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10.熊と犬、肉を貪る


 …

 ……

 ふむ、何となく分かってきた。


 左手の刻印に魔力を留めてコネコネすると、背中の刻印に魔力を送った時のように魔力に変化が生じる。

 そのまま少し放出すると炎が出る、最初は勢いが強くて前髪が少し無くなった。


 ちょっと面白い。


 右手の刻印でも同じ様に魔力をこねて放出すると、風と言っていいのか魔力が勢いよく吹き出た。

 右手で変化した魔力は操作がしやすく、放出する際にちょっと捻ったりすると竜巻みたいになる。


「そういや最初にこの世界に来た時にあった人?達は何かしらやってたような…」


 なんか踊ってたり魔法陣みたいなの出したりしてた。


「きっと変化させて出すってだけじゃないんだろうな……」


 こんなんで転移とか出来る気がしない。


「しっかしこれからどうしようかね?」


 訳も分からずこんな世界に放り出されて何をしたらいいのか全くわからん。


「とりあえず爺さんがいた国とやらをあてにするのがベストか?

いや滅んだとか言ってたよな、さらに爺さんがいたのって二千年前とかも言ってたし……」


 正直いきなり二千年前にいた爺さんの孫です!って言っても頭のおかしい人に見られるだけだと思う。


「はぁ、ため息しか出な『進んでおるか?』

「おわっ!?」


 ドスン! と、上から犬が降ってきた。


「タマちゃん、ビックリさせるなよ……てかどっから来たんだ?」


「ハッハッハッ」


 撫でろオーラ全開のシロコをこねつつ尋ねる。


『なに、跳ねて来ただけじゃ』


 どっからだよ……足音とか聞こえなかったぞ。


『それよりシロコが腹を空かせておるぞ』


「ワン!」


「やっぱりアレ食うの?……」


 視線の先には首のないトラの死体がある。


『そのために頭を落としたんじゃ。なに、毒はないから心配するな』


 いや、そういう心配じゃなくて……。


『炎が出せる様になったのじゃろう?早速試してみい』


「グイグイ来るな、まあ出せる様になったけど」


 左手がら炎出す。


『うむ、ではそれで吹雪虎を焼いてやれ。

シロコは生肉より焼いたやつの方がええそうじゃ』


「ワン!」


「随分と仲良くなってんな……」


 ちょっとジェラシー。


『クク、身体に住まわせてもらう代わりに色々と約束したからの』


「……なんの?」


 シロコが欲するものなんて、食う寝る遊ぶぐらいしか思いつかん。


『なに、そのうち分かる。それよりほれ、さっさと焼かんか』

「ワン!」


「はいはい、ワカリマシタヨー」


 道具もなにもないのでそのまま直火焼きにして、焼けた部分を剣で刮いでポイポイシロコに与えた。


 俺も食ってみたがちょっと臭みはあるが食えないこともない。


 シロコはモリモリ食ってるが……。


『今日はここで一晩明かすとするか』


 腹が膨れて欠伸するシロコから、タマちゃんがそうおっしゃる。


 気がつけば周りが暗くなっていた。


「まあ暗くなってきたし、ここの地面はあったかいから凍え死ぬ事は無さそうだけど…」


 屋根も何もない。


『心配するな、シロコが寝ても我は眠らん。我が見張っておいてやる』


 正直俺も今日は色々ありすぎてもう限界だ、お言葉に甘えることにしよう。



 適当な場所で小石を退けて簡易な寝床を作って寝転がってみる。

 のしっとすかさずシロコが乗っかる。

 重いわ!



「お前は枕な」


 シロコを降ろして枕にする。

 大きめの枕に熊の着ぐるみと地熱のお陰で充分あったかい。


 ふむ、いい感じだ、シロコは不満気な顔をしているが。



「凄い星空だな……」


 空を見上げると、眼に映る星の量に圧倒される。

 月っぽいのが3つあるあたりここが異世界だと実感させられるな……。


『シンちゃんもよく空を見上げて同じ様なこと言っておったの』


「ああ、日本人がこの空を見たらみんな驚くと思うぞ」


 月が3つある時点で。


『我も久しく見ておらんかった、改めて結界を解いてくれて感謝する』


「顔も見たこと無いけど爺さんの知り合いだしな、それに外に出れる様になったのはシロコのお陰だろ」


『もちろんシロコにも…ってもう寝ておる、随分と寝付きが良いの』


 シロコの鼻からスピィスピィと鼾が聞こえる。


 いつも寝るときのBGMになっているシロコの鼾のせいで俺も眠くなってきた。



「じゃあすまないが見張りよろしく頼む」


『うむ、久し振りの星空を堪能させて貰うぞ』



 挨拶を終え目を瞑ると、今日の疲れも相まって気絶するように眠りに落ちた。


読んでいただいてありがとうございます。

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