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14.第一村人は発見する側


   とある人族の村



「魔物が下りてくる時期が早すぎる!!」


 ダン!とテーブルに拳を叩きつけて男は叫ぶ。


 この村の場所は北の大地で人が住めるギリギリの場所だ。

 魔物から人族を守るための防波堤とまでは言わないが、いち早く山から降りてくる魔物の情報が入るためそれなりに重要視されている。


 寒さが和らぐと山に住んでいる魔物の活動範囲が広がるため、何匹か降りてくるのだ。

 その時期になると各村から人族の魔法に長けた"武器使い"を派遣してもらい、強い匂いを放つ毒で追い返したり、大勢で囲んで討伐したりしている。


「もう常備している毒も少ない、村の武器使いも怪我人だらけだ!」


「他の村に魔物が降りてきたって報告は出してるんでしょ?こっちに来れないの?」


「まだこの時期だと他の村の武器使いは出稼ぎに出ている筈だ。

 それにこの雪だ、いたとしてもどれ程の時間がかかるか……」


「もう去年に集めてもらった薬草で作った薬水も残り少ないわ……」


「ぐぐぐ、薬草を取りに行くにも武器使いの人数が少ない。

 そもそも取りに行くのも他の村の武器使いに協力してもらってると言うのに……」



 ……村長の娘アーニャは今の話を扉を挟んだ廊下で聞いてしまった。


「やっぱり大変な事になっているじゃない……」


 村の武器使いは怪我の処置をするアーニャに、"大したことはない、この傷も自分のドジで負っただけだから"とか言っていた。


「せめて薬水の材料があれば……」


 薬草が自生している場所は分かる。

 毎年村に来る他の村の武器使いと合わせて20人程で警護してもらい、山を2つ越えた先の地熱が出ている場所に1年中生えている。


「頑張れば片道で一晩くらいだったわよね」


 アーニャは雪山に行く時の出で立ちに着替えると、両親にバレないようコッソリと外に出る。

 バレたら絶対に怒られると分かっているが何もしないのは嫌だった。


「この大きめのシーツで隠れれば大丈夫よね……」


 シーツを広げて呟く。

 真っ白というわけではないがこれで全身を隠せば雪の塊に見えなくもない。


「早く取って来なくちゃ……」


 アーニャは村長の娘としての責任感と、村のために頑張っている武器使い達のために薬草が自生している山に向かった。



「や、やっと着いた……」


 雪道は思っていた以上に進むペースが上がらず結局二晩掛かってしまった、今頃村では大騒ぎだろう。

 道中は運良く魔物とは遭遇せず、夜は木の上で体全体にシーツを被って過ごした。


 岩に隠れて目的の薬草が自生している川辺を見る。


「うそ……」


 目的の場所に吹雪虎が3匹もいる。

 吹雪虎は村の武器使い達が強い匂いを放つ毒を投げて追い返すのが普通で、倒すとしたらベテランの武器使いが10人以上は必要だ、それでも被害が出ることを覚悟しなければならない。

 そんな魔物が3匹もいる。


「この時期は本当はもっと北に居る筈なのに……」


 夜になれば離れてくれるだろうか?

 そんな希望を考えていると3匹の吹雪虎の前に新たな魔物が降ってきた。



「……熊と、狼?」


 いきなり現れたあの魔物は何をしているのだろうか?

 どう考えても吹雪虎に勝てるわけがない、体の大きさも数も負けている。

 吹雪虎達も怒りを露わにして今にも襲いかかろうとしている。


 吹雪虎による一方的な狩りが始まろうした時、狼が空を見上げて口を開けた。


 バチィッチヂチヂバチバチバチ……。


「え?なに?どうなってるの!?」


 魔力を使う魔物は少なからずいる、だが殆どが牙や爪の鋭さを上げる程度だ、そもそも雷を使う魔法なんて聞いたことがない。


 バシュウウウゥゥゥン!

「ヒッ!?」


 一瞬周りが光で真っ白になった。


 狼が放った光は空に向かって消えて行く。

 肌で感じる、あれはどんな生き物でも殺しきる事が出来る攻撃だろう、背中には冷や汗が流れ手も震えている。


 気が付けば吹雪虎は2匹逃げ出していた、あの攻撃を見てしまっては無理もない。

 だが1匹残っている、逃げた二匹より大きいのでボスだからなのだろうか、それとも唯腰が抜けて動けないからなのか。


「あの狼の魔物は一体……」


 自分自身が腰を抜かして動けず、成り行きを見守っていると、狼の横にいる熊の首が取れた。


「えっ?人!?」


 熊の中から男性の人の顔が現れる。

 黒髪の人間だ、何人かは見た事はあるが、あそこまで黒いのは珍しい。


 黒髪の男は突然変な構えをしたかと思うと、凄まじい炎をその場に残った吹雪虎に向けて放つ。


「え?ええ!?」


 魔族が使うと言う炎の魔法。

 炎の魔法とはこんなに凄まじい物なのだろうか?アーニャは炎の魔法を見た事がないので分からない。


 放った後に残ったのは無残な姿になった吹雪虎であった。


 …

「炎の魔法を使うってことは魔族よね?」


 魔族は総じて肌の色が褐色だ、でもあの炎を使った男の肌は褐色とは言えない。


「父親が人族なのかしら?」


 魔力の属性は胎内で染まるから母親は確実に魔族だろう。

 そしてハーフは凄く珍しいが無いわけではない。

 でも種族として弱者である人族の子供を魔族が欲しがるだろうか?


「離れててよく聞こえないけど喋ってるし、単語からして言葉は通じるわよね……」


 遠目で見ていると、さっきから吹雪虎の肉を狼に投げて食べさせている。

 狼は右に左に高く飛び上がり、投げられた肉を器用に咥える。

 笑い声もするし1人と1匹は仲が良さそうだ。


「あの人に協力して貰えば……」


 あの攻撃力だ、村を襲う魔物など追い払うどころか簡単に討伐してしまうだろう。

 魔族の人は街で見た事しか無いが、言葉が通じるのであればお願い出来る筈だ。


「あの人が来てくれたら薬草も魔物も全部解決する……」


 自分に言い聞かせるように呟くと、意を決して熊と狼に向かってアーニャは歩き出し、声を掛ける。


「あ、あにょの!少しよろしいでしょうか!?」


 …噛んだ、死にたい……。


読んでいただいてありがとうございます。

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