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妖精専属菓子職人  作者: おきょう
続編

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おかげさまでビーズログ文庫からの書籍化版が発売しました。

全力でルーカスを可愛く仕立て直しました。

よろしくお願いいたします!!




「広間があるのは知っていましたが、ここに入るのは初めてです」

「そうだったか?」

「私がお邪魔する時に過ごすのって、ルーカス様の私室がほとんどですからね」


 伯爵位を得たルーカスの披露の場として開かれたパーティーは、フィリップ伯爵家の一番大きな広間で行われる。


 当日になり、案内されて入った一階の中庭に面したそこはとても広かった。

 百人ほどの招待客がもういるが、窮屈さは感じない。

 ちなみにルーカスがまだ十歳ということで、夜会ではなく昼間のパーティーだ。



 ソフィアは小さく「ごほん」と咳払いしてから、姿勢をただした。

 そして広間で迎えてくれたルーカスに、スカートを摘まみあげて淑女っぽく丁寧な礼をしてみせる。


「ごきげんよう、ルーカス様。ご招待ありがとうございます。そして改めまして、伯爵位授与おめでとうございます」


 家で基本的なマナーは教育されているので、ソフィアがこういう場で戸惑うことは特になかった。

 

(でもルーカス様を相手に「ごきげんよう」なんて改まった挨拶をするのは、少し気恥ずかしいわ)


「あぁ、有り難う」

 

 ソフィアの挨拶に、ルーカスはいつものちょっと生意気そうな表情を緩めて、口元をはにかませる。

 淡く柔らかな金髪と透き通った青い瞳の、天使のような容姿の男の子な彼に、子供っぽさの増した可愛い笑顔が合わさるとなれば、もうかなりの破壊力だ。

 なんていうか、キラキラ眩しい。

 目にした招待客である周囲の女性たちからは、揃って熱のこもったため息が漏れた。 


 しかも今日の彼はいつもの落ち着いた色の服装とは違い、明るい白のジャケット姿。

 似合い過ぎる色合いだ。

 柔らかな風合いの生地なので、本当に天使みたいだった。

 

(ルーカス様って髪も瞳も淡くて明るい色だから、白とかピンクがすごく似合うのよね。可愛くていいのに、あまり着てくれないのが残念すぎる)



「ソフィア、いらっしゃい」


 そこでソフィアは、目の前を横切ったものからかけられた声に顔を上げる。


「あ、リリー」


 銀の髪をなびかせ周りを軽やかにくるりと一周飛んだのは、上級妖精のリリーだ。

 他の人たちに変に思われないように、こっそりと話しかけた。


「今日はリリーもドレスアップしているのね。とっても素敵だわ」

「ふふっ。ソフィアもメイクもヘアアレンジもとっても素敵に仕上がってるわ。ドレスとも合ってるわね。綺麗よ」

「リリーにそう言ってもらえると自信が出るわ」


 身に着けるもの一式はルーカスに贈ってもらったものの、髪型や化粧は自分でどうにかしなければならない。

 ハウスメイドのオーリーと四苦八苦して何日も考え、仕上げた結果を褒めて貰えてうれしくて笑いが漏れた。


 リリーのドレスは、アシンメトリーなスカート裾になっている。

 短い部分は膝よりも上で、いつもより足の露出が多い。

 プロポーションばっちりでクールビューティーな見た目の彼女だからこそ似合うデザインだ。

 それに普段からスリット入りのドレスだったりするあたり、すらりとした足に特に自信をもっているのかもしれない。

 特にここ! という自分の魅せポイントのないソフィアにとっては、羨ましいかぎりだ。


 ソフィアは光沢のある、おそらくかなりの上質なシルクで作られたリリーのドレスを見ながら、ふと思ってしまった。


「ねえ。それって、もちろんルーカス様が注文するのよね?」

「これはそうね。ルーカスが馴染みの服飾品専門の商会所属の針子にサイズを伝えて作らせたわ」

「やっぱり、そうよね……」


 お人形サイズのオーダーメイドドレスを注文する、十歳の美少年伯爵。

 

(注文を受けた針子は一体どういう印象を受けたのかしら。あ、でもまだお人形遊びが好きでも微笑ましく思ってもらえる年齢かも)


 他の服もそうなのかと尋ねると、ほんの数着だけらしい。

 いつも着ているものはリリーが上級妖精になった時にはすでに身に纏っていたからよく分からないとの事。それが軽くて楽だから、基本的に着替える事はないのだそうだ。


(うちにいる妖精達も服装が変わってることないなぁ。ん……? え、服の洗濯……お風呂とかどうして……んん? そういえばトイレも催している所を見たことがないような)


 考え込むと深みにはまりそうだ。

 妖精のリリーでさえ分からないというものが、人間のソフィアが考えて解決するはずが無い。

 彼らはそういう生き物なのだと思うしかないと、頭を切り替えることにしよう。


「ソフィア」


 ルーカスに呼ばれてそちらを向くと、彼は何やら赤い顔をしていた。

 

「どうしました?」

「そ、その、だな」


 彼の少し緊張した雰囲気をソフィアは察した。


(あぁ、大勢の人の前に出るのになれてないし、きっと不安になってるのね)


 友人として親しいソフィアは、彼の緊張緩和の意味でここに呼ばれている。

 だからここは役目を全うするためにも彼の不安を和らげてあげなければと、少し腰を落として、顔を近づけて耳を傾けた。


「ルーカス様?」


 落ち着いて貰う為にそうやったのに。

 何故か彼は、戸惑ったみたいに一歩引いてしまった。

 どうしたのだとさらに顔を近づけて覗き込むと、何故か視線を右往左往させながら、しどろもどろでルーカスは話し出した。


「その、そのだな。先にリリーが言ってしまったが」

「はい? 何をでしょう」

「だから、さっきの……ぼ、ぼくもそのソフィアのドレス姿、き、き、きれ……」

「あー!! しょふぃあー!!」


 なんだかもじもじしているルーカスの声を遮って響いたのは、もうずいぶん仲良くなった王女様の声だ。

 振り返るとちょうどこちらに駆けてくるところだった。

 すぐ後ろにいるのはマークスと肩に乗ったジンで、さらに後ろから追うのはいつもターニャに付いている侍女だ。


「ターニャ王女。マークス様、ごきげんよう。ジンも」

「ごきげんよー!」


 走ってきた勢いのまま、ぽふっとソフィアのお腹に顔から突っ込んできたターニャの両手を取る。

 小さくて柔らかなそれを握ったまま、ゆらゆら揺らして手遊びしつつ、ソフィアは後から来たマークス達に軽く頭を下げた。

 ターニャとじゃれていて正式な挨拶が出来ない体勢なので、あとで改めてきちんと挨拶させて貰うことにしよう。

 マークスの方もそれは分かっているらしく、気分を害することなく頷いてくれた。


「――あ! ルーカス様、ごめんなさい。さっき何を言いかけてらっしゃいました?」


 そこでソフィアは、やっとルーカスがさっきもじもじしながら何か言いかけていたことを思い出した。

 慌てて振り返ったが、ルーカスはぷいっと顔を反らしてしまう。


「っ、何でもない!」

「うん? 何だか急に不機嫌になりましたね?」

「なってない!」

「て言うかそのぷいってそっぽ向く拗ね方、めちゃくちゃ可愛いですね」

「っ、あぁぁ……ソフィアのそういうところ、本当にいやだ」

「別に察しが悪いわけじゃないのに、たまにずれるのよねぇ」


 顔を見合わせて同時に肩をすくめるリリーとルーカスに、結局何が言いたかったのだろうとソフィアは首をかしげるのだった。


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