チキ博士
「忙しい。忙しい。今日はこの研究をしなければ締め切りに間に合わない!でも、この本も読まないと皆が私の見解を待っている……!」
今日もカエルのチキ博士は忙しそうです。ここ、ニジノタニに住むチキ博士は、世の中のことなら何でも知っています。すごくすごーく長い間生きていて、世界の様々な出来事見てきました。見た目はおじいさんですが、動きは俊敏で、たくさんの本を読んで日々研究しています。だから、ニジノタニに住んでいる人々は、困ったことや、知りたいことがあれば、チキ博士が営んでいる「何でも屋」に行きます。
ただし、「何でも屋」には、1つだけ約束があります。それは、チキ博士の心のことについては、どんなことも聞いてはいけないのです。
「チキ博士、今日は何を食べるんだい?」
「チキさんは、どうして研究しているの?」
「チキさんは、研究することが好きなのかい?」
何でも知っているチキ博士ですが、自分に関することを聞かれると、何も答えられません。頭に靄がかかったようになってぼーっとしてしまい、何も考えられなくなるのです。
昔は、そんなことなかったのですが、チキ博士の大切な奥さんが死んでしまってから、チキ博士は自分の心が分からなくなってしまいました。
お店の看板にも、それからは小さな字で「私の心のことについては聞くべからず。」と書き足しました。
チキ博士は、自分に分からないものは何もないという自負しています。だけど、時々、奥さんを思い出したり、看板の注意を見ないで自分について聞いてくるお客さんが来たりすると、どうしたらいいか分からなくなって逃げ出したくなってしまいます。