2話 司書室は忍者屋敷
「立ち話も疲れるでしょう?中にお入りなさいな。」
フラワーの言うがまま、部屋に入る。ポットの音はまだ遠い。
無論司書室など立ち入ったことがないため、きょろきょろと見回すと、図書館の内装と変わらぬ黒い木々を基調とした部屋にはシンプルな事務机と椅子がならぶ。壁には大きな絵が一枚かかっていた。
「ふふふ。いろいろ気になるかも知れないけれど、あんまり動き回らないようにね。」
囁くレベルの忠告は、俺の耳にはいってはいなかった。
不思議なことに、もう扉がないと言うのに、ポットの音は聞こえるばかりで、部屋にない。
「こちらにかけていてくださいな。今お茶を入れてきますから。」
促されるまま、俺は音のありかを探しつつ、腰掛けて待つ。するとフラワーはぱたんと床の収納スペースの蓋のようなものを開けて、下に降りた。…そこに部屋があったのか。と思いながら、忍者屋敷のような図書館の司書室に対して、好奇心のようなものがふつふつと湧いてきた。俺は椅子から降りて、壁に沿って歩いてみた。
入ってきたドアを右手に、壁を触って歩いていく。一枚の木の板の節の部分に穴が空いていて、指がはまって少し焦った。どうにかねじりながら指を抜く。まったく、なぜこんな穴が空いているのか理解できない。壁をつたいながらあるいてると、壁の一面の一箇所ずつ、必ず一枚、木の板の節の部分に穴が空いていた。
ひとまず席に戻ろうと歩き出すと、「かちっ」と音がした。
…なぜ、スイッチのような仕掛けが床にあるのか。そう思った次の瞬間俺は開いた床の下に落ちていっていた。ばばあの薄笑いが頭によぎる。
床に叩きつけられると思ったが、そうはならなかった。だんだん落下速度がゆっくりになり、誰かの手に背中が触れた。
「あらあら。歩きまわっちゃったのね、あなたも」
…あのばばあにキャッチされたからだ。地下の空間は広い。なぜか洋風の城の大広間のよう空間が広がっていた。
「どうなってるんだ、ここは」
いろいろ思うことがありすぎて、整理した結果、最初に聞くべき事を口に出す。
「ふふ、面白いでしょう?ここは。地下城って、私は呼んでいるのだけど。あの天井から落ちてきたのよ。あの部屋の特別な仕掛けでね。じゃあ、戻りましょうか。」
フラワーは、俺をゆっくりと降ろし、出口まで案内するといって歩き出した。無言で歩き続けるのも苦痛なので、興味本位でいろいろ聞くことにした。
「ミス・フラワー、ここはなんのためにあるんだ?」
「いつからある?」
「今のここの主人はお前なのか」
この3つの質問以外には、答えてくれた。
「司書室にある罠仕掛けはいくつあるんだ。」
「ふふ。ここはまさに忍者屋敷でね。数え切れないほど仕掛けやからくりがたくさんあるのよ。戻ったら歩き回らないようにしましょうね。」
「よく死なないな。こんな司書室にいて。」
「あら、どうもありがとう。」
「褒めてない、皮肉だ。」
「さあ、そろそろ出口よ。階段を上がってからは私が席まで案内するわ。」
こうして、地下旅行は終わった。「謎だらけで、広すぎる、司書室の地下」という不思議に、俺は好奇心に震えずにはいられなかった。
つづく