1ノ②
二ヶ月も更新出来ずに申し訳ない、忘れていた訳ではございません!
それでは、ごゆっくりどうぞ。
目が覚めたケンジが初めに行ったのは、状況を把握する事と情報共有の為に全クルーのブリッジへの招集だった。
シュヴァーンそのものと言える管理頭脳であるオルロや、今この場にいるハコマルも(言語システム以外は)優秀であるが、全て機械頼りにしていては勘が鈍るとケンジは先代シュヴァーンキャプテンから耳にタコが出来るほど聞いて来た。それに、他の者の意見を聞くことでわかる事もある。
『しっかし、見事な自然でありますなぁ。自分は生まれてこの方70年ほど起動しているでありますが、ここまでの自然は始めて見ますぞ。』
「大方どっかの未開拓惑星って所だろうな。俺としちゃ政府が管理してない時点で最高だな。文明が発展してたならなお良し!!」
『流石キャプテン!全然ブレないわね!!っと、来たみたいよ。』
ブリッジの扉が開かれ、2人の男女が入ってくる。
男はケンジより頭2つほど背が高く、ケンジほどではないが整った顔立をしており髪は背中の辺りまで長く伸ばされていて、首元を赤いリボンで括っている。前髪も目元を隠すかのように伸びていた。
硬く結ばれた口元から表情を伺えない。
もう1人はグレーのツナギを来た若い女でケンジよりも背が低いが、ツナギの上からわかるスタイルの良さを伺える。髪は肩までの長さに切りそろえられていた。
「ちょっとキャプテンっ!あの運転はなんだったのよ!!格納庫の中ガールちゃんめちゃくちゃになってるじゃ無いのっ!!」
ケンジを見るなり指をさしてまくし立てる女、名をリョーコと言ってシュヴァーンのメカニックとして欠かせない存在である。
「そんなこた後でいいんだよ。リョーコ。船や探査用ドローンは壊れてないな?」
「後でいいって、あんたねぇ?………はぁ……まあいいわ。船もドローンも、故障なんてしてないわよ。いつでも使えるわ。で、一体何があったのよ?」
リョーコの話を遮り、本題へと切り出すケンジ。そんなケンジに疑問符を浮かべながらも答えるリョーコにケンジはニヤリと笑みを浮かべて答える。
「状況確認さ。オルロ、ドローンで周囲を調べてくれ。んで、外の様子を二人にも見せてやれ。」
『アイアイ、キャプテン。』
オルロがケンジのオーダーに答えると外を映すモニターが現れ、リョーコの表情は疑問から驚愕へと変わり、男も口をポカンと開けて呆けている。
「な、な、な、なんなのよこれは!?あたし達、さっきまで宇宙にいた筈じゃ……!?」
「そうだ、俺も気がついたのは今しがたで、時間もそれほど経ってねえのに宇宙から地上にいるなんざありえねぇ。しかも、オルロとハコマルのセンサーにも反応しなかったって事は。そらもう天変地異の前触れか……」
「キャプテンの追い求める冒険やお宝の匂い!って奴?」
「おうっ!!」
ケンジの気持ちのいい満面の笑みと元気な返事にため息をつくリョーコだが、彼女自身口元は微笑んでいた。
未だに謎だらけの状況の中、彼は恐れるどころかむしろこの状況を如何に楽しむべきかを考えている、そんなケンジを見てリョーコは変わらない彼に安心したのだ。
オルロやハコマル、そして男も似たようなあきれたような、そして嬉しそうな顔をしていた。そんな事など露知らず、ケンジはオルロに声をかける。
「さってと……ドローン放って周囲を調べてるが、どうなんだ?外は人間が活動できるのか。」
『んっと、少し待ってね?』
オルロの周囲に次々と浮かび上がるモニター。そこにはシュヴァーンの周囲の森などが映し出され、端には何かを数値化したグラフが表示されている。
『大気成分は人類住居可能惑星と同じくらいね、有毒物質、有害物質共に無し!外に出た途端皮膚が溶け出したり、謎のウイルスにかかってゾンビになったり目や耳から吐血したりする事は無いわ。よかったわねキャプテン、これで外に出ても暴れまわれるわね!!』
「そこに関しちゃ同意するが、なんでそんなに具体的なんだ?」
オルロの妙に具体的な例えに苦笑いを浮かべながら彼女が展開していくモニターの1つ1つを見ていると、後ろから肩を叩かれた。振り向けば、シュヴァーンのもう一人のクルーである男がケンジを見下ろしながら一枚のモニターを指差していた。
「どうした?キョウ、何かそのモニターに映ってるのか?」
「………ん。」
キョウと呼ばれた男が指差しているモニターを全員が目を向けると、そこには明らかに人の手が加えられた道が広がっており、さらにその先には街とは言えないが家屋がある。
まさに中世やファンタジーなどで御馴染みの村が画面内に映し出されていた。
やはりと言うべきか、これに対し目を輝かせているキャプテンは嬉しそうにキョウの肩をバシバシと叩く。
「よくやったなキョウ!でかしたぞっ!!」
見つけた本人であるキョウは褒められて嬉しいのか、それとも強く叩かれてるのが鬱陶しいのか、なんとも言えない表情をしている。
そんなキョウを知ってか知らずか、オルロは村が映るモニターを前面に大きく展開し、シュヴァーンからここまでの距離を計測し始めた。
『この村までの距離なら徒歩でも長くかからないわね、どうするの、キャプテン。少しココで様子見でもする?』
計算を終えたオルロがケンジに尋ねる。尋ねられたケンジはオルロに対して不敵な笑みを見せる。この顔をした時のケンジが考えている事は長い付き合いがある者なら何を考えているのか、丸わかりだ。
「様子見だぁ?そんな事しねぇよ。俺がしたい事なんざ、みんなわかってんだろ?」
そう言って席を立つケンジ。その顔にはデカデカと「冒険」という二文字が浮かび、高らかに宣言した。
「お前達!すぐに探索するぞ!!オルロはこのまま周辺のサーチ、リョーコは緊急時の対応の為ココで待機。ハコマルは船の護衛に、キョウは俺と一緒に村に向かうぞ。いいな!」
「「『『了解!!」」』』
「ふぅーむ……体にかかる重力も人類居住惑星と体感的には変わらずか。」
探索の為の装備-キョウは腰のベルトに差しているグリップ状の物体以外はほとんど変わらず、ケンジはサングラスの様なデータ受信端末をかけている-を整えたケンジとキョウはシュヴァーンから降り立つと、大地を踏みしめ土の感触を確かめる。
人の手が加えられていない、天然の自然を目にするのはこれが初めてではない。
だが、ケンジ達がこれまで冒険して来た星々は全て過酷な環境により人が住めなくなった星ばかり。この様な人と自然の共存する星はケンジ達にとって始めての星である。
そんな未知の世界にワクワクしながら、ケンジとキョウはオルロが記録した村まで行く道のデータをに向かって進み出す。
「………歩きにくい。」
「そら、動物くらいしか通らない道だからだろ?データによるとこっから真っ直ぐ歩いて行けば人の通る道に着く計算だ。だから、文句言わずにキリキリ歩けよー?」
「………ん。」
ケンジからの答えにうなづくキョウ、このまま進めば問題なく目的地に着く。と思い始めた瞬間、キョウが足を止めた。そしてそのまま周りを見渡し始めるとケンジに対してこう呟いた。
「……悲鳴、助けに行く。」
「は?えっ?おいぃっ!?」
ケンジからの答えを聞かずに走り出すキョウ、慌ててケンジもキョウの後を追いかけて行くのだった。
先ほどとは違い、鬱蒼とした獣道を走り抜けるキョウ、そして今度は逆に彼を追う事になったケンジ。
走り出して数分とかからずに獣道の出口が見え、そこからキョウが飛び出し、後を追いかけていたケンジが数秒遅れで到着し、見たものはこれまでの冒険の中では見慣れぬ物だった。
身長3メートル程の巨体に子供の体程の太さの腕を持った鬼のような怪物が、小さな女の子を襲いかかろうとしていたのだ。そこに先行していたキョウが怪物に向かって助走をつけて飛び蹴りを放ち、怪物の顔面に直撃する。
飛び蹴りの直撃を受けた怪物は、不意打ちを食らったからか、顔面を押さえてたたらを踏み、後ずさるが……どうやら余り効いていないようだ。むしろ怒らせたようで顔を押さえていた手を離すと、目は血走り、眉間に皺を寄せて自らを蹴飛ばした存在-キョウ-を睨みつける。
それがキョウが庇うように後ろにいる少女が小さく悲鳴をあげる、おそらくキョウの聞こえた悲鳴とやらはこの少女の物だろう。恐らくはこのあたりで食べられる果実があるのか、空の籠を落として腰を抜かしている。
麻の布を仕立てた服を着た、髪を肩の辺りで切り揃えた少女、歴史の風景画や教科書などで見かける服装だが、ケンジの目に留まったのは服ではなく、彼女の“耳”であった。
頭頂部あたりから長く伸びている二対の“耳”、それはまごう事なく-
「うさ耳、だと……!?」
ふわふわの毛に覆われた長い耳はまさにうさぎの耳。思わすケンジは作り物か?と疑うも直ぐにその疑問は晴れる事となる。
風もないのにふるふると震える耳は少女の恐怖を表しているかの様だ、そんな少女を見たケンジはかけていたデータ端末を取って言葉が通じなかったらどうするかと考えながら少女に向けて話しかけた。
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
「ひゅいっ!?だ、だれ!?」
「通りすがりのお兄さんさ、そこは危ねぇから下がってな。」
言葉は通じると、内心ホッとしながら少女を保護する。怪物の方を見据えると少女は既に眼中になく自身に攻撃したキョウに威嚇している。
「奴さん、どうやらお前さんに夢中らしい。ちょうどいいからここらの原生生物の危険度調査と洒落込もう。行けるな、キョウ?」
「……アイアイ、キャプテン。」
その言葉と同時に、怪物はキョウにその豪腕を振り下ろす。振り下ろされた豪腕に触れれば最後、大怪我では済まなかっただろう。
「当たれば」の話だった場合だが。
キョウは怪物の剛腕が振り下ろされる直前に大地を蹴り上げ跳び上がり、軽やかに怪物の肩を踏み越えて背後に着地する。そのまま腰に差していたグリップを引き抜くとそのまま怪物へと走り出す。
怪物が背後にいる標的に振り返った瞬間、キョウの持つグリップから光の粒子が放たれ、光子は形を変え鋭く長くなると鋭利な剣となり、すれ違い様に光る剣を振り下ろす。
光の刃が消え去ると怪物が倒れ臥したのだった。
キョウの一撃を受けて倒れ臥す怪物は、次の瞬間には光の泡となり亡骸が消え去っていた。そんな幻想的とも言える光景にケンジは目を疑った。
怪物の存在そのものにも驚きだが、泡の様な物になって消えたのだ。物理法則もあったものじゃない。
(ま、それについてはオルロに任せりゃいいか。今もデータは送ってるし、それよりも……)
ケンジは先ほど下がらせたウサギの耳を持つ少女を見る。
さっきまでの恐怖は何処に行ったのか、キラキラと目を輝かせてキョウを見ている。
そんな姿を微笑ましく思いながら、ケンジは少女に声をかける。
「どうやら、大丈夫みたいだな。お嬢ちゃん」
「あの、その、助けてくれてありがとう!おじちゃん!!」
少女のおじちゃん呼びに思わずコケそうになるケンジ、すぐに立て直して突っ込んでいく。
「おじちゃんじゃなくて、お兄さんな!これでもまだ二十代なんだ。いいな?」
「? うん、わかったー!」
「本当にわかってんのかねぇ……っと、お疲れさん。」
「………ん。」
少女の元気な返事に苦笑するケンジにグリップ-光子剣-をベルトに戻すキョウがやって来る。あいも変わらず無表情に近いが、少女を見るとしゃがんで目線を合わしながらゆっくりと喋り始める。
「大丈夫、だった……?」
「うん!お兄ちゃん、助けてくれてありがとうっ!!」
「ん、よかった……。」
ケンジにはキョウの髪で目元が見えなかったが、キョウが少女を優しく見つめているように見えたのだった。
「それじゃあ、お兄ちゃん達は迷子だったのー?」
「まあ、似たようなモンだなー。で、ウロウロしてたらお嬢ちゃんをその赤毛のお兄ちゃんが見つけたって訳だ。」
実際には迷子と言う生易しい物ではなく漂流と言えなくも無いが概ね同意する。迷子も漂流もケンジにとっては同じなのだ。
そして、うさぎの耳を持つ少女ことルプレは自身の姉に頼まれた果実を採りに来たらしく、子供達がよく通る小道を通って近道をしようとして怪物-ルプレが言うには魔物と呼ばれているらしい-に出くわしたらしい。そこを悲鳴を聞きつけたキョウが駆け付けたのだ。
そして現在、ケンジ達は村まで案内してもらうついでにルプレのおつかいを手伝う事にしたのだ。幸い、果実の生っている木は近くだった為果実は直ぐに採取出来たので村に向かっている。
幼子と大人の足幅の差を考慮してルプレをキョウが肩車をし、ケンジは果実の入った籠を手に持っている。
(しっかし、『アフェルの実」ねぇ……)
籠の中に入った果実を見る。そこには鮮やかな赤色が美味しそうな果実-自分達の知るリンゴに似ている-が籠いっぱいに詰まっており、ルプレが言うにはそのまま食べてもいいし、ジャムやパイの材料にもなる甘酸っぱい果実との事で、ますます自分達の知るリンゴに見える。
(似たような種類なのかねぇ……まぁそこはオルロに任せるとするか。)
しかし、ケンジは深く考えずに頼れる相棒に丸投げをする。そういった科学的、専門的な事を素人の自分が考えても答えが見つかる筈もない。
それなら仲間に任せて自分はただ、自分の道を突き進む。これまでもそうして来たし、これからもそれしか出来ないだろう。
そう結論付けた所で、ルプレが指を指して二人に告げる。
「ほら!あそこが私たちの村だよ!!」
木製の家屋が並んだ小さな村、のどかで何も無さそうな村にしか見えない。しかしケンジにはその村が金銀宝石よりも輝いて見えるのであった。
次話も出来次第投稿させていただきます、読了ありがとうございました。