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1ノ③

ケンジ達が村に向かった頃、目的地の村から少し離れた所にある郊外、その広場にて二人の男が立っていた。


一人は歳を重ねた大柄で白髪混じりの茶髪を後ろに流した厳つい顔をした男身に纏うのは使い込まれて大小様々な傷が目立つプレートアーマーに、鎧の下から見える肉体はかなり鍛え込まれている。手に斧槍-ハルバート-を握って肩に担いでいる。


もう一人は修繕された跡が確認できるレザーアーマーを着込み、身の丈ほどある大剣-グレートソード-を両手でしっかり握りしめて、前方の男に向かって構える少年と呼べるほど若い青年、背中まで伸ばした髪は針のようにも見える。

そして、二人とも腰のあたりから豊かな尻尾が生えていた。


男は斧槍を肩に担ぎ、余裕その物な表情で青年に軽口を叩く。


「さぁ、どっからでもかかってこい。動かなきゃ始まらんぞー?」


「言われなくたって、わかってらぁっ!!」


そんな男の軽口に噛み付く青年は、前に跳ぶように突撃し、大剣を振るう、男は半歩体をずらす事で青年の薙ぎ払いをかわし、そのまま斧槍の石突きで青年を突く。


「その程度っ!」


青年は振り下ろした大剣を横薙ぎに振るい、その遠心力に身を任せて男の攻撃を紙一重でかわす事に成功する。男も横薙ぎに振るわれた大剣を後ろに飛ぶ事で回避する。


「反応は及第点だな。だが、やっぱその剣に振り回されてんなぁ……なぁ、エッジよぉ?やっぱ得物を変える気は「無いっ!!」……だよなぁ。」


男が言いかけた言葉を遮るように叫ぶエッジと呼ばれた青年は構えを解かずに男を睨む。睨まれている男はどこ吹く風と言った感じで飄々としている。


「そんじゃ、続きをすると……んん?」


「あ、見つけたよ、二人とも!!」


男か続きをしようと斧槍を構えようとした瞬間、村の方向からやって来た赤茶色の髪と栗鼠のような大きな尻尾を持った少女が二人のいる所に走って向かって来ていた。

少女は息を切らせながらもなんとか息を整える。


「おいおい、モミジの嬢ちゃん。こんな所に来るなんて珍しいな?」


「……村の方で、なんかあったのか?」


「はぁ……はぁ……っ……じ、実は、ルプレちゃんがアフェルの実を採って帰って来たんだけど……村の近くで魔物に襲われたって……」


「魔物っ……!」


「こいつは穏やかじゃねぇな……が、帰って来たってこたぁルプレの奴は無事なんだろ?」



モミジからの報告に出た魔物と言う言葉を聞いてエッジの眉間に皺が寄り、モミジからさらに聞き出そうとするが、男に肩を叩かれやんわりと止められる。エッジは不承不承ながら押さえて男はモミジに説明をしてもらおうと続きを促した。


「う、うん。親切な旅人さん達に助けてもらったみたいなんだけどね……」


「どうしたんだ?モミジの嬢ちゃんにしちゃあ歯切れが悪いな、それ以外に問題があったってのか?」


そう言ってからモミジは口を噤んでしまう。何か言いにくい事があるのだろうかと男は思いつつも続きを促した。そんなモミジが発した言葉は、彼等にとてつもない衝撃を与える事となる。


「その、助けてくれた人達が、[人間]だったの………」


「「………何ぃぃぃぃぃっ!?!?!?」」


男二人の大絶叫が、郊外で響き渡るのであった。




視線、視線、視線。

そこかしこから感じる視線の多さに、ケンジは思わず嘆息する。


あの後村に到着したケンジ達を待っていたのは、いなくなったルプレを探しに向かおうとしていた村人達との遭遇。キョウがルプレをおろしていると、その中にいたルプレの姉-ラフィアと言って、ルプレと同じくウサギの耳を持った10代後半頃の女性で、ウェイトレスの格好をしていた-が半泣きでルプレを抱きしめていた。



「バカァ!心配したんだからっ!!」


「お、お姉ちゃん……ご、ごめんなさい……」


半泣きの姉の剣幕に妹も泣きそうになっている。それを見かねたケンジが手に持つ籠からアフェルの実を取り出すと二人の間を入る。


「まあまあ、妹さんも無事だったんだし、余り怒ってあげないでやってくれよ。それに折角の可愛い顔が台無しだぜ?美しいお嬢さん?」


「うつ……っ!?」


差し出されたアフェルの実とそれに続くキザなセリフに顔を赤くするラフィア。捜索隊の中にいる若い男衆達がケンジを睨みつけるが当のケンジはどこ吹く風と気にしていない。


「あ、あの野郎ぉ!我等がアイドルラフィアちゃんに色目を使いおってぇ……!!」


「なんてけしからん!そしてあんなに近づくなど、万死に値するぞ!」


「はぁ……はぁ、真っ赤になったラフィアたん可愛いなぁ……」


「誰かー!男の人呼んでーっ!?」



そんな騒がしくなる捜索隊の中から一人の老人がケンジ達の前に出てくる。


「ホッホッホ、中々に面白い御仁みたいじゃのう?」


「あ!お爺ちゃん!!」


「ルプレや、余り心配をかけさせないでおくれ?ワシやラフィアがどれだけ心配したか、わかるじゃろう?」


「ぅ……ごめんなさい……」


「よいよい、ルプレが無事なら、それで良いのじゃよ。」



ルプレが老人に気づきいて走り出し、老人もまたルプレに近づき、目の前に着くと優しく頭を撫でながら優しく諭した。

そうしてから老人はケンジとキョウの方へ顔を向けると、おもむろに頭を下げたのだ。


「旅のお方、孫娘を救っていただき本当に……本当にありがとうございます……!!」


「ちょ、ちょい待ち!爺さん、頭を上げてくれよ。むしろ、こっちが助かったんだからよ。」


「ふむ?……ならば、我が家に来られますかな?何やら困っているご様子。どうでしょうかの?」


その提案にケンジは渡りに船、といった顔になる。こちらとしてもこの世界がどんな所であるのか、知りたい事が山ほどあるのだ。


「いいのか?っとぉ……えっと?」


「失礼、名乗っておりませんでしたな?ワシはこのラビ族の族長をしておる、ピーターと言う。旅の者達よ、お主らの名を聞いてもよろしいかの?」


ウサギの耳を揺らしながら自己紹介をするピーター、おそらくラビ族と呼ばれるのがウサギ耳を持つ種族全体を指すのだろう。


「俺はケンジ、んでこっちのダンマリしてるのがキョウ。どっちもあんた達みたいな耳や尻尾は無いがな。ま、よろしく頼むぜ。」


耳と尻尾が無い。その一言で周りがざわつく、ピーターもその一言が気になったのか不思議そうにケンジに尋ねる。


「はて……?ケンジ殿達は[ビースティアン]では無いのですか?」


「そのビースティアンってのじゃあないな。ほれ」


そう言って自身の髪をかき分けて耳を見せる、先ほどまでざわついていた周囲が沈黙する、思わぬ反応に辺りを見回すケンジ、あのルプレさえも凝視する情況の中、誰かが声を発する。


「に…………」











「「「「「「「人間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」



その場にいたもの達全員の大絶叫が、ケンジ達の鼓膜に大ダメージを与える事となった。


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