ゲームキャラクターが話しかけてきた!
「だから! 部屋の中に謎を解くヒントがあるんだ!」
「いいんだって! どうせ4桁の数字打つだけだろ。総当たりでそのうち当たるって!」
ある日の休日。
部屋に響き渡る二つの声。俺は友達とゲーム攻略に勤しんでいた。
「こういうのはそれっぽい適当な数字いれときゃ、いけるもんだろ! わざわざ散策するより、こっちの方が早い!」
「そう言って、さっきから全然当たってないじゃないか! きちんとヒントを見つけて、正解を出した方が早いよ!」
現在のステージはダンジョンの奥。
これより先に進むには、4桁の暗証番号を扉に入力しないといけない。
なんでこんな自然の洞窟なのに、急にハイテクな機械の扉があるんだろうな? そっちの謎を先に解きたい。
「ああ、ダメだわ、全然開かんな。もう壊そうぜ、こんな扉。さっきレベルアップして覚えた技があったろ」
「無茶言うな! 出来るわけないだろ!」
俺は今友達とゲームをしているから、声は俺とそいつの二つ聞こえる。しかし、部屋には俺以外の人の姿はない。
声はするけど姿は見えず。
じゃあ、その友達とは誰なのか。ネット上で会話をしてる? 違う。俺の妄想? それも違う。
俺と一緒にゲームをしてる友達。それは……、
「いいから早く、僕を動かしてヒントを探すんだ!」
今画面上にいる、このゲームの主人公だ。
ーーーーーー
こいつが話し出したのは、今から一週間ぐらい前のことだ。
俺は小さい頃からゲームが大好きだった。
そんな俺がこの『クリスタル・ソウル・クエスト 〜剣と魔法と最期のクエスト〜』というRPGのゲームをやっているときのこと。
突然俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「遊太君……聞こえるかい、遊太君……」
部屋には俺一人。家族も今は出かけているから、部屋どころか家には俺以外他に誰もいない。
そんな中で声が聞こえても、それは気のせいだと思ってしまう。
「遊太君……聞こえるかい……。聞こえたら今すぐこの操作をやめて、僕の話を聞いてくれ……」
まさかゲームの主人公が話しかけてきてるなんて思わないだろ?
だから、俺は気のせいだと思って、操作を続けた。
「遊太君? 聞こえてるだろ? あの……痛っ……ちょ、聞こえてるなら今すぐこの操作を……痛っ…………今すぐこの無意味に壁にぶつかり続ける操作をやめろって言ってるんだーっ!!」
「うおっ! え、あ、はい」
それは俺がネットで見つけたバグ技を試そうと壁にぶつかり続けているときのことだった。
その後、彼の言動やシステムの音量のキャラボイス項目を小さくしたら彼の声が小さくなることから、彼がこのゲームの主人公であることが確認された。
どういうわけかゲームのキャラクターに意思が宿り、自由に喋っているのだ。
とても驚いた。まさかゲームのキャラクターが話しかけてくるなんて夢にも思わなかった。というか、今でも夢だと思っている。
ただ、その夢のような出来事から一瞬で現実に引き戻されたのは自己紹介のときだった。
「僕は勇者っぽい一般人だ。よろしくな!」
「………………」
この『クリスタル・ソウル・クエスト』(公式での略称はCSQ)は自由に主人公の名前を決められるゲームだ。
そして『勇者◯◯』といった感じに名前の前に称号がつくのだ。称号はデフォルトは勇者だが、戦士や遊び人など他のも選べる。
そんな前情報を知っていたからな。そりゃあふざけて名前を『っぽい一般人』にして、『勇者っぽい一般人』にして遊ぶよな。みんなもするだろ? しない?
とにかく、彼の名前は『っぽい一般人』なのだ。ゲームでふざけた名前をつけて、これほど後悔したのは後にも先にもこれが初めてだった。
そんなわけで俺と『っぽい一般人』のゲーム攻略が始まった。
ゲームのキャラクターと一緒にゲーム攻略をする。ゲーム攻略において、これほど心強い味方はいないだろう。と、思ってた時期が俺にもありました。
この主人公、ゲームのストーリーも謎解きの答えも敵の弱点も何も知らなかった。そのくせ、俺のプレイスタイルにあれこれと口出ししてくるのだ。
戦闘中では。
「防御だ、遊太君! 攻撃ばっかりじゃ勝てないぞ! 補助魔法だ!」
「いいんだよ、これで! 補助魔法とかめんどくさい! ゴリ押しでいけるっ!」
ダンジョンの分かれ道では。
「遊太君、どうやらこっちの道で正しいようだがいいのかい? もう一方には宝箱があるかもしれないし、ダンジョンのマップも埋まらないよ?」
「合ってるならいいじゃん。今さら戻るのもめんどいし、このまま進もうぜ」
ゲームを始めるときでさえ。
「遅いぞ、遊太君! 5時からする約束だったじゃないか! まさか、僕を差し置いて他のゲームで遊んでたんじゃないだろうな!」
「いや、そこは俺の自由だろ! なんか彼女みたいなこと言いだしたぞ、こいつ!」
と、まあ、こんな感じですることなすことに口を出してきて、よく言い合いになるのだ。
とはいえ、多少はあっちの自由に動けるが、『っぽい一般人』の最終的な操作権を持つのは俺だ。だから、結局は俺の指示通りになる。
今だってそうだ。
ダンジョンの謎解きは部屋を探さずに適当に数字を打っている。
そして、扉が開く。
「ハッ! どうだ! 見たか! わざわざ探索しなくても先に進めるんだよ!」
「たしかに開いたが……開くまでに何回も間違ってたじゃないか!」
「間違えたからってなんかあるわけじゃないし、別にいいだろ。さあ、先に行こう」
「まったく……。ところで、正解は何だったんだ? 遊太君が適当に打つから、どれが正解だったか分からなかったんだが」
「え? 俺も知らんよ? 適当だったし」
「ええっ!?」
「まあ、もう終わったことだ。別にいいだろ」
「うーん、そうかもしれないが……」
俺の操作でダンジョンの先に進む『っぽい一般人』。
途中のザコ敵をかわし、いよいよこのダンジョンのボスの前までやってきた。
「よっしゃあ、ボス戦だ! いくぜ、ぽい般人
!」
「ちょっと、待った! 僕の名前を略さないでくれないか!」
ダンジョンのボス『センプウライオン』との戦いだ。
1ターン目。
【センプウライオンの攻撃。っぽい一般人に64のダメージ】
【っぽい一般人の攻撃。センプウライオンに12のダメージ】
2ターン目。
【センプウライオンの攻撃。クリティカルヒット。っぽい一般人に330のダメージ。っぽい一般人は倒れた】
【GAME OVER】
ーーーーーー
ゲームオーバーになったら、タイトル画面に戻る。前回セーブしたところからやり直しだ。
セーブは町でしかできないから、町からボス戦までの行動はなかったことになるな。
「な? 結局、なかったことになるんだ。さっきの分かれ道で宝箱を取らなくて正解だったろ?」
「そんな負けること前提で挑むやつがあるか!」
町から開始していきなり言い合いになった。
てか、こいつセーブされてないときの記憶あるのか。
「だから、きちんとレベル上げをしようと言っただろ!」
「だってめんどうじゃん? あいつに勝てるぐらいレベル上げるのに、どれだけあげればいいと思ってんだ」
この『クリスタル・ソウル・クエスト』(ネット上での略称はクソクエ)は敵の強さバランスがおかしいゲームだ。
まずはボスが異様に強い。現在の『っぽい一般人』の強さはこの辺のザコならなんなく倒せる強さだ。
それがボス戦ではあの有り様。ボスの強さはその辺のザコの比にならないぐらい強い。それはもうとても。
さらに、敵を倒した際の経験値が少ない。1レベ上げるのに相当な数の敵を倒さないといけない。まだ序盤だと言うのに。パッケージに描かれている仲間がまだ一人も出てきていないぐらいの序盤だと言うのに!
そんな理由でボスが倒せず、俺らは行き詰まっていた。
俺が何かいい方法(地道なレベル上げ以外で)がないかと考えていると、『っぽい一般人』が話しかけてきた。
「遊太君、サブクエストをやろう」
「サブクエ?」
「そうだ。サブクエストだ。遊太君、このゲームを始めてから、今までひとつもやっていないだろう」
「だってめんどうじゃん。どうせメインの話に関係ないし、それにサブクエってなんか似たようなの多いじゃん。お使い系とか、◯◯を倒してとか」
「そんなことはないぞ、遊太君。サブクエストをやることでみんなの生活がみえたり、クリアすればアイテムも貰える。なによりそこに困っている人がいるのだ。放ってはおけない」
「うーん……」
サブクエねぇ……。あんまり気乗りしねぇなあ……。
そう思いながら攻略サイトを見ると……おっ、どうやらこの町のサブクエをクリアすると、強い装備が手に入るっぽいな。
これはやるしかない。
「…………そうだな。お前の言う通りだな。サブクエしますか」
「そうか! そうと決まればすぐに行くぞ!」
『っぽい一般人』は嬉しそうに歩を進めた。まあ、進めてるのは俺だけど。
「えーっと、町の……あ、あそこだな。あの村人だ」
「どうしてその村人ピンポイントなんだい? 一人一人に話を聞いていこうじゃないか」
「まあまあ、いいじゃないか。あの人のところに行こう!」
俺は誤魔化すように『っぽい一般人』を操作する。こいつ攻略サイト好きじゃないからな。俺が見たと知ればまためんどうになる。
他の村人には目もくれず、目的の村人の元へ一直線で進む。
【村人B「ああ、困った。困った。困ったなー」】
村人に名前をつけてあげてほしい。せめて特徴とかでいいからさ。
【「僕は勇者っぽい一般人。いったいどうしたんだい?」】
『っぽい一般人』が話を聞き、サブクエを受ける。
村人Bの話をまとめると、町の外にある畑に魔物が住み着いているから倒してほしいとのことだった。
町から一歩でも外に出ると容赦なく魔物とエンカウントする世界で、畑が町の外にあるのか……。利便性が悪すぎない?
ともかく、俺らはサブクエを開始した。まずは畑に向かわないとな。
町の外に出ると敵とエンカウントした。
「敵か! 気をつけろよ! 遊太君!」
「まあ、今のレベルならよゆーだろ。攻撃連打一択」
【レイゾウタヌキとコタツウマが現れた】
このゲーム、敵のモンスターが家電と動物を混ぜたような特徴をしている。
冷蔵庫と狸、こたつと馬。さっき俺らが負けた『センプウライオン』は扇風機とライオンだ。たてがみが扇風機。
まあ、今さらこんなザコ敵にやられるようなレベルではない。なんなく倒して畑に向かう。
たしか村人Bから聞いた話だと……この『魔獣の森』を抜けた先に例の畑はあるらしい。……ほんとに利便性悪すぎない?
「ストップだ、遊太君」
「ん、あれ? どうした?」
『魔獣の森』に入る手前で『っぽい一般人』は立ち止まった。左スティックを上に倒しているのに先に進まない。
「どした? なんかあるの?」
「うん。見てくれ、遊太君。……雑草だ」
「雑草!?」
「雑草が生い茂っている。これ以上は進めそうにない」
「いや、行けよ! 行けるだろ!」
「無理だ。これまでの雑草とはわけが違う」
「いや、なにカッコいい感じに言ってんの!? 腰までの高さじゃん! 避けていけよ! 跳び越えていけよ!」
「たしか町の道具屋に除草剤が売っていたな。アレを買いに戻ろう」
「お前剣持ってんじゃん! それで切れよ!」
まあ、ここで何を言っても多分無理だろう。
こういう一見通れそうで通れないオブジェクトはゲームでありがちだからな。諦めよう。
「まったく……めんどうだな。じゃあ、町にルーラするか」
「待て、それは違うゲームの呪文だろう。きちんとこのゲームの名前で呼べ」
いやあ……だって、このゲームさ……呪文の名称が面倒くさいんだよ。
町に移動する呪文は『地点指定移動魔法』。他の呪文は『単体型冷却攻撃魔法』や『単体型睡眠付与魔法』などなど……。
なんで漢字なんだよ! なんで漢字にカタカナルビなんだよ! それにどっちも長いし!
言いづらいことこの上ない。普通にテレポートとかじゃいけなかったのか。移動魔法はネットでは略して『ポション』と呼ばれてる。
とりあえず、除草剤を買いに町にポションしますか……。
町に着き、道具屋で除草剤を買う。そして、再び『魔獣の森』前の雑草へ。
雑草に除草剤を使うと雑草は枯れていき、道が通れるようになった。一瞬で効果が出たな。こんなもん完全に危険物だろ。
「よし。これで通れるようになった。行くぞ、遊太君」
…………このイベント必要?
別に何のイベントもなく、普通に除草剤を買って、何事もなく雑草を除去して終わったんだけど……。本当にこの除草剤を買いに戻らされただけなんだけど……。このイベント必要?
森に入るとBGMが変わった。森っぽいしっとりとした感じのやつだ。
この森には初めて入る。メインストーリーじゃ来る必要がないからな。
少し歩いていると魔物とエンカウントした。
エリアが変わると出てくるモンスターも変わる。初めてくるエリアのモンスターは当然初めて見るモンスターだ。
【レイゾウアライグマとコタツシマウマが現れた】
なんか見たことあるモンスターだった。
「見たことない敵だな……。油断するなよ、遊太君!」
「いや……色が違うだけで、すごい見たことある敵なんですけど……」
てか、アライグマに至ってはタヌキもあんな色じゃなかったっけ? どうだっけ? 誰か覚えてない?
「まあ、いいか! いけ、ぽい般人! パンチだ! キックだ! 回避だ!」
「ターン制RPG!」
ゲームキャラにそんなメタな怒られ方されるなんて想像もしてなかった。
多少苦戦したものの、『っぽい一般人』は魔物の群れを倒した。
さて……ちゃっちゃと進むか。ただでさえ森は迷いやすい。ここは攻略サイトを見よう。さっきの雑草みたいに無駄なイベントもあるかもしれんしな。
攻略サイトを見ると、あとはどうやらイベント系はなく、迷路のような森を抜けるだけでいいらしい。
「よし。こっちの道だな」
「分かった、こっちだな」
「で……こっちっと……」
「ふむ……分かったぞ」
「んで……あ、こっちじゃねぇや。反対反対」
「目の前に宝箱があるが。遊太君、いいのか?」
「ん? ああ、いいのいいの。アレは『ミミック』らしいし」
…………なんで『ミミック』は『ミミック』なんだ? 家電×動物縛りはどうした。
攻略サイトの通りに行き、迷うことなく森を抜けて、村人Bの畑に到着した。あとはここのボスを倒せば、サブクエはクリアだ。報酬として強い武器が手に入る。
この『クソクエ』はクリティカルの倍率が高いゲームだ。クリティカルで5倍、大クリティカルで10倍ものダメージになる。
このサブクエをクリアして手に入る武器は、命中率が下がる代わりにクリティカル率が上がるというものだ。
結局、運任せでクリティカルで攻撃するのが一番強い。『クリスタル・ソウル』ではなく『クリティカル・ソウル』。どちらにしろクソ。そう攻略サイトに書いてあった。
「よっしゃあ! さくっと倒すぞ!」
「………………」
このサブクエのボスは『コタツキリン』。ウマの色が違うだけ。せめて首くらい伸ばしてほしい。
1ターン目。
【っぽい一般人の攻撃。コタツキリンに59のダメージ】
【コタツキリンの攻撃。っぽい一般人に53のダメージ】
2ターン目。
【コタツキリンは丸くなった】
【っぽい一般人の攻撃。コタツキリンに14のダメージ】
防御技か、めんどくせえ……。
…………なんか妙に静かだな。『っぽい一般人』が喋ってない気がする。
「おい、ぽい般人! おーい!」
「………………」
呼びかけても返事がない。なぜだ?
理由はよく分からないが、まあ、いいか。攻撃を続けよう。攻撃攻撃。……全然ダメージ通らんな。
「…………なあ……遊太君」
俺が攻撃ばっかりを選択していると、急に話しかけられた。
「ん? どした?」
「……君、攻略サイト見てるだろ」
…………あ、ヤベ、バレた。
「いやー、ほら、だってこれサブクエじゃん? サブクエはちゃちゃっと終わらせたいじゃん」
「……そうか」
…………あれ?
どうした? なんかこいつの元気がないぞ?
いつもなら「自分の力でやれ」と言ってきて、俺と口論になるのに。それが文句の一つもないとは珍しい。なんか調子狂うな。
俺が不思議に思っていると、『っぽい一般人』は言葉を続けた。
「君は僕とゲームをやっていて楽しいか?」
な……急に何を言いだすんだ、こいつは……。
「ずっと君と一緒にゲームをやっていて分かった。僕と君のゲームのプレイスタイルは違う。全てを周りたい僕と違って、君のプレイスタイルは……すごく効率的だ」
今言葉選んだだろ。俺を貶してるようにならないような言葉を選んだだろ。
「町の住人には全て話しかける。宝箱を全て開ける。マップをくまなく探索して、モンスターを倒し、アイテムも全て手に入れる。僕はそんな僕のプレイスタイルを楽しいと思い、君に押し付けていた」
ちなみに話している間はコタツキリンは攻撃してこない。ターン制RPGだからな。行動を決定しない限り動かない。こういうとき便利。
「でも、君は僕がどれだけ言っても、自分のプレイスタイルを変えなかった。そうだよな、ゲームの楽しみ方は人それぞれだ。僕がしていたのは……余計なお世話だった」
いつになく低いテンションで話す『っぽい一般人』。戦闘中はこいつの背中しか見えないんだが……その背中だけでも彼が沈んでいるのが分かる。
俺がこいつとゲームしているときに楽しくなかったかだと?
「そんなわけないだろ!」
「…………っ!」
たしかに俺とこいつのゲームプレイスタイルは違う。でも……、
「俺はお前とゲームして楽しかったよ!」
「遊太君……!」
俺も小さい頃はこいつみたいにゲームを楽しんでいた。
町に着いたら住人と話し、ダンジョンに入ったら宝箱を探し、地道なレベル上げも苦にならない。
『っぽい一般人』とゲームをしていると、そんな子どもの頃を思い出す。
いったいいつからだろうな……。俺がそういう要素をめんどくさいと感じるようになったのは。
「たしかにお前はいちいち人の行動に文句を言ってくる。何かするたびにあーしろだ、こーしろだと、それはもうめんどくせえ」
「遊太君……」
「でも! ……お前が俺にこのゲームを楽しんでもらいたいってのは伝わってきた。お前は隅々までゲームを楽しみたいんだよな」
「遊太君……!」
『っぽい一般人』がこちらを向く。
ちょっ、戦闘中! 前! 前! ……ほんとRPGで良かったな。アクションゲームならやられてた。
「それ以前にお前は友達だ。友達と一緒にゲームして、楽しくないわけがないだろ」
「…………!」
『っぽい一般人』が再び俺に背を向ける。向ける直前にチラッと目の端に見えたものは……まあ、バグだと思っておこう。
「……行くぞ、遊太君! 魔物を倒して、村人を救うんだ!」
「おう!」
俺はそっと攻略サイトのページを閉じた。
あれだけ言ったんだ。せめてこのゲームくらいは自力で……いや、こいつと協力してクリアしてみせるさ。
改めて『コタツキリン』と対峙する俺ら二人。
さて、どうやってこいつを倒したものか……。
というか、いつの間にかこっち『毒』の状態異常を受けてる。『っぽい一般人』、毒受けたままで俺と話してたの? 沈んだよう見えたのって、落ち込んでたからじゃなくて毒だったからなんじゃないの?
「お前、いつの間に毒食らってんだよ。食らったなら言えよ」
「すまない、僕としたことが気づかなかった」
毒って気づかないものなのか……。
気づかないままHPだけ削られる毒……。なんかそう考えると怖いな。
てか、コタツとキリンのどこに毒の要素があるんだろう?
「やっかいなのは、あの防御だな。遊太君」
「ああ、そうだな」
相手を毒にして、自分は防御。嫌な戦い方をするボスだ。完全にボスの戦い方じゃない。
まあ、毒は毒消草でなんとかするとしても、問題はあの防御技だ。ロクなダメージが通らん。
どうしたものか……。
呪文でも使うか? コタツで丸くなってるから、氷の呪文はなんか効きそうにないな。
じゃあ、炎の呪文? いや、多分あいつ自身が炎属性なんだよな。今までのコタツの敵はそうだった。
コタツか……。コタツで丸くなったら、眠くなりそうだな。眠く…………そうだ!
「これだ!」
「どうした? 遊太君。何か良い案を思いついたか?」
「ああ! これなら、どうだぁ!」
俺は呪文を選択し、決定した。
【っぽい一般人は『単体型睡眠付与魔法』を唱えた】
相手を眠らせる呪文だ。
状態異常なんか今まで気にしたことなかった。結局、攻撃するんだ。いらないとすら思ってる。
効くかどうかは分からない。でも、やってみないと分からない。やれることはやって、そこから攻略法を探す。本来のゲーム攻略ってそういうもんだからな。
【コタツキリンは眠った】
「やったぜ! 効くもんだな!」
「よし! よくやったぞ、遊太君! 眠っている敵には、通常よりも多くダメージを与えられるぞ!」
あ、そうなの? 初耳だ。
とにかく、これはチャンスだ。俺はいつになくハイテンションで攻撃を選択した。
「いっけぇぇぇええええっ!!」
「うぉぉぉおおおおお!!」
【っぽい一般人の攻撃。クリティカルヒット。コタツキリンに915のダメージ。コタツキリンは倒れた】
「「よっしゃあぁぁぁあああああ!!!!」」
『っぽい一般人』がこちらを向き、拳を突き出してきた。俺も画面に拳を突き出し、それに応える。
手にはテレビ画面の感触しかなかったが、たしかに俺と『っぽい一般人』の心は一つになった。
【村人B「おおっ! 畑を荒らす魔物を倒してくれたのか」】
コタツキリンを倒すと、このサブクエを頼んできた村人Bがやってきた。こいつ、あの『魔獣の森』を抜けてきたのか……。強い村人である。
村人Bは感謝して『っぽい一般人』にアイテムを渡した。このサブクエの報酬だな。
【っぽい一般人は『木こりのオノ』を手に入れた】
え? こいつ木こりなの? 農家じゃないの?
「遊太君、やったな!」
「おう!」
サブクエをクリアした。
それで手に入れた新しい武器よりも、自力でクリアしたことによる高揚感の方が大きかった。
サブクエをクリアした俺たちは、再び『センプウライオン』を倒すべくダンジョンに向かった。
道中のザコ敵を倒し、適当に当てた扉の謎解きも部屋を探索してヒントから数字を導いて解いた。
いける! 今の俺たちなら、何でも出来る気がする! 俺たちが力を合わせたら勝てない敵なんかいない! 超えられない困難なんかない!
覚悟しろ! センプウライオン!
【センプウライオンの攻撃。大クリティカルヒット。っぽい一般人に670のダメージ。っぽい一般人は倒れた】
【GAME OVER】
「さ、攻略サイト攻略サイト」
「遊太君!」
俺たちのゲーム攻略はこれからだ!