クマのプーちゃん
そんなある日、クマのプーちゃんが「何でも屋」にやって来ました。プーちゃんは、ニジノタニに住むクマの家族です。パパとママとプーちゃと、妹のプー子ちゃんの4人家族で、みんなとっても仲良しです。
プーちゃんは、お店に入ると、たくさんのことをチキ博士に聞き始めました。
「チキ博士、プーは妹のプー子に美味しいクッキーを作りたいんです。美味しいクッキーの作り方を教えてください。」
「それはだね……。」
「ところで、なんでこんなにたくさん研究しているの?何のために?」
「チキ博士は、勉強が好きなの?」
「この写真の女の人はだあれ?」
チキ博士は、プーちゃんがどんどんチキ博士のことについて聞いてくるので、動揺してしまいました。
(どうして、このクマさんは私のことばかり聞いてくるのだろう……。そんなこと答えたってこのクマには何の関係もないじゃないか。それに、今さらそんなことを考えることに何の意味があるって言うんだ……。目の前のことをこなすことに理由なんていらないだよ。)
チキ博士はそんなことを内心思いつつも、一応お客であるので、プーちゃんにこう答えました。
「クマさん、私についての質問なんかより、クッキーの作り方が知りたいんじゃないのかい?私にだって分からないことなのに、わざわざクマさんが知ろうとしなくていいんだよ。」
「クッキーについてももちろん知りたいけど、プーにはチキ博士が不思議なんだ。何でも知ってるけど、いつも忙しそうだし、何かに追いかけられているみたい。それに、誰もチキ博士の好きなお菓子について知らない。というか、知ろうともしない。あんなにチキ博士にはいろいろ教えてもらっているのにね。だから、プーは知りたくなったんだ。」
「しかし、私自身にも今さら聞かれたって分からないのだよ。だから、聞かれても困ってしまう。妻が生きているときは、一緒に美味しいクッキーを食べてお茶を飲みながら、最高に美味しいクッキーのレシピについて話すことが楽しかった。夜の星空を妻と眺め、宇宙の始まりについて2人で想像することも好きだった。妻は、私のどんな話も嬉しそうに聞いてくれたんだ。だけど、妻が亡くなってからは、どんなクッキーを食べても味を感じなくなってね。夜に星空を見たいとも思わなくなったよ。自分の心がまるで動かなくなったようで、鉛を背負っているように、重くどんよりしているんだ。」
「きっと、チキ博士は、奥さんが大好きだったんだね。」
「大好きか……。」
「うん、愛のことだよ!」
チキ博士には、もう「大好き」とか「愛する」ということが、とうの昔に忘れてしまい、どんなことか分からなくなってしまったようです。
もともと研究熱心のチキ博士ですから、プーちゃんの言う、「大好き」とか「愛する」の意味が知りたくなりました。