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妖精専属菓子職人  作者: おきょう
続編

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16


「ん……」


 目を覚ますと、体のあちこちが痛かった。


「冷たい」


 ごろりと寝返りを打って、自分が冷たい石床の上に寝ているのだと分かって眉を寄せる。

 ずいぶんと重い瞼をなんとか押し上げると、目に映ったのは薄暗い空間。

 どう考えても自分の部屋ではなくて、ソフィアはますます眉を寄せる。


(え……私、どうしたんだっけ。確かターニャ王女と一緒に馬車に乗って……それから……?)


 家に送ってもらうために同じ馬車に乗って、それからしばらくおしゃべりしていた気がする。

 記憶があるのはそれくらいで、以降まったく覚えていない。


(眠ってた? どうして?)


 話している相手が目の前にいるのに居眠りしてしまうなんて今までなかったことだ。


「う……グラグラする。なにこれ……絶対へん」

(削除)


 床に手を付けて体を起こすと、とても悪い酒に酔っみたいに、視界がぐるぐるまわった。

 酒を口にした記憶はまったくないのに。


 ソフィアは重い頭をがんばって動かし、自分の状況を思い出そうとする。


(ええと、確かフィリップ伯爵邸から帰るため、ターニャと侍女のメルシアさんと馬車に乗って……)


 送ってもらう馬車の中、メルシアがお菓子をすすめてくれたので、一ついただいた。

 パステルカラーで星型のとても可愛い砂糖菓子。


 舌の上でほろほろと砕け、溶けていく食感に幸せになった。


「あそこからの記憶が完全に途絶えてる?」


 おそらく、あの砂糖菓子を食べたとたんに意識を失ってしまったのだろう。


(でも、どうして?)  


 なぜか意識を失って、目がさめたら冷たい石床の上なんて、意味がわからない。

 戸惑いながらも、ソフィアはゆっくりと周りを見渡して、驚愕する。


「なに、これ」


 ――落とした声は震えていた。


 ソフィアがいたのは、端から端までが十歩分ほどの広さの部屋だ。

 床は感じていた通りやはり石床。

 そこから冷えた空気がのぼって来て、指先まできんと冷えている。  

 ずいぶん長い時間ここに転がされていたのかもしれない。

 

 壁も床と同じ石素材だったが、しかし一面だけが鉄格子に阻まれていた。


(牢屋に、入れられてるってこと?)


 自分の置かれている状況に、ぞっと背筋からふるえがのぼる。

 閉じ込められているのだと、初めて理解した。


(あ……違う。ここ……牢屋は牢屋でも……)


 鉄格子の向こう側に目を凝らして、思わず「ひっ」とひきつった息がもれた。


「拷問部屋……って…や、つ……?」


 ソフィアの視線の先。

 鉄格子の向こう側の廊下の壁には、有り得ない数の鞭や刃物がかけられていたのだ。


 よく馬に使っているのを知っている革製の鞭だけでなく。

 棘の付いた、見るからに相手を傷つけるために作られた鞭。

 太いチェーン状の鎖もあれば、他には包丁や鉈だけでなく、見たこと無い形状の刃物もたくさん。

 それらがまるでコレクションかのように、壁にきちんと並べかけられ、飾られている。


 よくよくみるとソフィアのいる部屋の隅には、四肢を拘束する鎖の付いたベッドとイスまである。

 壁から拘束具のついた鎖が伸びてもいた。


 自分の置かれた状況が明らかになるにつれ、ソフィアの心臓がドクドクと速鳴り、体の震えは大きくなっていく。


 石床で冷やされたのではない寒気が襲ってきて、指先の感覚さえおかしい。


 どうして自分がここにいるのか、これからどうなってしまうのか、意味が分からない。

 何も分からない。


(何、なに、なにここ、どこ? なに、なにこれ)


 わけが、分からない。

 それでも視界の先に広がる大量の拷問道具と、鉄格子のはめられた部屋に閉じ込められた自分という図が、もの凄く危険な状況なのだとはもちろん分かってしまう。

 

 怖さと混乱の中、何度思い返してみてもソフィアはルーカスの家からターニャと一緒に馬車にのって家に帰ろうとしていたことしか思い出せない。

 ほんとうに、全然何もわからない。



「っ!」


身じろぎした途端、生温かな何かに触れた。

びっくりして見下ろしたソフィアは、またビックリする。


「ターニャ王女!?」


 床に散っていたのは解けた鮮やかな赤い髪。 

 ぐったりとした様子で、ターニャはそこへ倒れていた。

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