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妖精専属菓子職人  作者: おきょう
続編

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13


 気まずい空気の中、先に視線をそらしたのはルーカスだった。


「悪い……あまり長い時間、広間を離れられないんだ」

「主役ですもんね。私は大丈夫ですから、戻ってください」

「ソフィアも一緒に戻ろう」

「嫌です。私はもう少し、お庭を散歩していたいです」

「……」


 客人をこれ以上放ってはおけないのだろう。

 こちらを気にしながらも、ルーカスは広間へ戻っていった。

 

(ルーカス様が全部悪いわけじゃないのに。冷たくしすぎたかも)


 去っていく背中がとてもしょんぼりしているように見えて、少し罪悪感がわいてくる。

 それでもソフィアはとてもあそこに戻る気にはなれない。

 伯爵になったのが『ソフィアの為に』なんていう、訳のわからない理由なのも釈然としない。


 それで結局、彼に言った通りにあてもなく庭をぶらぶらすることにした。

 

 

(お庭、ずいぶん変わったわ。居心地がいい)


 あまりゆっくりとここを歩く事はなかったけれど、よく見てみると変化がわかった。


 以前のフィリップ伯爵家の庭は、ただ綺麗に整えられているだけといった感じだったのだ。

 貴族らしい厳格な雰囲気のある造りだったように思う。


 でも今は花壇の黄色い花が星型になるように植えられていたり。

 薔薇のアーチを並べた薔薇のトンネルができていたり。

 樹木が動物を模していたり。

 色々と、見る人を楽しませる趣向が凝らされている。


 フイリップ家の主人がルーカスへと変わり、使用人も一新され、庭だけでなく屋敷全体の雰囲気が確実に少しずつだが柔らかく温かなものになっていっている。

 きっと彼は大人になるにつれ、もっともっといい当主になるのだろうと、確信できる空気が流れているのだ。


 それがとても誇らしく思う。


 なのに彼が立派になるにつれ、ただの町娘のソフィアから距離があいていくみたいで、寂しさも感じてしまうのだ。

 さっきの口喧嘩も、そういう少し開いた歪が生み出したものなのだろう。


「あー! しょふぃあ、いたー!」


 しばらく感傷的な気分で散歩していたところで、後ろからターニャが 突進してきた。


「ターニャ王女……」


 腰に抱きつきながら見上げてくる丸い瞳の無邪気さに、なぜかほっと肩から力が抜けたような気がした。 


「さがしたのよー? もうおわりだから!」

「終わり?」


 まだ夕方なのにと首をかしげたソフィアに、控えていたターニャの侍女であるメルシアが説明してくれた。


「ソフィア様、パーティーはまだこれから盛り上がる頃ですが、ターニャ様はそろそろおいとまさせていただきたく思いまして。ご挨拶をしたくて探していたのです」

「そうなんですか」


 そういえば、最初から二・三時間ほど顔を出すだけだと聞いていた。

 年齢的にも遅くまで起きているのは難しいのだろう。

 なにより夜分の外出は危険性が高まる。


「ターニャ王女が帰っちゃうなら……私も、もう帰ろうかな……」


 屋敷の使用人にだけ伝えて、今日はもう帰ってしまおうかと、ふと思ってしまった。


(ドレス……こんなに素敵なの貰ったのに中途半端で申し訳ないけど)

 

 今日の為に用意してもらったドレスを生かせなかった。

 でも今は、あの場に戻る勇気がでない。

 帰宅したいというソフィアの呟きに、メルシアが提案をしてくれる。


「あの。もし宜しければ、馬車でご一緒いたしませんか。お送りいたしましょう」

「え? いいんですか?」

「ターニャ様もお慶びになられますわ」


 王族の馬車に家まで送られるのは近所から目立ってしまうだろう。

 どうしようかと悩んでいたが、そこでするりとソフィアの手に絡みついてくる、小さな手があった。


「いっしょ、かえりましょ?」

「ターニャ王女……」

 

 握ってくれる小さな手から、温もりがじんわりと沁みいってくる。

 丸い青い瞳には、こちらの様子を伺うような色があった。

 こんなに幼い子に心配されるくらい、ひどい顔をしているのだろうか。


 優しい気づかいに鼻の奥がツンと痛むのを感じつつ、ソフィアは口の端をあげて頷いたのだった。


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