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15.互いに自己紹介


 人だ、目の前に人がおる……。



「あ、あの!お食事中にすみません!私の話を聞いて貰えませんでしょうか…って、えええ!?」


 そこには両目から大量の涙を流しながら泣いている熊の着ぐるみを着た男がいた。


 そして横にいる犬の前足を手に取り、いきなり踊り出す。


「はっはっはー!やったぞシロコ!ついに、ついに人がいる場所まで来れた!!もう毎日毎日雪肉山雪魔物肉雪魔物山雪雪肉肉肉肉肉の日々からオサラバだー!!」


 ヒャッホーゥ、と5メートル程の高さで跳ねながら犬と踊り出す。

 犬も尻尾をブンブン振りながら男と踊っている。

 といっても唯男に前足を振り回されているだけの様だが。


 近くにいる娘は混乱しながらも話を聞いて貰おうと必死に話しかける。


「あ、あの、えーと、すみません!私何かしてしまったでしょうか!?そ、その、少しでも私の話を聞いてはいただけないでしょうか!?お、お願いします!お願いします!!」


 炎で丸裸になっている大きな虎の横ではしゃぐ熊と犬と娘。

 もうしっちゃかめっちゃかである。



 …

 ……

「すみませぬ、はしゃぎ過ぎました」


 ふかぶかーと熊がお辞儀する。


「い、いえ!何か事情がおありなんですよね!?問題無いです!お、お気になさらないで下さい!」


 お互いにペコペコする熊と娘。

 花咲く森の道ではない熊さんに出会ったお嬢さんが言われた言葉は、お逃げなさいではなく、ごめんなさいであった。


「そ、その、オオカミさんは?」


 シロコは俺の後ろに隠れて顔だけ半分出して娘さんをじーっと見ている。


「ああ、コイツは人見知りなもんで……」


 そう!コイツは大型犬だろうがトラックだろうがなんにでも戯れるくせに、何故か大人の人間に対しては凄く人見知りをする。

 シロコをまともに撫でられるのは10歳くらいまでの子供、それとシロコを拾った俺と妹だけだ、両親でもシロコを撫でようとすると毎回逃げ出して俺の背中に隠れる。


「そ、そうなのですか、分かりました。


 あ!申し遅れました!ま、魔族の方とお見受きぇします!わたくしは、ヤマガタ村村長の娘、アーニャ・サイトーと申します!!」


 なんかすんごい無理して敬語使ってる感じがする、噛んでるし。

 てかヤマガタ村って何だよ。


「はぁ、ご丁寧にどうも。俺はあず『チョイとこっちに来い』ぐえっ」


 急にシロコが着ぐるみを引っ張る。


「ち、ちょっと待ってて貰える?」


「は、はい!」


 ズルズルと引き摺られて娘さんから距離を取る。



「……何だよ?」


『先程あの娘はお主の事を魔族と言っておった、どう見ても人族なのにの。炎を出したのを見たのじゃろう』


「ああ、……でもなんかまずいのか?」


『おそらく父親が人族のハーフとでも思っておるのだろうがそこは別に問題ない。ただアズマの名前を出すのはやめておけ、厄介な事になるやも知れん』


「二千年前の話だろ?とっくに忘れられてるんじゃないか?」


『念には念をじゃよ』


「まあ分かった……、そう言えば最初爺さんのことシンゾウ・アズマって言ってたよな?名前が先なのが一般的?」


『そうじゃ。それと我の声はお主にしか届かぬ様にするからの』


「え?なんで?」


『普通喋る魔物などおらん、人族は特に得体の知れぬものには過敏に反応するから面倒じゃ』


「……その方がいいか」



 …

「お待たせして申し訳ない」


「い、いえ!あの、私何か狼さんに失礼な事をしてしまったのでしょうか!?」


「あー、大丈夫大丈夫、アイツ嫉妬深くて俺が他の人と話すと拗ねるんだ」


「そ、そうなんですか!」


「俺はタクミ・サンダース、まあこんな見た目だけど魔族だよ」


 色々と説明もめんどいし、タマちゃんが言ってた人族と魔族のハーフって事にしておこう。


「やっぱり!!あ、あああのですね!お、おっおねが!」

「まあまあまあ」


 さっきからこんだけテンパられるとこっちが冷静になるよな。

 人族はあまり強くないってタマちゃんが言ってたから多分怯えてるんだろう。


 こっちも情報が欲しいのだ、少し落ち着いてもらう。


「俺とシロコの魔法を見たんだよね?心配しなくても君を攻撃する様な事はしないから。

 ほら、深呼吸深呼吸」


「は、はい!」


 すぅ~~、はぁ~~、と馬鹿正直に娘さんが深呼吸をする。


「し、失礼しました。私はヤマガタ」

「それはさっき聞いたから」



 なんか心配になるなこの娘。


読んでいただいてありがとうございます。

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