!勝手に村から出てしまって……」
娘さんが俺の背中の上で謝ってる、まだ解けてないからね?
「あ、ああ、無事で良かった、それでその…熊?人は?」
「そ、そうです!村の力になってくれる方を見つけてきたんです!!」
「そ、そうなのか」
さっきから背負ったままで会話しないで貰えますかね……よし、解けた。
「あ、ありがとうございます……」
「ちょっと待ってね、シロコのも解いてやらないと」
「は、はい!」
「あ、ああ……」
シロコに結んである薬草が詰まった袋を解いてやる。
こら、動くな。
「さて、ようやく人里に着いたな」
『ふうむ、吹雪虎程度にあの体たらくとは、人族はあまり変わっておらん様じゃのぅ』
「いやいや、あんなのに立ち向かおうとしてる時点で普通じゃ無いからな?」
『ふん、あれぐらい我なら千匹おっても問題ないわ』
相変わらずタマちゃんは人族に対して冷たいな。
「しばらく厄介になるんだからいきなりブレスとかしないでくれよ?」
『相手次第じゃな』
過去に一体何があったんだよ……。
よし、解けた、はよ袋を持って娘さんの所へ向かわねば。
「お待たせしました、はい、これ薬草ね」
「ありがとうございます!!」
「え?薬水に使う湯花草か!?」
ほう、そんな名前だったんだ。
「はい!温川でタクミさんにお会いしたんです!そこでも吹雪虎を追い払ってくれました!」
「そいつはまた……、ああすまない、俺はゴドル・ホンダ、さっきは助かった」
こっちも熊の頭を外して自己紹介を返す。
「いえいえ、俺はタクミ・サンダースって言います。アーニャさんにお願いされてここに来た魔族です」
ホンダか……地名といい、チョイチョイ爺さんがやらかした痕跡が見つかるな。
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