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妖精専属菓子職人  作者: おきょう
閑話

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妖精との後日譚14



(そういえばあっちは昼間だったのにこっちは夜って、一体どうなってるのかしら)


 不思議すぎるけれど、あまり深く考えてもどうにもならなそうなのだ。

 とりあえずは「そういうもの」として納得しておくことにした。

 ここがどこなのかさえ分からないし、考えるだけ無駄だろう。

 説明を求めても、おとぼけな妖精達がまともな答えを返してくれる気もしない。


「ね、私を家に帰してほしいの。キー達が連れて来たのだから帰せるのでしょう? 終わったら帰すって言ってたし」

「もうちょっといいのでは?」

「えぇ?」

 

 どうやらこの場所は、妖精達にとってとても居心地のいい場所らしい。

 キーとシロは、帰るのに不満そうだった。


「でも……お菓子、いるんでしょ? ここだと作れないわよ」

「っ! かえります!」

「おかし! つくれ!」

 

 どうやらお菓子の方が魅力が上だったらしい。

 

「すぐに! すぐにかえりましょう!!」


 そう、ひときわ大きな声をキーがあげた瞬間。


「まぶしっ!!」


 ここへ来た時と同じ、目を開けていられないほど強い光が瞬いた。

 ぎゅっと目をつむって耐え、まぶたの裏が暗くなるまで待ってから再び開くと、もう自分の部屋だった。

 あっちへ飛ばされる前に立っていた場所だ。


「はぁ良かった。無事に帰れたみたいね」

「僕までこっちに来てるのは何でだ?」

「あれ、ルーカス様だ」


 どうやらルーカスも一緒にソフィアの家に帰ってきたらしい。

 すぐ隣に眉をぎゅっと寄せた複雑そうな顔をしたルーカスが立っていた。

 その時、部屋をノックする音が聞こえた。


「ソフィアお嬢様、お帰りになられたのですか?」

「う、うん。どうぞ?」


 オーリーの台詞からして、ソフィアがしばらく家にいなかった事はばれているようだ。


(でも出ていたのなんて一時間くらいだし、問題ないわよね。うん、怒られるはずがない)


 扉を開いたオーリーは、ルーカスを見て目を丸くする。


「まぁ! ルーカス様、いらっしゃっておりましたのね。お出迎えもできておらず申し訳ございません」

「いえ、大丈夫です。お邪魔してます」


 ルーカスがぱっと可愛い笑顔をつくって頭を下げた。

 ソフィアの家の人に対して、ルーカスは少し遠慮がち……というか、少しかしこまった態度になる。

 猫をかぶっていた時ほどぶりっこではないけれど、可愛く行儀の良い男の子ふうだ。

 そのルーカスは、とても受けがいい。

 心証をよくしておきたい相手に丁寧に接するのは当然だろうと言うが、ソフィアにもそうして欲しいものだ。

 オーリーの後ろからは、姉のアンナも顔をだした。

 

「ソフィアったらもう! 三日も外泊するなんて。突然お城から連絡が来てびっくりしたじゃないの」

「は? 外泊? 三日?」


 姉は何を言っているのだろう。

 意味が分からなくて、首を傾げるソフィアに、ルーカスが耳打ちをしてきた。


「妖精の宴が行われる世界とは時間軸が違うと本で読んだことがある。おそらくこちらでは三日たっているんだろう」

「はぁ!?」

「ソフィアったら、突然大きな声をだしてどうしたの?」

「う、ううん? えっと、ご、ごめんなさい。ただいま」


 とりあえずその場は取り繕っておいて、姉とオーリーが部屋を出たあと。

 ソフィアはルーカスに詰め寄った。


「どういうことですか、三日って!!」

「だから、時間の流れが違うのだと言っているだろう。僕だって驚いてるんだ、実際に自分の身で書物に書いてあったことを体験するなんて思わなかったからな」

「……ルーカス様。その本、今度貸してください」

「分かった。妖精に関する他の本もいくつか貸そうか」

「お願いします」


 ふっと、ルーカスの口元が笑みをこぼした。青い瞳がより優しい色を浮かべる。


「妖精について勉強したいのか」

「い、いいじゃないですか別に」


 ただその辺に浮いている、煩い生き物の勉強をするつもりなんて今までなかったけれど、彼らがどういう生き物なのかを知りたくなったのだ。

 もっと関わりたくなった。

 そういう気分になったのだから、仕方がない。


「でも、どうして私が王城に泊まったことになってるんでしょうか」

「僕があちらに飛ばされた時、リリーが一緒だったからな。数日はいなくなることを察したリリーが、マークス様に知らせて手を打ってくれたのだろう」

「なるほど……またマークス様にお世話になってしまいましたね」

「そーふぃあーさーん! おかし! おかしつくってください!」

「はらへったぞ!」

「あー、はいはい。仕方ないわね」


 ルーカスとの会話に割って入ってきた妖精達に、少しめんどくさそうに口では言いながらも、ソフィアはやる気満々で袖をまくり上げた。

 ルーカスと妖精には自室で少しだけ待って貰うようにお願いして、オーリーにお茶を運ぶように頼んだあと、キッチンに向かう。

 その足取りはいつもより早く、気分はそわそわとしていた。

 お菓子を作るのが楽しみだなんて感情は、数日ぶりに味わうものだ。


「あまり待たせられないし、すぐに出来るのはホットケーキくらい? あ、クレープもいけるかしら」


 薄いクレープ生地だけを何枚か焼いて、あとはバターやシナモン、ジャムに蜂蜜、あとは家にあるフルーツを細かく切って、自分で好きなものを乗せて包んで食べるのはどうだろう。

 生クリームやカスタードクリームを作る時間は今回はないので少し残念だが、きっと楽しんでくれるはず。


「妖精用にはティースプーンですくったくらいの小さい生地で……そしたら一度に十枚くらいは焼けそうだし、うん。クレープで決定ね」


 ルーカスと妖精達、みんなの美味しいと喜ぶ顔が見たくて仕方がない。

 キッチンに着いたソフィアは、お気に入りのエプロンを着ると、張り切ってクレープ作りの準備を始めるのだった。

 



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