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からくり司書室の花  作者: 紅山黒子
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4話 シノの分析と来客

フラワーと別れた後のお話。

 その夜は眠れなかった。たまにフクロウの鳴き声のする中、ベッドの上でスケッチブックを開き、今日の記録を取っていた。

 司書室の壁の穴はなんだったか分からないが、床の倉庫かと思いきや隠し階段があって、地下城の正式な入り口だとわかる。そして恐らく、そうは思いたくないが、裏口の床のスイッチ。そしてミス・フラワーの変なところ。

 書こうとしたら鉛筆が折れたので自動削り機で鉛筆を削っていると、うるさかったのか親に早く寝なさいと言われたが、返事だけしてまた鉛筆を走らせる。

 高いところから落ちたのに抱きとめられたとはいえどこも痛くなかったし、落ちてたときは加速していたのに、抱きとめられる時に減速しているのが変だ。しかも、ミスフラワーは足が速い。長めのスカートで革靴で足音も立てず、どれだけのスピードが出ているのだろうか。それとも跳躍?…いや、ありえないか。

 そんなことを考えては紙面に書き散らしていると、外から鼻歌が聞こえてきた。こんな夜中にそんなことをするバカに心当たりがあるため、カーテンを少し開いて外を見る。どうやら当たりらしい。螺子状の鍵を開け、縦開きの窓を上げるようにして開ける。


「なんでここにいるんだよ、ムギ」

「変な夢見たから…その報告?」

 なんでこんな夜中に、パジャマ姿とサンダルで走ってきたのか。よく見ると笑っているのに、顔に影がさしている。これは絶対落ち着かないと帰らないなと思い、窓から部屋に入ってもらった。ここは日本だが、俺の親たちは洋風邸宅に憧れているせいか、どの床も土足可だ。どこからでも入ることができる。そんな家で育ったために玄関の概念が分からなくて、幼等部の始めに学園で恥をかいたことがあるのは言うまでもない。

 外からの風が少し冷たかったので、親に見つからないようにこそこそとキッチンに行く。そしてお茶をいれて部屋に戻り、そっとドアを閉じた。俺のその様を見てくすくす笑うムギに一つため息をついて、お茶を差しだしながら俺は本題を切り出す。


「………変な夢って、どんな夢だったんだ」

「うちが、2人いたの。それでね、長ーい廊下をずーーっと2人で歩いてたの。お話しようとしてもできないけど、手をつないで歩いてたの。廊下の最後にドアがあってね、その前についた時、もう1人のうちがこっち向いて何か言ってたんだけどわからなかった。なんて言ったのって聞こうと思ったら、もう1人のうちに、ドアの向こう側に押しこまれて真っ白な部屋にうち1人だけとじこめられちゃって怖くなってたら、起きちゃったの」

「変な夢だな」

「でしょ?これは誰かに言わなきゃと思って走ってきちゃった」

 えへへと笑うムギにデコピンをかます。

「明日でもよかっただろ」

「てて…だーって、忘れちゃうじゃん」

 …はぁ。

「送っていく」

「ちぇー、お泊まり会になると思ったのに」

 俺はくちびるを尖らせてぶーぶーふざけるアホにもう一度デコピンをかまして窓を開けると、ムギはのそのそと外へ出た。俺も窓から外へ出る。

 部屋を出てもムギはまだ落ち着かない表情だったので、俺はムギの手を取って歩き出した。


「昔、会ったばっかりの時もこうして手を繋いでくれたよね、シノ」

「昔はべそかきだった癖に、泣くのが下手くそになってるのは、どこのアホだ?」

 うち?うち??と言わんばかりに目をキラキラさせながら自分の顔を指差すムギに、俺は頭を抱えて大きくため息をついた。


 ムギは孤児院に住んでる。

 親と似ても似つかなかったために捨てられたのか、変わった容姿の子どもが少なからず集まる孤児院。その中でもムギの容姿は変わっていた。左右で微かに異なるブラックチェリー色の瞳、小麦色より少し明るい肌。麦の穂の色のベリーショートの髪は風がふくとふわふわそよぐ。前の孤児院から移ってきたばかりのときは、その容姿の所為でいじめられ、いつも傷だらけでびーびー泣いていた。

 毎日のように孤児院長に泣くなと怒鳴られまくったせいか、ある日からじっと周りの人間を観察するようになり、やがてへらへらするようになったそうだ。孤児院でいじめられなくなって友人もできたから泣かなくなったって聞いたけれど、その当時妙に俺はムギの変化が気に入らなかった。

 ある日2人で学校から帰るときに、俺の前で演技はいらないと言うと、ムギはびっくりした顔をしたと思ったらくしゃっと顔をゆがませて泣かれた。その時のムギの顔は、彼女の本心だと安心していたのを思い出す。

 それからムギはいつも、なにかあった時は俺に話をしにくるのだ。寂しさからの行動だろうから、こうして話してきたときに俺は必ずムギの手を握ってやる。小さい頃誰かに教わったように。


 星を見ながら2人でしばらく夜道を歩いていると、ムギは突然俺の手を離して駆けだし、少し離れたところでくるっと俺に向き直ると、ニヤリとしたと思ったら、少し体をそらせてわざとらしく音を立てるようにすうーっと息を吸いはじめた。嫌な予感がする。

「優しいシノだーいすき!!!」

「しー!叫ぶな…!部屋で寝てないって気付かれる…!」

「知ーらなーいっ!にげろー!」

「…はぁ、まったく!」

 また走り出すバカに呆れながら、俺はつられて走り出し、二人で静かな夜の道を賑やかすのだった。


 つづく


フラワーは出てきませんでした。

次回は出るはず。

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